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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第二章 前略、王都への道

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Lv.54 素性

   [Ⅰ]



 宿屋に戻った俺とアーシャさんは、俺の部屋で少し休憩する事にした。

 ちなみにこの休憩は、坂道を歩いてきた疲れをとるのもあったが、これから始まる話し合いの前に、気を落ち着かせておくという意味合いもある。

 レイスさん達との話の如何によって、彼等と旅を続けるかどうかの決断を下さなければならないからだ。

 あまり感情的な議論にならないようにしたい。

 ベッドに腰掛けた俺は、目を閉じ、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。

 アーシャさんも俺の心境を察したのか、部屋に入ってからは話しかけてこなかった。

 その為、部屋は静かであった。

 周囲の小さな物音も大きく聞こえるくらいに……。

 だがそれが良かった。

 雑念が徐々に取り除かれていくのを俺は実感したからだ。

 心が穏やかになってきたところで、俺はアーシャさんに視線を向けた。


「……では、行きましょうか。アーシャさん」

「ええ……」


 俺とアーシャさんは、この部屋を後にした。

 程なくして俺達は、彼等の部屋の前へとやって来た。

 俺はそこで一度深呼吸し、扉をノックした。


「レイスさん……コタローです。お話があるのですが、今、よろしいでしょうか?」


 扉の向こうから女性の声が聞こえてきた。


「鍵はかかっておりませんので、どうぞ、お入りになってください」


 声の感じからすると、どうやらイアちゃんだろう。

 俺はノブに手を掛け、扉をゆっくりと開いた。


「では失礼します」


 扉を開くと、レイスさん達は神妙な面持ちで、俺とアーシャさんを迎えてくれた。

 3人の表情から、張り詰めたような緊張感が伝わってくる。

 予想していたことだが、俺達の決断に、彼等は戦々恐々としているのかもしれない。


「コタローさんにアーシャさん、どうぞ、こちらにお座り下さい」


 レイスさんは部屋の奥に置かれた2つの椅子に、俺達を案内した。

 俺とアーシャさんは、その椅子に腰掛ける。

 すると次の瞬間、なんと3人は、まるで王に謁見するかの如く、俺達に跪いたのである。


「コタローさんにアーシャさん……我々は貴方達に黙っていた事があるのだ。まずはその非礼をお詫びしたい。そして今から、それを包み隠さず話そうと思うので、どうか最後まで聞いてほしいのだ」


 レイスさんはそう言って、俺達に頭を垂れた。

 この突然の展開に驚いたが、かえって話をしにくい。

 とりあえず、言うとしよう。


「あの……話は聞かせてもらいますが、こんな風にじゃなく、今まで通りでお願いします。なので、普通にしてください」

「コタローさん……私達の今の姿は、貴方に非礼を働いた故の戒めなのであります。ですので、どうかこのままお話をお聞きくださりますよう、よろしくお願い致します」


 イアちゃんは頭を垂れたまま、そう言った。


「いや、だから、普通でいいですって。というか、今まで通りでお願いします」

「だがしかし……」


 レイスさんは尚も食い下がる。

 埒が明かないと思った俺は、語気を強めてお願いした。


「では私から貴方がたにお願いがあります。もし非礼を働いたと思っているのなら、俺の言う事を聞いてください。お願いします。今から話す内容は、どちらの立場が上とか、そんな話ではないんですから」


 3人はそこで、ようやく面を上げた。


「……わかりました。嫌がる事を続けるわけには参りませんので、コタローさんのご希望通りに致します」


 と、イアちゃん。

 少し捉え方が違うが、どうやら折れてくれたようだ。

 まぁいいや……もうこれでいこう。


「ええ、それでお願いします。俺もその方が話しやすいので」


 とまぁそんなわけで、ここからようやく、俺達の話し合いが始まるのだ。



   [Ⅱ]



 3人がベッドに腰掛けたところで、まず俺から話を切り出した。


「では始めましょう。まず、貴方がたが何者なのか? それからお願いします」

「そ、それは……」


 シェーラさんはそこで、イアちゃんに視線を向けた。

 イアちゃんは頷く。


「……コタローさんは信ずるに値する方だと思います。ですので、それについては私から話しましょう」

「わかりました。イメリア様」


 シェーラさんは頭を垂れた。

 そしてイアちゃんは、周囲に聞こえないよう、若干小さめの声で話し始めたのである。


「……私の本当の名は、イメリア・サナルヴァンド・ラトゥーナ・オン・ラミナスと申します。名前からもうお分かりでしょうが、私は魔物達に滅ぼされたラミナス王家の所縁の者でございます。そして、こちらにいるレイスとシェーラは、ラミナス王家の警護を司る近衛騎士団であった者達でございます」

