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26 空気を読むとはこういう事さ

おかしなものですが、最近はめっきり自転車操業です。

あれですね、30話前後でちょっと歩みが遅くなったところがあります。

挑戦というのは常に難しいものであると痛感しますね。



「……判りました。ですが、本当にドーンが使えるのですか?」

「キャスレーヌ、今は私情を挟んでいる場合ではないのが判らないのか? 君はそこまで使えない人材であると?」

「まさか、私をなんだとお思いですの?

 私は、ただ公爵家の温情で得た二つ名などにいかほどの意味があるのかを問いたいと言う疑問を持っているだけの話ですわ」

 その瞬間、周囲の空気が一気に冷え固まったことに気が付いたのは何人いたのだろうか?

 ついでに言えば、それに気が付かなかったのはキャスレーヌ女教師とその場に居なかった人達だったりするのは……言うまでもないだろう。

「ははは……だから君には二つ名がないのではないかな?」

 この場の責任者の一人である学園都市関係者は、確かに二つ名持ちのギルド所属だったりするが。

 表情が色々な意味で何か言いたくなる様な感じになっているのだが、それにキャスレーヌが気が付くことは……まあ、あるわけもなく。

「言いますけど、私に二つ名がないのは別に欲しいと思ったわけではないからですわ。

 そもそも、二つ名など恥ずかしいものが多いじゃありませんの!」

 欲しいと思わなかったと言うのは、ある程度は嘘ではないだろう。

 だが、実際の所を言えばキャスレーヌの功績からすると、そろそろ二つ名を持っていてもおかしくはなかったし。逆に、今の時点で持っていないのは少し問題なのではないだろうかとギルドで噂になり始めるくらいだ。

 実力的にも、所属暦的にも。

 ギルドに所属し、一定以上の功績を収めるか罰則を受けないまでも功績もなく一定期間所属している場合。ある者は別のギルドに席を移すか、大した事のないおざなりの二つ名を得る事がある。

「君、本当に実力はあるのかね?」

 ギルドでも、二つ名については様々な解釈がされている。

 確かに、あえて欲しいと思わずにギルドを点々とするものも居るが、そういう場合には自然と別の意味での二つ名がついたりする事もある。

 二つ名とは、ギルドが褒章的に与える場合もあるが人の中で囁かれてつく場合もあるのだ。

 そう言う意味からすると、名無し扱いとなる二つ名を持たない者は実の所。数は多いが肩身が狭く感じる者も少なくはないのだ。

 何しろ、まだまだひよっ子扱いされたとしても文句を言えないのだから。

「当然ですわ、この分野に置いて右に出る者はないと自負していますのよ」

 とは言っても、キャスレーヌの研究対象は「解析」だ。

 解析とはずばり「解析そのもの」だ。特定の物ではなく、解析を行うと言う事実に対してのみ発揮される。

 ちなみに、特定の物質や現象の場合は「解析」ではなく「研究」となる。

 カーラは研究者だが、実の所を言えば「商売の研究」と言うのが正しい。

 門戸が狭いのではなく、その分野に興味を示す絶対数が少ないからだと言う意味からすれば、確かにキャスレーヌの右に出る者は数が少ないだろう。絶対ないとは言わないが。

「言っておくが、今回の件に関してはちんたらと時間をかけてもらうわけにはいかない事は存じているか?」

 あえて先に述べておくが、あまり興味をもたれない最大の理由が一つある。

「……ええ、ですから今回は秘密道具を持参してきましたの。この道具があれば……」

 解析をされて困る者は、基本的に解析から遠い所に逃亡するのが人の心理と言うものだと言う事。

 つまり、後ろ暗いものは解析から逃れる為に解析に近づこうとはしないし。加えて、何か問題が起きた時に関わっているのではないかと取られても不思議ではない。と言うのも、盗賊関係では使える物が他の関係者より圧倒的に多いからだ。

