18 家族といえば急展開
※ 今回も同性愛者に割りと批判的な文章が続きます。が、まだ嵐の前の静けさです。とは言いますが、一応「BL好きに喧嘩売ってるのかぁっ!」と言う血圧とテンション高めの方は回れ右を推奨します。
名前のない新キャラが数人出てきます。
モブキャラも出てきます。
一般人の感覚だと絶望するかも知れません。
ちなみに、温度差の地域の話については完全なる経験と勘的想像ですので万が一にでもどこかで聞いた事がある話だとしたら…どっかでそういうのを聞いた事があるのかもしれません。
「弟が一人いるのよね」
マリアの背景をある程度知っている身の上としては、少々どころではなく居た堪れない。
南方領は基本、恋愛に対して甘受な所があるので下ネタどころか残虐話だろうがドンと来いな所があるが。何もクラスメイトは全員が南方領出身と言うわけではなく北邦領から来ている子も居るのだ。しかも、北邦領では恋愛は密かに育んだりする個別主義な所があるので肩身が狭いは身の置き所がないわ、自分達もしくは他国の領主の恋愛話などを聞かされて気絶寸前と言うのも一度や二度ではない。
「あのオッサン、うちの母親を孕ませて自分の国に拉致った挙句『君への愛の証に正妃として女性の側室はもう取らないことにする』とか抜かしたくせに、振られた腹いせか何か知らないけど最終的に別の女を孕ませたのよ、言ってる事もやってる事も無茶苦茶よね」
ちなみに、よく知らなかったマリアの母親は北邦領のとある王家の実情を知って当時居た側室を男女問わず再起不能なほどの状態にした挙句国王を見事なアッパーカットでふっとばし、とっとと帰国したと言う。
今でも、マリアの母親は伝説として語り継がれている。何をしたのかは誰一人として黙して語らない。
通常ならば、マリアは南方の教えにそむいた結果としての証拠となるのだが……相手が元々、女も男も囲いまくっていると言う時点で不問となった。逆に、後宮壊滅の上に国王をアッパーカットで熨した事で英雄扱いだ。
が、問題はその後に起こる。
「……マリア、ちょっと生々しくない?」
何かの新しい扉を開いてしまったらしい国王は、執拗にマリア親子の信者となってしまったのだ。
マリアの母にして見れば「粘着質で鬱陶しくて邪魔くさくてうざくて神経に障る程度に潰したくなるのよね」との事だが、一族郎党大変残念がった所に「外交問題」は非常に重い命題だった。
金と資材と権力の問題さえなければ、今頃は後顧の憂い無く綺麗さっぱり存在を消してやったのに……と言うのが一族の総意だというのだから団結力は強い。
その事もあって南方領の結束はより硬くなったのだから世の中、何が起こるか判ったものではない。
「あら、嫌なら出て行ってくれてもいいのよ? レン・ブランドン」
「どうして僕が? ドーンが居るのに?」
怖っ! この二人怖っ!
クラスメイトの正しい視線の意味を知っているのはドーンだけだったが、改善する気は全く無いらしい。
レンは室内に居るのが同じクラスメイトだけの場合だと恐らく素でドーンにひっついているし、マリアも素のレンが居ると言う事は自分の落とす爆弾が外部に漏れる可能性が低いことは判ってやっているのだから性質が悪い。とは言っても、可能性が低いだけでゼロではないし、そのゼロではない可能性の為に報復しやすいからと言う実に素直な理由からクラスメイトは基本的に口をつぐむ。
沈黙は金とは、よく言ったものだ。
「で」
話が進まないと踏んだドーンは、マリアに続きを促す。
こうなると、ある程度の話を聞かないとマリアは梃子でも動かないだろうし。マリアに関わっているとレンの機嫌が悪くなるのだからドーンは一番の被害者だ。正直、面倒くさい。
「ああ、それでうちの弟が今期から学園都市に来てるのよ」
ちなみに理由が「国王の注目を一身に浴びているたった一人のお姉様に並び立つ為」と言うのだから、あの国は色々な意味でおかしい。おかしすぎる。今以上におかしくなられてもこちらが困るだけなのに! と言うのがマリアの本音だが、マリアの母親は「馬鹿につける薬はないわ」と言って黙秘権を行使している。
