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13 精霊ってなあに?

書いてる本人が言うのもなんですが、個人的には妖精と精霊と幽霊の区別がいまいちつきません。

眼球で見たからと言って判るわけでもなく、眼球で見ないからと言って判るわけでもない。

と言うより、そこにいるんだからいる。でいいと思うのは僕だけですかね?


 僅かに長衣の角度がこちらを向いたような気が、カーラにはした。

 何時の間にやら、六つの瞳がこちらをじっと見据えている。

 何が何なのかわけが判らない状態ではあるが、レンの瞳もこちらを向いていると思うと頭の半分程度はどうしたらよいのか判らなくて嬉しくて混乱して、けれど冷静な部分での自分自身と喧嘩でもしているかの様な不思議な感じがする。

 ただ、ドーンについては……こちらから見えないから判らない。

 眼鏡をかけていない筈だから、もしかしたら思い出そうとしても思い出せない記憶の顔を見る事が出来るかも知れないとは思う。別に興味はないが、判らない事や思い出せないことがあるのは何だか気持ちが悪い。

「あの……?」

「精霊と暴走に関する資料を提示させていただきます」

「え……?」

 カーラを見つめていた六つの瞳のうち、正確には二つに関してはカーラを見つめていたわけでは無い事が判った。

 四つの瞳……二人のギルド長は提示された資料とやらを手にとって視線を避けているけれど、本来ならばカーラを見つめていると思っていた筈のレンの視線は少し違う。

「リヒテンシュタイン家の未来を担う者達は現在三人、そのうち二人は双子の特性を考えてもある程度以上の力があると思われます。当然とは言いませんが、カーラ・リヒテンシュタインにも多少の精神感応能力がある事は医療ギルドによって認められています」

 精霊と呼ばれている存在が、人にとってどんな理解をされているかと言えば「全く理解されていない」と言っても過言ではない。実の所を言えば、精霊とは言っても意識を交わすことができた存在が交わした「言葉」は厳密に言えば言葉ではなく感覚的なものだから各々にとって表現方法が異なるし場合によっては命を落とすこともある……つまりは、それだけ精霊と呼ばれる存在については判っていないのだ。

「私は、暴走するほど精霊と感応など……」

 思わず声を出していた……それはレンに心を奪われていた筈の部分さえ咄嗟に全てが切り替わるほどのもので、かと言ってそれは瞬間的なものだから「ああ、大声を出してしまうなんて……」などと思ってしまった事も否定は出来ない事実だ。

「人は常に同じ状態であるなどと行った幻想につきましては、両ギルド長については説明するまでもない事であると判断しております。加えて、天候の変調にともなう異変などは通常の事として性別を超えた現象が生じる事については先日提出したレポートをご覧いただければ認識していただけるかと」

 恐らく長衣の中にポケットかカバンでもあるのだろうが、出てくるわ出てくるわ……そんなによく持っていられたものだと関心したくなるほどの紙束がどっちゃりと言いたくなるほど机の上に乗せられてゆく。

 書類仕事に慣れているカーラですら、一瞬眩暈を覚えたほどではある。

「確かに……クリムゾンの報告書は信頼していますが、これを鵜呑みにすると言うのも同時に危険な行為であると言う事実は認識していますね」

 語尾の上がる疑問符口調ですらない状態で言われてしまい、報告書を提出したのはカーラではないにも関わらず若干怯えている己を発見して憂鬱になった。

 まさか、才女とまで言われた自分自身が学園都市一の変人で有名なドーンによって処遇が決まるかも知れないなどと言う想像は夢にも思った事がないのだ。そして、実感して余計に憂鬱になったのはドーンが常とは違うはきはきとした声で応答している事、それがレンによってもたらされた身体に負担のかかる魔法によって常のドーンが作られていること、加えてドーンの両親もレンの両親によって何らかの憂き目に会っているらしいと言う事を認識してしまって目の前が真っ暗になるかとも思った。

