17 マリア・ビルカと言う女
今回は新キャラ投入。
※ 数話ほど男性同士の同性愛者に対する批判的文章が出てくる事になります。不快感を覚える方は数話ほど飛ばしてください。それでも見てなおかつ喧嘩を売ってくる危害のある方は、どうぞ実行して下さい。反応するかどうかは別ですが。
彼女は我々の世界の聖母の名を持つ女。
ちなみにビルカについては何か考えたわけではなく、恐らく彼女はそう言う人物なのでしょう。
ちなみに、地域によって年齢の開始が違うとか学園都市には一定年齢以上にならないと入れないとかはありますが、かと言って上限もなければ入学年齢も同じとは限りません。
ここで少しだけ世界観が出てきます。
「あの現場にいたんだって?」
学園都市は、その名の通り様々な教育機関が集合して出来た一大自治区である。
その発祥が古い神話を元にしている為に各国はあらゆる権力を学園都市にねじ込む事を禁じられている。
一説によれば、学園都市創設に携わった結界的効力により学園都市に権力的戦略的政治的介入を果たそうとした国家または一派。内部に潜り込ませて内側から切り崩そうとした国家または一派または合同連合は、等しく転覆させられる呪いが掛けられていると言われている。
ある意味、神の怒りとも言える。
「……ああ」
そんな事はさて置き、学園都市のとある教育課程のとある学校にドーンは所属している。ちなみにレンも同じ学校の同じクラスだ。
当初、レンと同じクラスになった者達はほとんどが幸運に有頂天になったものだが……それが続いたのはおよそ1ヶ月前後。今では内情を知っている者は一定の距離感をおかない限り声をかけようともしない。
当然のことながら、三人娘は違う学校だしキャスレーヌ女教師は別のクラスが基本担当だから真の意味では内情を知らない。仮に親切心で誰かが教えようとした所で、色ボケかました人達につける薬どころか言いがかりをつけられたと言いがかりをつけられて目も当てられない状況になるのは今更だ。誰もわざわざ寝た子を起こすような真似をして我が身をおろそかにしたいとは思わない。
「すごかったらしいね!」
「マリア……?」
当然、ドーンもある程度は自由行動が認められているとは言っても学生なので本分的に授業には出る。
かと言って、ドーンが周囲に溶け込んだりなじんだりなどと言う事はない。言ってはなんだが、ドーンは周囲から浮きまくっているからドーンなのだと言う見方がすっかりクラスには馴染んでしまったのだから意味が判らない。
ドーンの前の席に座っているのは、このクラスの委員長マリア・ビルカ。
チョコレート色の肌と青い瞳、銀の髪をした南方地域の有力者の娘で数少なく気まぐれにドーンへ声をかけてくる少女だ。少女とは言ってもスタイルと身長から若干平均年齢より上回っている気がしてならないが、誰もその事については口を開かない。
古今東西、女性の年齢をいきなり聞く様な無法者に訪れるのは何時の時代どこの世界であろうと同じだ。
「だって、精霊爆発なんて学園都市っぽいじゃない」
聞いていたのか、マリアが「精霊爆発」と言った途端にびびくうっ! と反応したクラスメイトが数名。
「理解を?」
「してるわよ、一定以上に濃密に集った精霊性質が反響して起こす爆発の事でしょ?