娘を信頼していると言えば聞こえがよいが、単に面倒くさいからだと言う事を実の娘はよく理解していた。
「王子……?」
「まあね、王子と言っても何番目かは知らないけど……あたし以外に女の子はいないし」
そうか、あれか。
奇しくも、クラスの心がマリアを除いて一つになった瞬間だった。
特に大した話ではなく、姉御肌なマリアに金髪に蒼の瞳の将来有望そうな小さな男の子がマリアの前に現れて……現れただけではなく突然フライング・ボディ・アタックを仕掛けて、けれど避けられてあっさり床とお友達になる羽目になったのだ。
マリアに言わせれば「知らない男にいきなり飛び掛られて自衛しなくて、あたしの身に何かあったら責任とってくれますの?」と言い切ったのだから強い。強かに顔から飛び込んだ男の子は鼻血を出して大騒ぎになったりもしたのだが、マリアを知っている者からすれば「超無謀」だし、マリアを知らない者からすれば「可哀想」と同情票を買う事も出来ただろう。ただ、飛び掛りながら「始めまして、お姉様!」とか言う台詞が無ければ状況は違っただろう。
当然、マリアはそれが腹違いの弟である事を想像していた。仮に血縁的なつながりが全く無かったとしても……北邦領は自然の厳しさから出生率はさほど高くない上に大人であろうと油断していると一般市民は即効で死ぬ事も珍しくない。その事もあって子供は国の保護下にあり、集められた子供の中から同性愛者の子供として引き取られてゆく事もまた、珍しくないのだ。
華々しい血の花を撒き散らした少年は同情と引き換えに得体の知れない恐怖心をクラスメイト達に与えた。
幸か不幸か、今みたいにレン・ブランドンが本性を表している真っ只中で起きた出来事なだけに他に見ていた者は居なかった。クラスメイト全員が誰に何を言われる事もなく自動的に「お口チャック」を心に定めたと言う。
「北邦の文化は基本個別主義。別に誰が何をしようかなんて事を追求するのは無粋だし、かと言って誘われたりして断るのもまた無粋、つまり着かず離れずってのが基本でね。でも色物や色事にはそれはそれは幼い稚児の頃から徹底的に仕込まれるそうなのよ」
あたしは幸い、北邦には住むほどはいなかったし全員ぶちのめしたから大丈夫だったけど?
でも、流石にあっちで育っていたらそうも言ってられなかったかも知れないわね。別に女の子は嫌いじゃないけど、仕込み関係は全員ある程度の年が行った人に限定されるらしいから。
マリアはマリアの母と並んで国王のお気に入りだ、出来れば今でも王妃や王女として君臨して欲しいと会う度に言っているらしい……君臨と言うあたりで基本的に間違っている気がしてならないのだが。
「淑女たるもの、もう少し物言いと言うものに……判ったよ、ドーン」
クラスの総意代表として「せめてオブラートに包め」と言おうとしたレンだったが、それはドーンの片手によって止められていた。
ドーンにしてみれば「いちいち言葉遣いごときで話を中断されて終わるのが遅れるのは嫌」と言う意思表示だったりするのだから微妙な所だ。
「流石にねえ……幾ら半分だけ血の繋がった弟とは言っても、北邦の英才教育を受けて育ったわけじゃない? その割りに気さくな所もあるから、要するに子供なのよねえって言う感じ? なんか変な噂しこたまねじ込まれて育ちましたって感じなのよ」
だが、そんなわが道を行くを地で行くマリアにも弟を切り捨てるに切り捨てられない事情と言うものは存在する……父親と同じで権力と言うものがかかっているからだ。
「ま、おかげでセレブ気分をたっぷり味わったのは楽しかったけどね!」
どうやら、弟の金で豪遊しまくったらしい。本人に言わせれば「別にやれとは誰も言ってないわよ?」と言う事だが結果的に見れば実の弟に貢がせた姉の図の出来上がりだ、本人は気にしてないのでどうでも良いみたいだが。
「でもねえ……やっぱり北邦の教育に生まれたときからどっぷり漬かっていたもんだから勝手が違うんでしょうね、最近ちょっと悩んでるとか言われちゃったのよね」
こんなに贅沢させて貰っているんだから、少しくらいは姉らしく太っ腹に悩みの一つや二つ聞いてあげようじゃないの!