 はたして、こんな事を知ってよいのだろうかとカーラは考え、同時に知ってしまった今更で何を言うかと言う気もする。

「当然であるかと……しかし、いずれも実証実験としては参考になるものであると判断します」

「確かにね、『聖なる魔剣』の後押しもある以上は致し方ないでしょう」

 不承不承といった感じで言われてる気がして、レポートを見ていないカーラとしては好奇心が刺激されるのを感じるのも当然だ。しかし、この場ではいまいち理由の判らない被疑者扱いされている様な気がしているカーラが、しかも権力者であり取引先の一つでもあるギルド長に「レポート見せてください」などというのは憚られる。

「『聖なる魔剣』とやらは、ずいぶんと信頼を得ているみたいですね?」

 いささか揶揄する雰囲気があったのだが、カーラは何かが琴線に引っかかったような気がしただけで詳しい所までは気が付いていなかった。

「公爵家とのつながりがある以上は疑ってかかるべきではあるんですけどね……二つ名の照合を持つ冒険者を相手に疑って掛かるほどギルドも愚かではないつもりですよ」

「公爵家よりギルド寄りであると、信じておられると?」

「どうですかね……しかし冒険者は余程の無能者でない限りはある程度の常識をわきまえているものです」

「そうですね、少なくとも違法ぎりぎりの魔術の込められた道具を用いて家人を奴隷の様に扱う事よりは非道な行動を行っているつもりはありません」

「……あの、何か勘違いされてません?」

 流石に、レンの表情が何かを堪える様にひくひくと引きつっていた。

「仰るとおり、私どもの施した処方に関しては褒められた事ではないと言う自覚はあります。ですが、それでも必要な処置であったと主張いたします……何より冒険者ギルド長のお気に入りの『聖なる魔剣』の保証もついていますし、加えて先程商工ギルド長の仰ったように違法行為はしておりません」

 ぴん、と空気が張り詰めたのが判った。

 今までは好々爺とした老人を演じていた冒険者ギルドの長と、凛と張り詰めた空気をかもし出していた商工ギルドの長は二人して一気に仮面を脱いだのだ、常に被っていたギルドの長としての、良識ある組織の長であり大人としての仮面を。

「奢るな若造、違法ではないと言うのは単に潜り抜けるだけの方法を抜き出したに過ぎぬ……つまりは潜り抜けただけの話。されど、それも厳密な意味での調査をすれば真実はやがて明らかとなる。今、お主が守るという名目を持って操る現実を前に申し開きも出来ぬほどのな」

 では、そこにあったのは何なのだろう?

「さよう、突き詰めればその方の家そのものに関わる話であると承知の上での言葉と受け取るが構わぬな」

 彼らに対峙し様としているレンはナニモノなのだろう。

「それは……」

 レンに冒険者を巻き込んでまでドーンに何らかの魔法を施していた理由も、そこまでレンに何かをされていたドーンの正体も、そして眼鏡も長衣も外したドーンと言う存在の姿も。

「うぬは覚悟もなく我らに物申すと言うわけだ」

 カーラには、何一つ想像も付かない。

「お待ち下さい。

 この場は私に免じて矛を収めていただきたく存じ上げます、先程も申し上げましたが問題は時間との勝負であり決して猶予があるわけではございません。

 大変遺憾な事ではありますが、一刻も早い処置が必要であると進言させていただきます」

 何より、話の中心人物の一人であるドーンは全く周囲の意見など気にせず。いっそ淡々と主義主張をしている。

 いつもならば、常ならばため息混じりに鬱陶しそうにだるそうに、それがかけられた魔法の副作用によって身体に負担がかかっていた証拠であるとしても、外見的には面倒くさそうに一言か二言だけで状況を纏め上げていたドーンが。

 流石に、幾らなんでもそろそろ長文を口にした衝撃からは立ち直っていると思いたい。

「その意味を教えてもらえますか、クリムゾン」

「はい、冒険者ギルド長。

 カーラ・リヒテンシュタインは未だ情緒不安定による暴走の真っ只中にあるから、と言うよりは精霊酔いに近い状態です。出来れば酩酊状態から泥酔状態に移行してもらえると一気に片がつくのではないかと思われます」

