Lv.51 戦利品
[Ⅰ]
森の街道に出た俺達はフィンドへと向かって進んで行く。
街道は日が傾いてきた事もあり、休憩前と比べると少し薄暗さが増していた。
その所為か、ややおどろおどろしい雰囲気となっている。
いつ魔物が出て来てもおかしくない状況だ。
だが今のところ、魔物は現れてはいない。
周囲を見回しても、それらしい影が見える事もなかった。
また物音も、この馬車の音以外は何も聞こえてこないので、俺が見た限りでは、この近辺に魔物はいないように感じたのである。
とはいえ、安心はまったくできないので、依然と気は抜けない状況であった。
(ザルマンとの戦闘があったお陰で……ちょっとしたことでもビクッとしてしまうよ。ジッとしているだけだけど、警戒し続けるのって以外と疲れるわ……ン?)
そんな感じで、警戒しながら進んでいると、前方に開けた空間が見えてきた。
どうやらあれが、ロランさんの奥さんが言っていた広場なのかもしれない。
つーわけで、俺は奥さんに確認をした。
「前にあるのが、先程言っていた広場ですか?」
「はい、そうでございます。あそこで魔物達は馬車を消したのです」
その広場で馬車を停めるとしよう。
「レイスさん、前方の広場で一旦止まってください。少し調べたい事がありますので」
「了解した」
レイスさんは俺の指示通り、広場に入ったところで停まってくれた。
俺はそこで、馬車の中から周囲に目を向ける。
広場の大きさは、先程の休憩場所と同じくらいだが、周囲を木々に囲まれている所為か、やや狭く感じる場所であった。
今見た感じだと、目につくようなモノは何も無さそうだ。
(ここで消したらしいけど、それらしい痕跡はないな……)
一通り見回してみたが、馬車や馬の姿は、どこにもなかった。
「魔物達はどの辺りで馬車を消したのか、わかりますかね?」
すると奥さんは、この広場にある一番太い木を指さした。
「えっと、そこにある大きな木の付近です」
「あそこですね。じゃあ、皆はここで待っててもらえますか。ちょいと見てきますんで」
俺は馬車から降り、現場検証をする事にした。
なぜこんな行動に出たのかというと、勿論、姿が見えなくなっているだけではないかと思ったからだ。
奥さんの話を聞いた時から、なんとなく、そんな風に思っていたのである。
それにゲームでは、実際にそういった魔法や道具が出てくるので、あながち無いとも言い切れないのだ。
[Ⅱ]
太い木の前に来た俺は、そこで馬の気配がないかを暫し探ってみた。
10秒、20秒……俺は静かに聞き耳を立てる。
すると、馬の息づかいのような「ブルッ」という音が、付近から小さく聞こえてきたのである。
俺は確証を得る為に、その辺を少し手で探ってみた。
すると生暖かい何かがそこにあったのだ。
「うおッ……なんかいる」
これはもう姿が見えないだけという現象で確定のようだが、問題はどうやって見えるようにするかである。
(さて……これを見えるようにするには、どうすればいいんだろうか……ゲームだと、歩いているうちに効果が消えたけど……ン?)
と、そこで、アーシャさんが俺の隣にやってきた。
「コタローさん……先程、奇妙な動きをしてましたけど、何かわかりましたか?」
俺は何かがある箇所を指さした。
「アーシャさん、この辺に手を伸ばしてもらえますか」
「ここですか……って、なんですのこの感触は!?」
流石にアーシャさんも驚いたのか、ビックリして手を引っ込めた。
「そうなんです。見えないだけで、ここには何かがあるんですよ」
ここで、ソーンのオッサンの囁くような声が聞こえてきた。
「コタローよ……他の者達に見えぬよう、我を表に出せ。この魔法を解いてやろう」
「ソーン様、そんな事ができるのですか?」
「フン、我を誰だと思っておる。こんな下らないまやかしなど造作もない事よ」
まぁ仮にもソーンの鏡だし、当たり前か。
などと思いつつ、俺は皆に見えないよう、服の内側あるソーンの鏡を表に出した。
「じゃあ、頼むわ」
「うむ」
その直後、ソーンの鏡はカメラのフラッシュのように、ピカッと一瞬だけ眩く光った。
すると次の瞬間、今まで姿すら見えなかったものが、突如、目の前に出現したのである。
目の前に現れたのは2頭の馬と2台の馬車であった。
馬車の1台は、荷物が沢山積まれた荷馬車だったので、恐らく、ロランさんのモノなのかもしれない。
オッサンがまやかしを解いたところで、皆の驚く声が聞こえてきた。
「エッ? どういう事?」