「ラ、ラミナス王家ですって……」


 アーシャさんは目を見開き、素で驚いていた。

 勿論、俺も少し驚いた。

 王族なだけあり、エレガントな響きの本名であった。

 だが、この答えは予想していたモノでもあるので、そこまでの驚きは無かった。


「やはり、そうでしたか……。ザルマンとの会話を聞いた時から、高貴な存在なのではないかとは思っていたのです。とはいえ、まさか王族とは思いませんでしたがね」

「今まで黙っていて申し訳ありませんでした。ですが、私達は……いえ、私は、どうしても嘗ての身分を偽る必要があったのです」

「ラトゥーナの末裔を始末する事が任務……そうザルマンは言ってましたが、それですか?」


 イアちゃんは頷き、肩を落とした。


「はい……仰る通りです」

「そうですか……。では単刀直入にお聞きします。ラトゥーナの末裔とは一体何なのですか? 魔物達がここまで執着している以上、奴等にとって都合の悪い存在というのはわかりますが、それにしては度が過ぎてます。わざわざこんな異国の地にまで追ってくるのですからね」


 するとイアちゃんは身を震わせ、俯きながらブンブンと頭を振った。


「そ、それが……実は、私にもさっぱり分からないのです」

「わからない?」

「はい……今、私がわかっているのは、王家の血筋が狙われているという事だけなのです。数年前、ラミナスに魔物の大群が押し寄せた時、私は魔物から逃れるべく、ここにいるレイス達と共にラミナスを離れる事になりました。その時、魔物達は至る所でこんな事を言っていたのです。【ラトゥーナの末裔は見つけ次第、全て始末しろ!】と」


 イアちゃんは怯えたように身体を小さくし、身震いしていた。

 この様子を見る限り、嘘は言ってないように思える。

 襲われる理由がわからないというのは、多分、本当の事なのだろう。

 まぁそれはともかく、今の内容で気になることがあったので、俺はそれを訊ねる事にした。


「今、王家の血筋と言いましたが、ラトゥーナというのは王家を示す名前なのですか?」

「はい、そうです。ラトゥーナは王家を示す名前です。ちなみに、先程言った名前ですが、イメリアが私の名前で、サナルヴァンドは母方の家名、そしてラトゥーナが王家の家名になります」


 やたら長い名前だったが、構成を知ると、結構単純に聞こえるから不思議だ。


「オン・ラミナスというのは?」

「それは、ラミナスの王都メノスがあるラミュロ地方に伝わるいにしえの言葉で『豊かな国の王』という意味です。そして、王位継承した国王とその家族だけが名乗れる名前であります」

「という事は、イアちゃんは……いや、イメリア様はラミナスの王女様なのですね?」

「はい……ですが、ラミナスはもう滅んでしまいましたので、今の私はもう、王女でもなんでもありません……魔物に追われる哀れな身の上の者です」


 イアちゃんはそう言うと、瞳を潤ませ、顔を俯かせた。

 俺はどうやら余計な事を訊いたのかもしれない。

 恐らくイアちゃんは、今まで経験した嫌な事を思い出したのだろう。

 少し湿っぽくなったので、俺は話を変える事にした。


「では、もう1つ訊かせてもらいましょう。貴方達はなぜ、王都に向かうのですか?」

「私達がイシュマリアの王都に向かう理由は、オヴェリウスに今も駐在する旧ラミナスの公使に会う為だ」


 レイスさんが答えてくれた。


「旧ラミナスの公使?」

「イシュマリアとラミナスは非常に緊密な友好国でしたので、互いに国の代表者を派遣しているのです」


 と、アーシャさん。

 要は外交官のことだろう。


「それはわかりましたが、危険を冒してまで、公使の所に(おもむ)く理由はなんなのでしょうか?」

「それは、イメリア様を保護して頂きたいからよ。私達は亡きアルデミラス陛下から、ラトゥーナの血族であるイメリア様を守ってほしいと直に命を受けたわ。そして賢者リバス様からは、絶対にラトゥーナの血は絶やしてはならないとも言われた。でも……もう私達だけで、イメリア様をお守りし続けるのは厳しいのよ……。護衛についた20名の近衛騎士も、もう今では私とレイスだけ……他は皆、魔物達の餌食になってしまったわ。だから危険な海を越えて、ラミナスの友好国であるこのイシュマリアまでやってきたの。イシュマリアはまだ、魔物達の脅威には晒されていない平和な国だと聞いたから……」


 シェーラさんは悔しそうに答えてくれた。

 賢者リバス……気になる人物名が出てきたが、今は置いておこう。


「そう……だったのですか」


 どうやらシェーラさんの話を聞く限り、3人は今まで相当な苦労をしてきたのだろう。

 この国に来るまで、生と死の狭間を綱渡りするような道のりだったに違いない。 

 さて、事情は大体わかったが、これからどうするかだ。


「コタローさん……私達と共に、オヴェリウスまで行ってくれないだろうか」

「私からもお願いします。貴方達ほどの魔法の使い手はそう簡単に見つかりません。ですから、私達と共に、イメリア様を旧ラミナス公使が住まう館まで護衛して頂きたいのです。どうか、何卒、よろしくお願い致します」

「コタローさん、お願いします。もう貴方しか頼れる方はいないんです」


 3人は悲痛な面持ちで懇願してきた。


(これは重いな……簡単に断れる話ではない……)


 俺はそこで、アーシャさんに視線を向けた。

 アーシャさんは肩を竦める。


「コタローさんの判断にお任せします。貴方は私よりも判断力に優れておりますから」


 どうやら、俺に丸投げするつもりのようだ。

 これは責任重大である。


「……わかりました。では、少し考えさせてください」――


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