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99 八つ当たり気味と言うより八つ当たり

真実に満足する事など世の中にはあるのだろうか?

満足と限界の違いはなにか?

それは欲望と希望とは異なるのだろうか?

もしくは、単に名前が異なるだけなのだろうか?


どちらにしても判っているのは…。

人は「それ」を理由にすると言う事。


 一度、仕入れてきた品物を片付ける事もあって一同はそれぞれの部屋に戻った。

 落ち着いたらしいアインスはあからさまにため息をついていたのは、これで使える武器が仕入れられなかったら出来る作業がぐっと限定されてしまう。最悪、一度くらいは盾になるかもしれないとか言う事も言われていたが、別の意味で最悪なのがラーカイル医師とお留守番と言う事もありそうらしい。

 何故戦々恐々としているのか、少しばかり気にならなくはないが……。

 秋水の武器に関しては後回しにして、とりあえず部分的な防具をつける練習をする所でもする事にした。金具でひっかけた上で紐で結ぶタイプなので、ある程度は自分自身で力加減を覚えておいたほうが良いと言うのもある。

 ドーンの鋼糸は特に付与を付ける予定が元々無かったしく、仮に付けるとしてもとても細い糸にしか見えない鋼では付与のしようがないと言う話もあるから。仮に付与を付けるとしたら直接攻撃をする時あたりではなければならないだろう。そう言う意味では合成魔石と効果的には変わらないのではないかと言う話もあるが、一度は貯めておける事や効率を考えれば合成魔石を使用するほうがよほど楽らしい。

 ちなみに、秋水の武器である投擲向け短剣にも合成魔石の付与を付ける事になっていたが、肝心の魔法の使い方については一切習っていなかったことを言ってみるとキャシーは一言だった。

「努力に勝る進歩はございません」

 乱暴ではあるが、魔法関係の基本はそういう事らしい。後は生命が危機にでもなれば自然と爆発する何かがあるだろう事を期待されているのではないだろうかと言う気が秋水には、した……。

 こうなると秋水も反骨精神がわくと言うもので「サブカル文化なめんなよ……」とか、こっそり呟いていたりする。キャシーに届くようには言っていなかった筈だが、雰囲気からすると聞こえてはいても理解出来ない単語だったのかも知れない。

 ちなみに、元々のところを言えばレンは消費品以外に用事はないらしい。

 何でも、貴族は基本一通りの武器や防具に精通しているし使い慣れたものがあるそうな。とは言っても、公爵家の家紋入りの鎧とかは使えないので儀礼用ではなく実用向けのものがあるらしい。また、レンの持っている剣は魔法の付与が「周囲の魔力を取り込んで切れ味とする」と言うものなので、最悪の時は秋水が死なないように側に居て、生きた電池になると言う事で話が密かに決定していたと言うのは……本人が知らない方が幸せだろう。

と言うより、もしもそんな会話をしていた事を秋水が知ったとしたら「あれ?」と疑問に思った事だろう。

 幸か不幸か、その事態にはならなかったわけだが。


 コンコン


「はい?」

 届いたノックの音は、レンとドーンの部屋にされたものだ。

 通常、こう言う客室の場合は伝達用の品物があって直接誰かが訪れる前に一方入れるのが礼儀なのが普通ではあるが。かと言って、不意打ちで人が訪れないという事もない。

「あれ、レン・ブランドン?」

「……アインス? もしかしなくても僕とドーンの蜜月の時間を邪魔しに来たとか言う?」

「……ラーカイル先生達が呼んでるから声を掛けにきた相手に、そんな不義理で悪逆非道な事をして何も起こらないと思ってるとしたら、僕はレン・ブランドンの子供よりも平和かつ利己主義で一口食べたら歯が抜けそうなくらい、蜂蜜よりも甘ったるい根性もついた腐った性根について一撃どころか原形とどめないほど入れても良いんじゃないかって気がするんだ」