「嘘ッ!」
「何をしたんだ? 突然、現れたぞ……」
向こうが少しざわつく中、俺は急いでソーンの鏡を胸元に仕舞った。
俺はそこで、ロランさんをここに呼んだ。
「ロランさん、ちょっと来てください」
「は、はい」
ロランさんは返事をすると、足早にこちらへとやってきた。
俺はそこで、ロランさんに確認をした。
「ここにある馬や馬車は、貴方とザルマンの物で間違いありませんか?」
「はいッ、間違いありません! これは私の荷馬車です。それから、この馬と馬車は奴等の物で間違いないです。よかったぁ」
自分の馬車が見つかったのが余程嬉しかったのか、ロランさんは顔を綻ばせて力強く頷いた。
そして、沢山の荷物を積み込んだ荷馬車に近寄り、積荷の確認を始めたのである。
一通り確認したところで、ロランさんは安堵の息を吐いた。
「荷物も無事でした。……もう諦めるしかないと思ってたので、本当に良かったです」
「それはよかったですね。ン?」
と、そこで、他の皆もこちらへとやってきた。
すると皆は不思議そうに、これらの馬車を眺めたのである。
姿が見えなかったのだから、こうなるのも無理はないだろう。
ロランさんの娘さんが俺に訊いてくる。
「あ、あの……これは、どういう事なのでしょうか?」
「見ての通り、消したのではなく、見えなくしていただけのようですね。つまり、ずっとここにあったという事です」
「では、あの時の魔物達は、見えない魔法を使ったという事なのですか?」
「そうですよ。まぁそれはともかく……さしあたっての問題は、これをどうするかですね」
奴等が使っていた馬と馬車は中々良い物であった。
「コタローさん……貴方のお陰でザルマン達を倒せたんだから、この馬車と馬は貴方が戦利品としてもらっといたらどう? 売れば結構なお金になると思うわよ。それに、旅には物が入り用だし」
まぁ確かにそれも一理ある。
だが問題もあるのだ。
「皆が良いのなら、それでも構わないんですが……問題はどうやって持って行くかなんですよね。俺は馬なんて乗った事ないから、操るなんて無理ですし……」
【え?】
すると、皆は一様に驚いた表情を浮かべていた。
(やだ……何、この反応……ちょっと空気が寒くなってる……)
アーシャさんが眉根を寄せて訊いてくる。
「馬に乗った事がないって……本当ですか? どこか具合が悪いのならともかく、この地に住む者で、そんな方がいるなんて思いませんでした」
「コタローさんて優秀な魔法使いなのに、意外な一面があったのね……」
と、シェーラさん。
(ウッ……もしかして失言だったか……とはいえ、今更知ったかぶりすると後々面倒だ。それに今はこんな事をしてる場合じゃない)
つーわけで、適当に流すことにした。
「そ、そうなんですよ。だから、この馬と馬車に乗ってくれる人はいませんかね? 早くこの森を抜けないといけませんし」
シェーラさんが手を上げた。
「じゃあ、私がアイツ等の馬車を動かすわ」
「それでは、私と娘がこの2頭の馬に乗ります」
と、ロランさんの奥さん。
続いてロランさんは、自分の荷馬車に乗り込んだ。
「じゃあ、私は自分の馬車を動かします」
「ええ、それで行きましょう。残った者は今まで通りという事で」
そして、俺達は移動を再開したのであった。
*
話は変わるが、これは、その道中での話だ。
馬車が動きはじめたところで、イアちゃんが俺に訊いてきた。
「あの、コタローさん……馬に乗れないというのは本当なのですか?」
またその話か……。
多分、この世界では、馬に乗れない事は恥ずかしい事なのかもしれない。
現代日本で言うなら、自転車に乗れない大人と同じ扱いなのかも……。
またそう考えると、途端に恥ずかしくなってきたのであった。
俺は後頭部をポリポリかきながら答えた。
「……うん、そうなんだよ。ここでは恥ずかしい事なのかも知れないけど」
するとイアちゃんは、屈託のない笑みを浮かべたのである。
「じゃあ、私と同じですね。私も馬に乗れないんです。だから、そんなに気にしなくてもいいと思いますよ」
「そ、そう」
俺はそこで少し気を持ち直した。
だが間髪入れず、アーシャさんが穴に突き落としてくれたのだ。
「イアさんはまだ子供ですから仕方ないですが、貴方のようないい大人が馬に乗れないのは問題です。今度、私が教えて差し上げます。同行する私まで恥ずかしいですから」
「はい……お願いします」
まぁそんなわけで、俺は新たなトリビアを得る事ができたのであった。