 冒険者の中でも使えれば便利だからと言う事で取得している者も皆無ではないが、やはり前述の理由からか表立って使える事を口にする者はいない。暗黙の了解だからだ。

「前置きはいい。君はやるべき事を早急に行ってくれればそれでいい、さもなければ対象の中に居る人の命に関わることとなる」

 言われて、キャスレーヌの顔が本人には判る程度に不機嫌さを主張していた。

 だが、ここで怒鳴った所で何の意味もない事を知っている。

 理由の一つとしては、例えここでキャスレーヌが不愉快のあまり話を断ったとしても。確かに、キャスレーヌほどではないが何とか出来るかも知れない人物が学園都市にいないわけではないと言う事。

 もう一つは、生活費の問題でキャスレーヌにはこの話を断るわけにはいかない事がある。

「……もちろん、承知しておりますわ。ですが」

「反論は認めない。

 マルグリット・キャスレーヌ、君はこれから『夜明』と『女中王』と共に対象地域への調査を依頼する。

 二人は君にとって助手と言うよりは警護の意味合いが強いので二人の邪魔には決してならぬ様、強く要請する。加えて、人命を最優先とするが二人が危険と判断した場合には即時撤退及び防御しつつ対応策の検討を行う様に」

「ちょっと待ってください、私の「解析」は繊細さを要求されるのですよ!

 他の者の事など、とても私には構っている余裕など……!」

「反論は認めないと、言ったはずだ」

 これで話は終わりだとばかりに、男は……この場の決定権を持っているギルド上層部の男は不機嫌そうにも見える顔をキャスレーヌから外す。

「二人には無茶な依頼をしてしまい、申し訳なく思う。

 『女中王』は他の依頼中であったにも関わらずお詫び申し上げる、この件に関する全ての責任は学園都市理事会から違約金及び保証金を出させていただく」

「仕方がありません、緊急招集に応じるのは二つ名持ちの上級の義務であり責務。お断りするにはそれなりの理由も必要ですし、それに命に関わる様な依頼ではない事が幸運であると言うべきでしょう」

 何故か、手にはデッキブラシを持っているのは眼鏡をかけて髪はひっつめたものを布で包んでいる。エプロンをしてロングのワンピースを着た「見かけオールドミス」といった感じだ。恐らく、彼女を見せて「これがオールドミスです」と説明をして納得しない人物は皆無だろうと思われる程度のオールドミスだ。

 本来、ギルドとはお金を持って派遣される「仕事」だ。キャスレーヌが学園都市の教職員をしているのもそうだし、『女中王』と呼ばれた彼女も別の仕事をしていたのはギルドのネットワークで少々の権力を持てば誰でも知る事が出来る。もっとも、その「少々の権力」を握るまでがなかなか骨が折れるのだが。

「特に『夜明』には本当に申し訳ない、取り急ぎ学園都市理事会では今期の単位は保障させていただく。また、これまでの功績の事も考えて特別褒賞も検討していると通達が出ている」

 ドーンは、僅かに首を前に傾けた様に見えた。

 が、それだけで会話が成立したのか責任者の男は少しほっとした様だ。

 キャスレーヌにしてみれば、二つ名持ちと関わる事は多くないと思っているので勘違いしている部分もあるとして、まさしくオールドミスのメイドと学園都市一の変人を相手に一緒に来てもらう事は不本意だ。

 確かに、どちらもそれなりに名が通っているものの。キャスレーヌは実地に出る事が基本的にないので、そういう意味からも机上の空論でしか物事を知らないし、情報でしか知らないので眉唾な報告だろうと思っている。

「ごきげんよう『夜明』後無沙汰しております」

 再び、僅かに首を動かしたようにしか見えないドーンを見て『女中王』は少し目を見張り。

「あなたがおっしゃるのでしたら、少し警戒をするべきかも知れませんね」

 ぎゅっとデッキブラシを握り締め、顔を緊張させているのが見えた。

 キャスレーヌからしてみれば、あの僅かな間に一体どんなやり取りがあったのか……そもそも、ドーンは会話をしたのかどうかすら判らない。

「キャスレーヌ、貴方には理解出来ない様ですね……ああ、まあそういう事もございますわね。

 愚図愚図していないで、そろそろ参りますよ」

「ちょ、待ちなさい! このチームのリーダーは私よ! その私を無視するなんていい度胸……?」

 キャスレーヌの言葉などどこ吹く風とばかりに、何故か男前の仕草で『女中王』がドーンに手を差し伸べ。

 ドーンは、まるで打ち合わせでもしていたかの様な優雅な仕草でその手を載せる。

 まるで、二人の姿だけを切り取ったら今にも舞踏会で踊りでもするかの様な錯覚に陥りそうになるが……ここはお城でもなければ二人はオールドミスなメイドと見える範囲がほぼ長衣のずんぐりむっくりな二人だ。