と、珍しく上から目線に殊勝な事を思ったらしい。
気が大きくなっていたと言うのもあるのだろう、それでも思った上に実行した時点で十分だろう。
「でもねえ……あたしにしては、ちょっと失敗したのよね」
他人の悩みは、深刻であればあるほど半分程度の確立で馬鹿馬鹿しい上にどうにもならないものだ。
かく言うこの場合も、マリアは心の底から思った……ママもこんな感じで孕まされたのかしら? と。
「前にも言った気はするけど、北邦の恋愛ってこっそりが基本なのよね。まあ、国民性? 気候や風土の問題もあるとは思うけど……あんな息も凍るような国でオープンな恋愛は流石に面倒だわ。手間隙だけかかっていただけないもの、恋愛はノリと勢いも大事なんだし」
それが理由かどうかはさて置いて、その点にだけは同情しても良いとマリアは続けた。
確かに、うっかり薄着で外に出て朝になったら氷の彫像が一体出来上がり。なんて状況で恋愛に浮かれるのは命がけと言うより愚かとまで言っても良いだろう。
その為、割と北邦の建物は地下のある部屋が多い。その方が気温が安定しやすいからと言うのが最大の理由だ。
大体は入り口のある1階が備蓄の為のスペースで、金がある人は地下に寝起きしている事もある。2階以上で寝るなんて事は暖が取れないと言う事から石造りでもない限り無理難題だ。
流石にマリアの父親は国王なので石造りのお城の、文字通り王様をやっているので地下に寝起きする様な事はない。ある意味贅沢な事に地下は食糧倉庫になっている。
「で、その地下で乳繰り合う馬鹿が結構普通にデートスポットになっててね……」
デートスポットの食料庫の飯なんて食いたくねえ。北邦、恐るべし!
クラスメイトの一部を除いた生徒達の心が一つになった瞬間だった。
流石にデートスポットになっていると言うのは初耳だった様だが、可能性としてはあり得なくはないので北邦出身と判るものはあからさまに反応しない事で余計に目立った。
一部を除いた生徒達が無言で「こいつ、そういう奴かよ…!」的視線の会話をしていたりするが、幸いな事に騒ぎにはならなかったので話しは進む。
後日、当然のことながらこの時の出来事が誰かの人生を変えたり変えなかったりするが……まあ、それはそれとして。
「王族ではあるんだから、そう言うのも教育受けるわけじゃない?」
意外と低年齢で受けるんですね、えいさいきょういく……何の教育かは聞きたくない、聞きたくない。
一部のクラスメイトは絶望感満載だ。
が、一部の女子生徒が好奇心に顔を輝かせているのを隠しきれないのも……幸いな事に大多数の男子生徒が絶望感のどつぼに嵌っている状態では気が付かなかった。
「流石にね、幾ら北邦の文化って言っても限度があるじゃない? 生まれてから死ぬまで北邦だけで済むならともかく、ある程度は外に出て顔を売っておかなくちゃいけないわけじゃない、あたしもそうだけど。
で、国外に留学する王侯貴族ってどこもそうだと思うけど、英才教育の始まりは無茶苦茶早いのよ。こっちは直でやる様な事はある程度大きくなってからって風潮は流石にあるけど、その直前までは結構仕込まれるし?」
南方領もかよ! てか、何をだよ!
一部の生徒は心の中で滂沱の涙を流しつつ「お願い、もう楽にしてください」と空ろな目をしていたりもするのだが、他の生徒の誰かにんな事を気にかける余裕があるわけでもなく。
当然のことながら、そんな生徒諸君の状況を気が付いていたとしても余裕でマリアは一蹴していただろう。
余談だが、ドーンはやはり常と変わらず表情があるんだかないんだか判らない感じだし、脇に忠犬番犬よろしくレンは目が笑っていないスタイルを崩すことなく「ドーンを」見つめている。
ある意味、人生が一環していてブレがない。
ええ、いっそ清々しささえ感じるのは所詮は金持ちの美形だからだろうか?
「それでね、弟が言うのよ……『もしかして男が男を好きになるのっておかしいの?』って」
マリアの実母、実父、半弟、全員が超個性的です。
実父はマリアの実母と会うまではよく言えば典型的な北邦の小国王に過ぎませんでしたが新しい扉を開いてからは色々な意味で超飛躍。色んな意味で歴史に名を残す人物となりました、一部地域に限って。
マリアの実母が最終的に南方で許されたのは、英雄的扱いとか教えの関係もそうですが北邦に経済的効果を繋いだ事も理由の一つです。
所詮は金と権力か…。
2012/07/08 一か所だけ修正しました