この結界に守られた学園都市ならではって感じじゃない? 普通は人工精霊が主流だと思うけど」
「まあ……」
「あ、やっぱり人工精霊なんだ? 誰かが作ったのが増殖したとか? そういう感じ? トリガーハッピーは誰?」
「いや……」
「煮え切らないわね……個人名がいえないとか、そう言う所?」
「あ……」
「まあね、確かにトリガーになった人がハッピーかって言ったらそうとも言い切れないけど。でもトリガーになった人は最終的に聖性状態になるんだから、別に悪いってわけでもないんじゃない? そりゃ、ギルド庁舎の一室爆破ってのはちょっとどうかと思うけど」
マリア・ビルカを一言で言うのならば……姉御。
一歩間違えれば無神経だが、そのあたりを踏み込みすぎない程度の配慮は持っている。とは言っても、ドーンと会話が成立している時点で周囲から姉御として持ち上げられたのは本人としては「どうなの、それ」と言う所だったりするのだが。
「ん……」
精霊爆発とは、マリアが言ったように一定以上の密度で集まった自然界や人工的に作られた精霊がちょっとしたきっかけで誘爆する状態を言う。連爆と言っても良いだろう。
判りやすく言えば、狭い部屋の中で小麦粉の袋の中身をばら撒いて部屋中が真っ白い状態で火をおこすと起きる粉塵爆発と言うものがある。精霊は普通の場合は処理されない限り人の目に見えるには精霊の愛し子等でなければ不可能である為、不可視爆発と言われる事もある。学園都市ではいきなり爆発が起こった場合の原因などが解明されているから精霊爆発と呼ばれているが、これも別に悪い事だけではない。
「ま、あたしら一般生徒には関係ないけど。ギルド関係者にはちょっと問題って所?」
トリガーハッピー。
つまり、小麦粉の蔓延する部屋で生じる火の立場の存在は魂的に聖性されると言われている。実際にはそんな良いものかと言われるとそうでもないのだが。少なくとも、人生ががらりと変わるのはお墨付きだ。
「まあ……」
「流石にレン・ブランドン君じゃないよね? 想像つかないし」
「……ああ」
「ところでさあ、ちょっと聞いてくれる!」
おお……と周囲から歓声が若干上がる。
何しろ、話の展開にドーンが若干怯んだ様子が伺えるから……などというと、ドーンはどんな扱いをされているのだろうかと言う気がしないでもないが、実の所を言えば腫れ物に触る程度の付き合いだ。付き合い? 正直、レン・ブランドンの子守係とかお世話係とか陰で言われていたりする。
「ドーンひどいよ、僕を置いていくなんて!」
三人娘やキャスレーヌ女教師どころか、このクラスの生徒以外はほぼ知られて居ないと言って良いだろう。
まさか、学園都市一の人気者。レン・ブランドンが……このクラスの生徒しか存在しない時にはドーンへの公式ストーカーになっているなどと言うことは。
「レン……」
誰も信じる事はないだろう、まさか他のクラスの生徒や所属の者が一人でも居る時には表の仮面を決して外さないなんて。
そして信じたくなかっただろう、まさか「同じクラスの子なら身内だし隠しておいたままなんて僕の神経が持たないからさ」などと言いながらニヤリと笑いながらドーンに引っ付いている姿など。
知りたくなかった。
これは、マリア<姉御>ビルカですら思った。
「あら、居なかったのね。王子様」
「僕は王子様じゃなくて時期公爵なんだけどね……」
「大丈夫よ、今の王家の直系が全部倒れれば次はアンタの番だから」
そして、マリア<姉御>ビルカはレン<王子様>ブランドンの王子様的化けの皮がはがれた直後から態度を一変させた。否、それは少々語弊があると言うもので対応を決めたと見るべきだろう。
「マリア……」
「あら、ごめんなさいドーン。そんな不吉なことになったら国民が可哀想よね!
流石にないとは思うけど、あたしの父親を名乗ってる奴と似たような国家になっても可哀想だし」
喧嘩を売っているわけではないが、かと言って甘やかす気もゼロらしい。
レンに惚れていないハーレム要員ではないと言う意味ではクラス共通の女子の意見ではあるが、ここまで徹底的にほだされないのも珍しい。
「あたし自身は南方領出身だけど、父親って言われてる人物が北邦領の王国の一つの国王なんだけどね」
「父……」
そこで区切ったマリアは、一気に渋面を作った。
どうやら、思い出したらレンのこと以上に腹が立ったのだろう。
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事の起こりは、遡る事数日前。
マリア・ビルカは南方領の有力貴族の娘だ。とは言っても、南方領は完全実力主義で何人か居る親族の中では年齢やその他いろいろな事情があって次期領主のリストの末端に入る程度の実力はある。