 はっきり言って、妖しい事この上ない。

 キャスレーヌは己の不運に天を仰ぎたくなったが、周囲の視線の意味は判らぬまま晒されているのも放置されて置いてきぼりにされるのも我慢ならなかったので大人しく後を追いかけるしかない。

「待ちなさいって、言ってるでしょう!」

「愚図愚図しているからそうなるのです、もう少し良い大人なんですから自立なさってはいかがですか」

 淡々と言われる言葉がいちいちぐさぐさと突き刺さるのは、彼女の言っている事が事実だからに違いない。

 まるで下に見られているかの様、実際に下に見られているのだろう。

 確かに、諸事情があってあまり外に出る様な依頼を受けて来なかったのは自分自身の選択ミスである事は反論しないが。だからと言って、こうもあからさまな蔑みの視線を浴びる理由は全く想像がつかない。

「なんですって!」

「貴方も全く事情を知らないと言うわけではないでしょう、少なくともここへ至るまでに事情の一つや二つは聞いている筈です。そもそも、仕事を始めると言うのになんて格好をしているのですか」

「ぐっ……!」

 確かに、一見すると野暮ったく見えるドーンや『女中王』に比べるとキャスレーヌはスタイリッシュだ。

 魔道系教職員の証であるマントは少し改造してあって動きやすさが重視となっているし、素材もぎりぎり限界まで透けない程度の生地に変えてある。長さだって己のスタイルを引き立たせる為に計算されているし、足元などピンヒールで、こればかりは少々失敗したかとキャスレーヌ本人だとて思っている。

「街中ならばともかく、これから実行型依頼を受ける者だとは思えませんね」

 何より、数メートル離れても簡単にわかってしまう香水の匂いはどこに居ても違和感だ。

「これは私のポリシーよ!」

「だからなんです?」

「あんた達は私が「解析」を行っている間、何ら不測の事態が起きないように私を守っていればそれでいいのよ! 判った!」

 疑問系ですらないヒステリックな声に、流石に至近距離ではないとは言っても『女中王』のこめかみが僅かに動いたことをキャスレーヌは気が付かなかった。

「言っておきますが、私と『夜明』が受けたのは貴方の護衛なんかじゃありませんから。あしからず」

「はあっ? 私はこの事態の要よ! その私を守るつもりがないなんて、どういう事よ!」

「当たり前じゃないですか、貴方程度の実力を持つ者は他にもいます。

 たまたま、今回は即時対応出来る近場で動かせるのが貴方だっただけの話です。

 先程も『紫電腕』が言っていましたが、別にここで貴方が一人で帰っても私達は何も困らないんですよ? 貴方がよくやっている様な「姑息な手段」は今回は使えませんし……そんなものに頼らなければならないのですから、貴方も相当大変だとご同情申し上げ……そうですね、『夜明』の仰るとおりです。

 無駄な時間は切り捨てて、依頼を果たしましょう」


キャスレーヌがヒステリックなのは、借金取りに結構な勢いで追われているからです。

恐らく、今の彼女が退職しても退職金と全額引き換えにしてもまだ足りないくらいですが借金取りがマイナス分は涙を飲んで諦めるという事になるので取立てが厳しいのです。とは言っても、バブル時の日本の暴力団ほどはひどくありませんが。

こういう大人になっちゃいけませんよ、と言う良い見本かも知れません。


というわけで、今回の一言は商工ギルドの長から。

「数字を出せない者に興味はない」

男前で記述はないが、実は40代で子持ち人妻です。

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