lv.62 師のお使い
[Ⅰ]
ガルテナに着いた俺達は、入口近くに立て掛けられた大きな看板の所で馬車を止めた。
俺はそこで馬車を降り、看板へと歩み寄る。
なぜ歩み寄ったのかというと、この看板がガルテナの見取り図だったからである。
入口に置かれているという事から、恐らく、旅人の為に作られた物なのだろう。
しかもありがたい事に、これには建物の配置や屋主の名前、そして村の道が詳細に書かれているのだ。
(へぇ、これはありがたい。数十軒程度だから、すぐに目的地を探せそうだ)
俺は早速、目的のリジャールさんという人の家と宿屋を探すことにした。
そして調べ終えると馬車に戻り、俺は宿屋の場所をレイスさんに伝えたのである。
「レイスさん、宿屋はこの道を真っ直ぐ行った十字路の手前です。厩舎は宿屋の隣にあるみたいなので、そこに馬と馬車を預けておきましょう」
「了解した」
レイスさんは鞭を振るい馬を走らせた。
暫く進むと、見取り図に書かれていたとおり、前方に十字路が見えてきた。
またその手前には看板を掲げる建物があり、そこには『山の精霊の宿』と書かれていた。
見取り図に書かれていた名前と同じ宿屋なので、ここで間違いないだろう。
というわけで、俺はようやく一息つけると思い、肩の力を抜いたのであった。
程なくして、レイスさんは宿屋の前で馬車を止めた。
俺はそこで馬車を降り、宿屋を眺めた。宿屋は周囲の建物と同じく、ログハウス調であった。
2階建てで奥行きのある大きな建物で、部屋数もそれなりにありそうである。
恐らく、この村で一番大きな建物だろう。
それはさておき、こんな所で眺めていても仕方がないので、俺は部屋があるかどうか確認することにした。
「では、部屋が空いてるかどうか確認してきますんで、皆は待っててください」――
で、部屋の空き具合だが……今は村の警護をする冒険者が結構いるらしく、空き部屋が1つしかないと言われた。
しかも、その空いているという部屋は4人部屋であった。
とはいえ、無いものは仕方がないので、俺は受付にいる男と交渉して簡易ベッドを用意してもらうことにしたのである。
まぁ早い話が、4人部屋を5人で使うわけである。
受付の者の話を聞く限り、宿屋はここしかないので、諦めるしかないだろう。
ちなみに、宿泊料金は厩舎の利用も含め、1泊40ゴルであった。
フィンドで宿泊した時と比べるとだいぶ安いが、まぁ相部屋なのでこんなモノなのかもしれない。
(さて……日は結構傾いてきたが、まだ少し明るい。まずは部屋に行き、レイスさん達が戻ってきたら、リジャールさんという人の家に行ってみるかな……)
入口のカウンターでチェックインを済ませた後、俺とアーシャさんとイアちゃんは部屋に向かった。
レイスさんとシェーラさんに、馬と馬車を厩舎へ預けに行ってもらったので、今はいない。後から来ることだろう。
というわけで、俺達は先に部屋へと入った。
俺達に宛がわれたのは10畳程度の広さの部屋であった。
4つの簡素なベッドが均等な間隔で置かれている。
その他に、木製の丸テーブルと4つの椅子に化粧台といった調度品の家具が、部屋の奥の方に置かれていた。
また、窓は1つで、フィンドの宿屋と同様、明かり用のグローが1つだけテーブルにあった。
周囲の壁は全て板張りで、それのモノと思われる檜のような芳香が室内に充満している。
木の香りが漂うログハウスといった感じの部屋であった。
ちなみに、まだ簡易ベッドの方は用意されていないようだ。
多分、後で持ってくるのだろう。
(さて……まずは休もう)
俺は荷物をその辺に置くと、ベッドに腰かけ、横になった。
アーシャさんとイアちゃんも俺と同様、ベッドにゴロンと横になって寛いでいるところだ。
2人とも、だいぶ疲れたのだろう。
無理もない。道中、魔物に警戒しまくっていたし。まぁ俺もだが……。
「コタローさん、このガルテナには何の用があってきたのですか?」
イアちゃんが訊いてきた。
「ン、ここに来た理由かい? それはね、ある人に会う為なんだよ」
すると、アーシャさんはそこで半身を起こした。
「ある人? それは初耳ですね。一体、誰ですか?」
「お師匠様の知り合いがガルテナにいるらしいんですよ。だから、そのお使いみたいなものです」
「ああ、そういう事ですか……」
アーシャさんはそれ以上、突っ込んで訊いてこなかった。
どうやら察してくれたようだ。
「……あの、コタローさん。私達もその人の所に行った方がいいですか?」
「いや、別にいいよ。ただのお使いだから。イアちゃん達はゆっくり休んでてよ。道中疲れたと思うからね」
「そうですか……。でも私の力が必要でしたら、遠慮なく言ってくださいね。私……コタローさん達に迷惑をかけてばかりなので、もし、お力になれるのであれば、喜んでお貸ししますから。それに……いや、なんでもないです……」
イアちゃんは何か言いたげな感じであったが、俺は頭を振った。
「そんなに気を使わなくていいよ、イアちゃん。俺達は目的が違えど旅の仲間なんだから」
「そうですよ。私も気にしてませんから」
と、アーシャさん。
「コタローさんとアーシャさんがそう仰るのなら……。でも、何かありましたら、遠慮せずに言ってくださいね」
「うん、その時はお願いするよ」
俺はそう言って、イアちゃんに微笑んだ。
と、そこで、扉をノックする音が聞こえてきた。
俺は扉に向かい返事をした。
「はい、何でしょうか?」
「レイスとシェーラだが、入ってもいいだろうか」
「鍵はかかっておりませんので、どうぞ入ってください」
「では失礼する」
扉が開き、レイスさんとシェーラさんが入ってきた。
そして、2人は空いている椅子やベッドに腰掛け、身体を休めたのである。
「何事もなく無事辿りつけたので、一安心といったところだが……コタローさんはこの村に何の用があるのだ? ただ経由して王都に行くわけではないのだろう?」
椅子に腰かけるレイスさんが訊いてきた。
「ああ、それなんですが、俺はこれから、ある人に会いに行かなければならないんです」
「人に会う為だったのか、なるほど」
「ある人……って誰なの?」
と、シェーラさん。
変に勘繰られても困るので、名前くらいは言っておこう。
「リジャールさんという方なんですが、俺も詳しくは知らないんですよ。お使いを頼まれただけなのでね」
「そうであったか。なら、日も暮れはじめているので、早く行った方が良いかもしれないな」
レイスさんはそう言って、窓の方を見た。
日もかなり沈んできているので、外は薄暗くなりつつあった。
確かに、今日行くのなら、急いだほうがよさそうだ。
というわけで、俺は椅子から立ち上がった。
「では、明るいうちに行くとしますか。皆はココで待っていてください。多分、それほど時間はかからないと思いますんで」
「了解した」
「気を付けてね、コタローさん」
「外は薄暗いですから、気を付けて行って来てくださいね」
イアちゃんはそう言って両掌を組み、祈るような仕草をした。
この子なりに気を使っているのだろう。
健気な良い子だ。
するとアーシャさんが立ち上がった。
「コタローさん、待ってください。私も行きます」
「いいんですか? お疲れのようですし、休んでてもらってもいいんですよ」
「大丈夫です」
アーシャさんは澄まし顔で胸をはった。
これは言っても聞かないモードだ。
諦めるとしよう。
「では行きますか」