しかし、実力者主義をうたっているだけあって時期領主リストの順位はリアルタイムで常に変動だ。
そんなマリアの父親は、北邦領のとある王国の国王だ。
南方は全体的に様々な地域から流れ込んできた人達がそれぞれの地域で領主を立て中心人物である「ほぼ王政」を敷いている。なぜ「ほぼ」かと言えば血統は関係ない。場合によっては弟子が師匠の後を継がない事は普通にあるし、他族間との交渉の末のなんやかやも普通にある。
もちろん、恋愛一つとってもライトな付合いは普通にオープン。ただし、そこには落とし穴がある。
まず、未婚の女性が不倫ではない自由恋愛をする事は認められている。男性は認められていない。
これには女性の方が恋愛におけるリスクが高い事が原因だが、代わりに男性は商売女と一夜を過ごすことが許されているが女性は商売者がいたとしても客としては認められない。これには前者のリスクが理由として挙げられている。つまり、男が女を買う事は出来ても女が男を買う事は出来ない。
勿論、既婚者はどちらも浮気が認められていない。この場合はちょっとばかり高いリスクを支払う羽目になるので、わざとそうしよう等と思う挑戦者は居ない。
ちなみに、自由恋愛が認められている女性が羨ましいと言う男性は居るかも知れない。少なくとも、男性が恋愛をするのは基本的に一度に一人だけで日にちを跨ごうが相手が結婚しない限り他の女性と恋愛する事は禁じられている。
これでは女性が優遇されているかの様に見えるかも知れないが、女性にもそれなりのリスクはある。
妊娠をした場合、その相手と結婚しなければならない。または、事情があって結婚出来なくても子供は生まなければならないのだ。
閑話休憩。
マリア・ビルカは、北邦と南方のそれぞれを両親に持っている。けれど、彼女が生まれ育ったのは南方だ。
ちなみに北邦には何度か出向いた事があるし、父親だと周囲に教えられた人物が南方に来た事も何度となくある。
そして、父親と言う人物に会う度にマリアは思うのだ。
ああ……北邦なんて潰れればいいのに。と。
と言うのも、北と南では気候も異なれば人種そのものが違うと言って良いだろう。
当然、文化や思想に趣味に嗜好、おまけに性癖まで様々だ。
北邦と言うのは無論、南方と違って気温が格段に下がる。気温だけではなく取れる作物、存在する動植物、風土からして全く違う。
唯一の共通点はアルコール度数が高いことくらいだとマリアは思っている。
両親が、とりたてて女傑とうたわれた母親があんな下らない男のところへ嫁に行かなくて良かったと心の底から感謝している。マリアの親族全ては、マリアの母親の味方についてくれた。その事も十分に感謝している。
小国が集まって出来た北邦領は沢山の王族が存在している。南方とは逆に血の尊さを重んじると言う、マリアあたりにしてみたら「何それ笑えない」の一言で一蹴される様な事実がまかり通る。
何より、王族である以上は血の存続を持って後宮にどれだけ女性を集められるかが国としての面目と経済的豊かさを表しているというのだから。結婚する前はともかく、結婚したあとについては一夫一妻が基本である南方の考えとは全く逆と言っても良い。しかも、それは一般家庭にも浸透していると言うのだから最初に聞いた時は反吐が出ると思ったそうだ。
加えて、それ以上のおぞましい物をマリアは見聞きした。
その事実が、マリア・ビルカを北邦嫌いにさせた最大の要因と言えるだろう。
とは言っても、全ての北邦領の領主がそれを推奨しているわけではない。かつて先祖はそうだったが、現在の領主はやっていないと言う王国もある。国によっては一生を一人の番で終えると言う国もあると言うので、全てを知らずに好き嫌いはよくないと思った事もあるのだ。
つまり、北邦の様々な国では同性愛が国家的に認められていたり両刀な国王が普通に居るのである。
よってマリアの父親の後宮は女性だけではなく男性も入れられているし、普通に国王からの寵愛を競っていると言う……子供の頃から洗脳する様に閨での技を仕込まれるあたり、娼館でもいけそうだと誰かは呟いたらしい。
それがマリアかどうかまでは……判らないが。
「形成」と言うものは単体で出来るものではない。
魚が水の中を泳ぐように、獣が地上を走るように、鳥が空を飛ぶように。
本能もさる事ながら努力が必要となる事がある。
例えば、人の子供を感情のないロボット的なもので育てたらどうなるだろう? 条件反射だけで育てられたら?
疑問を挟み込む余地のない生活をしていたら?
そうしたら、子供はロボットみたいになるのだろうか?
もしくは、そもそも人としての生命を繋ぐことは出来るのだろうか?