Lv.6 レベル1
[Ⅰ]
洞穴に戻った俺は、空洞の中心にあるテーブルへとヴァロムさんに案内された。
俺が席に着いたところで、ヴァロムさんは空洞の片隅にある水瓶の所へと向かった。
そして、木製のコップに水を満たし、それを俺の前に置いたのである。
「コタローよ。とりあえず、水でも飲んで心身を落ち着かせよ」
「はい、では頂きます」
俺はコップを手に取り、ゴクゴクと喉に流し込んだ。
清らかな感じの水が、俺の体内を潤してゆく。
一息入れたところでヴァロムさんは対面に座り、静かに話し始めた。
「さて……お主が得た魔法については大体わかった。じゃがの、魔法というのは、充実した魔力と強い精神力があって、初めて使いこなすことができるのじゃ。じゃから、お主はこれから、その為の修練をせねばならぬな」
「ですよね」
まぁそうだろうとは思う。
今の俺は、ゲームで言うならレベル1なのは間違いない。
戦闘なんか一回もしてないし。
もしこれがゲームなら「つよさ」で見れるステータスも底辺の筈だ。
因みに俺の予想では、HP・MP共に一桁じゃないだろうかと思っている。
初歩の魔法を3回使っただけで眩暈がきたのだ。大体こんなもんだろう。
だがそれよりも俺は、今の【修練】という言葉を聞いて、非常に嫌な予感がしていたのである。
なぜなら、そこから連想するモノは、ゲームを始めたら誰もがやるあの作業だからだ。
そう……レベルを上げる為の戦闘である。
ゲームをしていた時は、遠慮なく戦闘してレベル上げをしていたが、実際にそれをするとなると流石に抵抗がある。
しかもこのベルナ峡谷には、ガムルという、ゲームでは中盤に出てきそうな魔物までいるのである。
溜息しか出てこない。
(はぁ……異世界に迷い込ませるなら、せめてスライムとかみたいな序盤の敵がいる場所にしてくれよ……こんな場所でレベル1からは無理ゲーだろ……)
俺は自分をこんな目に遭わせた何かに、そう言いたい気分であった。
考えれば考えるほど、ナーバスになってゆく。
(それはともかく……やっぱり、レベル上げの戦闘をしなきゃいけないのだろうか。そうなると当然、命のやり取りをしなきゃいけないという事だよな……やだなぁ……ゲームのように死んだら生き返れるなんて保証は、どこにもないし……)
俺は恐る恐る訊いてみた。
「あ、あのぉ……ヴァロムさん。と、ということはですよ……ま、魔物と戦って経験を積まないといけないんですかね? というか、死んだらどうなるんですか?」
するとヴァロムさんは、眉根を寄せ、怪訝な表情になった。
「は? いきなりそんな無謀な事をしてどうするのじゃ。それに昨晩の話を聞いた感じじゃと、お主は、戦いと無縁の生活を送っていたようじゃしな。さすがの儂も、いきなりそんな事はさせられんわい」
俺はとりあえずホッと胸を撫でおろした。
(よかったぁ……とりあえず、闇雲に戦闘はやらなくて済みそうだ。というか、やりたくねぇ。ゲームだけでいいよ、あんなの……)
ヴァロムさんは続ける。
「その前に、お主には基本的な事から叩き込まんといかん。そこでじゃ。お主の心身を鍛える為の修行を明日までに儂が考えておいてやろう」
「すいません、ヴァロムさん。よろしくお願いします」
俺は深く頭を下げた。
「ああ、気にするな。どうせ儂も、それほど忙しいわけじゃないからの」
とりあえず、戦闘をしなくてもいいというのが分かっただけでも一安心だ。
まぁそれはさておき、さっきのジニアスという魔法の事について訊いてみるとしよう。
あの時のヴァロムさんは、明らかにおかしい挙動だったからだ。
「それはそうと、ヴァロムさん。さっきのジニアスという呪文なんですけど……あの呪文は何かあるのですか? ヴァロムさんの様子が変だったので、ずっと気になってたんです」
だがこの質問をした途端、ヴァロムさんは目を閉じ、無言になったのである。
この様子を見る限り、話そうか話すまいかを考えているのだろう。
暫くすると、ヴァロムさんは口を開いた。
「そうか……知りたいか。まぁよかろう。あの呪文はな……儂の知る限り、ある系譜の者しか使えぬのだ。だから驚いたのじゃよ」
「ある系譜?」
「うむ。あの呪文はイシュマリアの子孫である王家の者にしか使えぬのじゃよ。しかも、王家の者なら誰でもというわけではない。ごく一部の限られた者達にしか使えぬ呪文なのじゃ」
要するに、俺がそんな魔法を使えること自体が、おかしいのだろう。
ヴァロムさんは続ける。
「まぁそれはともかくじゃ。儂の前以外では、あの呪文は唱えぬ方がよいな。要らぬ誤解を招く恐れがある」
もしそれが本当ならば、確かにそうだ。
王族が絡んでくるとなると、面倒な事になりそうな気がする。
いや、かなり高い確率でそうなるだろう。
「そ、そうですね、俺も気を付けます」
「うむ。まぁそれはそうと、お主も魔力を使い果たしたじゃろうから、今日はあまり無理は出来ぬな。じゃからこの後は、この地での常識について教えるとするかの」
「はい、よろしくお願いします」
というわけで、今日はこの後、イシュマリアの一般教養を学ぶことになったのである。