 何やら話が物騒な方向に転がっている気がすると思ったのは、残念ながらこの部屋には一人もいなかった。

 ただ、カーラは「あれ?」と掴めない何かを想像した程度だった。

「それは……私の部屋が危険ではないかしら?」

「ギルド長の部屋ともなれば防御の陣形は整っているかと思われます」

 組織と言うのは通常、てんでばらばらだったり一つの町の一角の様に集まったりする。

 学園都市は円形状に広がり作られたという性質がある事もあり、重要な役所は特に中央地域に集まる傾向にある。だが、都市機能の性質上としてつくりは堅牢でなければならない。

 あらゆる国の干渉を受けず、あらゆる国の影響を受ける。

 それが、最初にこの場所へ都市を作り上げた者の理想に近いものとして今でも残されているのだ。

「確かに、間違いではないが……」

 ギルドとしては中堅ではあるが、この建物には各ギルドに割り当てられた地域と言うものが存在する。

 いかに中堅どころとは言え、この建物に部屋が与えられている時点で一流の称号を得ているといってもいい。ちなみに、実際の事務所等はこの建物内には存在せず拠点して点在しているのが通常だ。

「書類が舞い散ったら面倒、ではあるがな……」

「それに関しては、冒険者ギルドから正式な謝罪と言う事で」

「え、なんで?」

「その為に冒険者ギルド長がいらしていると思っています」

「え、そんな理由?」

「他に理由が必要なんですか?」

「え、本当にそうなの?」

 いかにもがっくり、いかにもしょんぼりと言った風を隠さない冒険者ギルドの長を横目に商工ギルドの長は居住まいをわざとらしい咳の一つで正した。

「レンと私でカーラを中心に結界の発動を行い、暴走と同時に封印を施します」

 すでに許可を得ている段階ではないのだと、言葉の外側でドーンは言う。

「クリムゾン、それは今で無ければなりませんか」

 対する商工ギルドの長も、疑問符すら挟まなかった。

 考えてみればおかしな話で、これから精霊との感応能力が暴走しているカーラを処置するのであれば冒険者ギルドの長の部屋でやっても良いのではないかと商工ギルドの長は思ったりもしたのだが、これは偶然の結果に過ぎない。

「致し方ありません、本来であればもう少し時間をかける事も可能でしたがたまったフラストレーションが何時上限に達するかは本人にも窺い知れぬ事です」

「それに、無自覚である以上は糾弾するのもどうかと」

 まず、冒険者ギルドの長がこの部屋に居るのはまったくの偶然である事。

 問題を役所内で起こしたカーラは取引先でもあり、カーラ自身も商工ギルドの取引関係者である事。

 再び暴走が起こる懸念材料があるにも関わらず、通常の手順でカーラの取調べを行う為の事前調書を取っていたという事などがあげられる……理由はどうあれ、リッツ商会のカーラが役所内で問題を起こしたのは事実だ。しかも、本人には自覚症状が足りないと来たのだから処置の施しようがない。

「貴方には聞いていません、レン・ブランドン」

「これは失礼を」

 おどけた様子で対応するレンを見て、ふとカーラは思った。


 どうして、あの方があんな風に言われているのだろう。

 あんな素敵な人を、どうしてあんな目で見る事が出来るのだろう。

 あの方が誰かに何をしたところで、どうしてそんな事を言えるのだろう。


 リッツ商会のカーラ・リヒテンシュタインは冷静沈着、氷の才女。

 いかなる時にも冷静さを失わず、いかなる時にも商売の為に誂えた情報を持って戦う商売の戦士。

 高嶺の氷の花。

 けれど知っているだろうか?

 氷はいつか溶け、そして砕ける事を。


ドーンは幼い頃から職人との係わり合いがあります。

所謂、自己防衛手段の一つであり親の教育方針ですが。

レンは逆にギルド関係者が嫌いの域に達しているのは親の教育方針で関わらせなかった事や家庭の事情もありますが、何よりドーンが己とかかわりの無い所で過ごしていると言う身近な問題が一番の嫌っている理由なのが裏レンの裏レンたる所以だったりします。

まあ、それが判っていて一時的とは言ってもレンからドーンを引き剥がした両親はまだマシって所……なんですかね?

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