 にこにこ、と背後に黒くて揺らめく何かを背負っているレンと。

 どろどろ、と顔すら笑顔を保てずに全身を何かで覆われてしまっているアインスと。

「……何? ラーカイルみたいな門前の小僧が厚顔無恥にも伝声も使わずに人の事を呼びつけてるって事? 別にアインスが使い走りなのはどうでも良いけど」

 折れたのは、レンが先だった。

 どうやら、今のアインスを刺激してはいけないと言う本能的な何かを感じ取ったのだろう……主に生命とか体力とか肉体的な意味で。

「あれ、ドーン?」


 くいくい。


 ふとレンが振り向けば、すぐ側にドーンが立っている。

 相変わらず、アインスから見れば全身黒尽くめの「何を考えているのか判断がつかない、まず何よりも恐怖心が沸き立ってくる」と言う不思議な存在ではあるが……これも慣れてくると不思議なもので、嫌悪感より好奇心の方が勝ってくるのだからおかしなものだと常々アインスは思っている。

 勿論、レンにそんな事を考えている事がバレるともれなく「色々な目」に合わされるので可能な限り隠しているのは研究室全員の総意だが。

「え、アインスに何の用事なのさ?」

「宿題、今夜まで」

 声は大きいわけではないが、久しぶりにまともにしゃべったのを聞いて「あ、珍しい」とアインスは思ったわけだが……実際の所を言えば、研究室に居る時は単語の連結に過ぎなくても普通にしゃべっていたのだから。そう考えると、ここ暫くがおかしいと言う事になるわけであり……。

「宿題?」


 こっくり。


 そういえば、しょっちゅう忘れるがドーンは研究室持ちで講師兼研究者兼冒険者だ。

 これは忘れないが、アインスはドーンの研究室所属の情報ギルド所属だ。

「え、課題っ?」


 こっくり。


「何でこんな時に……いや、確かに常に勉学に対応せよとは言うけどさあっ!」

 内心どころか、出てくる声は悲鳴交じりだ。

 が、それも仕方が無いだろう。

 何しろ、現在抱えている問題はどうやら自分達だけで対応を迫られているらしいと言うのがアインスの見解だ。


 事情と言うのは、実の所を言えばこんな所にあったりする。

 現在訪れている職人都市……水辺の町とも呼ばれるレイニアス・シティで起きている大量連続拉致殺人死体遺棄事件。長いが、現状を簡潔かつ正確に語るならばこの程度の文字は必要で、その状態は怪異と呼ばれている超常現象に近い事実が地下水路というより、半水中路で起きている事が判明した。

 事態を重く見た自治都市責任者・親方は、調査を前提として訪れた学園都市ギルド関係者に増援無しで事態に対応を望んでいるらしいと言うのだ。

 仮に、外部から大量にギルド関係者や傭兵的な旅の戦士や各種専門家が訪れた場合。

 恐ろしい事に……勝手に参加する職人達の存在を一人でも多く発生させない為だと言うのだから頭痛が痛い。

 しかしながら、その理由も判らなくはないのだ……自分達の足の下で生活や生命を脅かす何かが起きているのならば。それを自力で踏ん縛って安心したい、家族や仲間を安心させたいと言う言い分は、判らなくはない。

 どう言う理屈からなのか、もしくは特殊なコーティングでもしているのか職人都市の職人関係者は基本的に丈夫に出来ていて、首が折れた程度では数分で復活してしまうと言う逸話と言うより事実がある。なまじ出来る事があるとか、何とか出来る手段があると他人ではなく自力で何とかしたくなると言うのが人と言うもので。

 ……一部の職人に言わせると「作ったは良いけど使えない武器や防具や道具」をここぞとばかりに試用したいと言う下心もあるらしいのだが。

 もっとも……だからこそ、最初に被害にあったのは専門家ではあっても職人ではない水商売の関係者や、仮に腕に技術があっても家も持てなくなった浮浪者だったのだろう。彼らは、少なくとも職人よりは丈夫に出来ていないというのは周知の事実だ。


