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出航と第一回目の目覚め

 2036年1月14日0時。


 ディスカバリー号は、宇宙ドック「ノースフォーク」から静かに出航した。

 20世紀の宇宙船に慣れた人間から見れば、迫力に欠けた奇妙な出発だっただろう。

 昔からテレビで流されている劫火と爆音を伴うロケットの発射に見なれた多くの人々は、劫火と爆音がないため失敗したと思いこみ、大騒ぎしたらしい。

 特に、テレビ局内に、科学知識がある人が居ない日本のテレビ局は、失敗との誤報を流したそうだ。

 母国ながら頭が痛い出来事だ。


 木星に到達するためには、地球から出発する時のような急速な加速は必要ない。

 時間をかけて、ゆっくり加速すれば良い。

 イオンエンジンは、化学ロケットと異なり、短時間に大きな力を出すには向いていない。

 しかしながら、少量の推進剤を使い、長時間加速し続けるには向いている。

 そのため、長距離宇宙船のほとんどは、イオンエンジン推進だ。

 そして、ディスカバリー号のイオンエンジンは、世界最大出力・最新鋭のイオンエンジンだ。

 それでも、最大出力で軽自動車程度の出力しかないのだが、NEC製で4万時間稼働させても、故障率が0.1%の優れものだ。

 さすが落ちぶれても日本製。

 故障率が10%を超えるという噂の中国製とは品質が違う。


 ディスカバリー号は、今後一カ月程、飛行テストを兼ねて地球を回りながら、徐々に加速していき、外宇宙へと飛び立っていく。


 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 出航した際、家族全員が見送りに来てくれたらしいが、残念ながら覚えていない。

 なぜなら、人工冬眠で寝ていたためだ。

 人工冬眠をするためには、食事制限など最低でも1週間の準備をすることが好ましい。

 そのため、出航してから人工冬眠するのではなく、人工冬眠をした状態で船に運ばれた。

 そして、自分の番が回ってくるまで、目覚めることはない。

 ディスカバリー号の乗員は、18人。1チーム3人で、合計6チームが交代制で船を運航する。

 人工冬眠は、1年以上連続で行うことは健康上の都合で、制限されているため、少なくとも1年に1回は起こされることになっている。

 6チームなので、だいたい2か月ごとの交代だ。

  

 俺が所属しているのは、第6チーム、名前は「スカイラーク」だ。

 構成は、女性が2人に男は俺1人。

 まさにプチハーレムといったところだ。

 ディスカバリー号全体では、男性8人、女性10人であるため、俺は恵まれているとも言える。

 しかも、1人は可愛らしく、もう1人は知的な金髪美人だ。

 可愛い方は、小野寺瞳、日本人だ。

 知的な美人は、アメリカ人で、リナ・パープルトン。

 2人とも、知的で魅力的なのだが...性格は...

 正直、キツイ。

 かなり自己主張が強い。特にアメリカ人のリナの自己主張の強さは半端じゃない。

 なんでも、結構なお嬢様だそうだ。

 お嬢様なら、地上で遊んでいれば良いのに、わざわざ物がない宇宙に行く気がしれなかった。

 そんな彼女と相性テストのため1ヶ月間程、一緒に過ごしたが、正直かなり疲れた。

 落第したくないため、表面上はお互い取り繕ろったが、そのストレスはかなり大きかった。

 それでも、他の落第したチームよりはマシだったらしい。


 3人で過ごすわけだから、喧嘩せず穏やかに過ごしたいものだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 近藤信也が所属していたチームは6番目のチームだったため、近藤信也が目覚めた時、既に出航から10ヵ月が経過していた。


 目覚めた時の感覚は、爽やかな目覚めではなかった。

 寝すぎて、頭が痛くなった時のような感じだ。

 何よりも、体がだるい。


「HELLO SHINYA。気分は、いかがですか」

 目覚めたとき、最初に声をかけてくれたのは、HALだった。

 HALの声は、乗員を落ち着かせるために、20代の女性の声に設定されていた。

 人気の声優さんで、街のあちらこちらで聞くことが出来る。

 なんでも、声の使用料だけで億単位の金が入るらしい。

 羨ましい限りだ。


「テストの時と変わらないな。ちょっと体がダルイくらいだ」

「体を動かさないでください。今から、原田さんがケアに行きます」


 人工冬眠から目覚めた直後に、直ぐにシフトに着くようなことはない。

 体力や判断力が低下しているため、2・3日間、リハビリや身体チェックの時間が設けられている。


 最初に話をした人間は、5番目のチームの原田優奈さんだった。

 才色兼備性格も良いクォータの美少女だ。

 丁寧に全身に付けられたチューブやセンサーを外してくれる。

 彼女が、面倒を見てくれるだけで体が楽になった気がする。


 各チームには必ず1人は、女性が配置されている。

 理由は、異性が居ることにより、情緒が男女共に安定するためだ。

 もう一つは、男性は女性にケアされるのを喜ぶが、女性は男性にケアされるのを喜ばないためだ。

 30代ぐらいになれば割り切れるのだが、思春期の人間の扱いは、男女、アメリカ・日本を問わず面倒なものだ。


「終わりました。でも、しばらくの間は立たないで横になっていてくださいね」

 そして、最後に優しい笑顔。

 小野寺が言うには、最高の癒し系らしい。

 さらに、料理もできるらしくお嫁さんにもらうなら絶対原田さんだと言っていた。

 同性に言われるなら大したものだ。

 そんなパーフェクトな原田さんだが、レズなので男の出番はない。

 悲しい現実だ。


月一回程度のペースです。それにしても「小説を読もう」でSFを読む人がいるのだろうか?

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