「ちょちょちょっと待ってよ、なんで今この時? 今の状態判って言ってる? 言ってるよね?」

 アインスが慌てふためいているのは、現状をよく理解しているからだ。

 ついでに言えば、アインスが更に慌てふためいているのは「ドーンが現状を理解した上で行動」している事を大変よく理解しているからだ。

「状況判ってるのなら、なんだって今この時に『楽しい創作~初級編』のテキストなんて渡してくるのさ!」

 半ばではなく、すでに半分以上は悲鳴になっている。

「うるさいよ、アインス……人の部屋の入り口でいつまで悲鳴あげてるのさ。

 本当、困ったものだよねえ……最近は女の子の方が余程、度胸も根性もあるって言うのに」

「それら全無視してる奴に言われたくないんだけど!」

「やかましいよ」

 とは言っても、レンとて人から生まれた人類に過ぎない。

 公爵家の身分とは言っても、そんなもの営利的な関係でもなければ基本は通用しない……そういう意味からすれば、クラスメイト相手に身分をひけらかすと言うのは「根性ゆがんでるよね、アイツ」と表向きはともかく裏では相手が誰であれ総スカンを喰らうはめになりかねない……レンほどの美貌と権力と女の子への優しい対応、男の子への親切な対応からすれば嫌われるには及ばないとしても、そもそもレンはドーン以外には押し並べて平等に扱っているのだから、勘違いされやすいのは確かだが隠していないにも関わらず本人が誤解を解かない為に実際の所、ドーン以外はどうでも良いと思っているのは暗黙の了解なのがクラスメイト程度の付き合いがある人種で、その他の人には全く知られていない。

 そんな感じで別に空気が読めないわけでもないレンにしてみれば、この面倒くさい状況でいきなり講師として、しかも大変面倒な宿題など出してきたクラスメイトに対してアインスが思う事に同情は……一つくらい……。

「ドーンに声かけてもらいやがって、ドーンに声かけてもらいやがって、ドーンに声かけてもらいやがって……」

 思わず、拾わなければ良いのにアインスの耳はレンがぼそぼそと繰り返している言葉を拾ってしまったわけで。

 と言うより、その言葉を吐きながら通常の会話をするのだからレンも大概器用なものである。

「それ、なんか呪いになってないかいっ?」

 顔も声も態度も引きつって引き気味というより引いてしまったのは、アインスでなくても仕方がないかも知れない。

「やだなあ、アインス……」

「そうだよなあ、ははは……」

 これは、ギルドのランクとは全く関係ない事だ。

 残念な事に、普通の環境や普通の神経で起きたり遭遇したりする事はまずないと言っても良いだろう。

 つまり、それほど珍しい状況だと言っても良い。

 良いのだが……遭遇したいかと問われたら、恐らく人類の半分近くは「遠慮します」とか「勘弁してください」とか「冗談は顔だけにして」と言われる事も想像が出来ると言うものであり。

「呪うに決まってるじゃないか、ドーンから声をかけてもらえるなんて……ねえ?」

「爽やかな笑顔で言わないで下さいっ!」

 全身全霊を込めて呪いを回避する努力を行ったアインスは悪くない、決して。恐らく。

「うわあっ!」

「おっと」

 勢い良く回転しながら飛び込んできた塊があったのは、その瞬間だったと言えるだろう。

 アインスは足取りこそ心もとなかったがぎりぎりで回避したものの、足を滑らせて廊下を転げるが受身を取り。

 レンは一撃を素手で受け止めてから、その反動で体制を整えて構えて二撃目に備える体制を取ってはみたものの、特に攻撃に転じるつもりは最初から無かった様だ。

「ドーン?」

「……危ないじゃないか、ドーン!」

 と言う言葉からも判るように、その塊はドーンだった。

 第三者目線で客観的に見たとしたら、ドーンの行った動作は少しばかり軽く飛びながら1回転半しながら言い争いになりかけていると見せかけながらじゃれてるレンとアインスを、散らかった部屋の床を足で避ける程度の力加減を行ったくらいの事であり。

「て、ちょっとドーンっ?」

「ドーン、一緒に行くから急がなくても良いんだよ?」

 何だかんだ言って追いかけて来た二人を横目に、ドーンが内心「ラーカイル先生、今頃遅いって不機嫌でなければ良いけど」と思った居た事は。

 とりあえず、内緒にして置いても良いだろう。今のところ。


八つ当たりはさもしい事だろうか? 非道な事だろうか?

イケナイ事だろうか?

しかし、世の中では「八つ当たれるだけマシ」なんて事は意外とごろごろ転がっている事もあるのだ。気が付かない事もあるだろう。

だから、八つ当たったら相手をケアしてあげることも考えてみてはどうだろう? もし、自分の言動を受ける立場で想像した時に不愉快ならば。


では、瀕死な感じで次回予告。

「実家療養中なので優しくしてください。傷口痛い」

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