Lv.48 黒き魔獣
[Ⅰ]
俺とアーシャさんの杖から、2つの魔法が放たれる。
アーシャさんの杖からは青く冷たい霧が発生し、そこから生み出された包丁サイズ
はあろうかという幾つもの氷の矢が、べリスレア・スライム目掛けてミサイルのように放たれた。
俺の杖からは、サッカーボール大の白く発光する魔力の塊が、魔物達のど真ん中に飛んでゆく。
そして魔力の塊は、強烈な閃光と共に大きな爆発を起こし、ザルマン以外の魔物達全てを吹き飛ばしたのだった。
「グギャァァァ!」
魔物達の悲鳴が聞こえてくる。
巨体のデッドライオネスやアサルトエイプは、一瞬宙に浮いた後、後方の地面をゴロゴロと勢いよく転がっていった。
人間に近い体型のオークや、似たような大きさのべリスレア・スライムは、それらよりも更に後方へと吹っ飛んでゆく。
そして、べリスレア・スライムには更に、ブレズナンの氷の矢が、容赦なく襲い掛かったのである。
べリスレア・スライムの赤く柔らかい体に、氷の矢が何本も突き刺さる。
だがこれで終わりではない。
レイスさんとシェーラさんが既に間合いを詰めており、間髪入れず、ベリスレア・スライムにトドメの一撃を繰り出したのだ。
2人はまるで豆腐でも斬るかのように、弱りきったべリスレア・スライムの身体をスパッと両断した。
そして、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、べリスレア・スライムはこの場で息絶えたのである。
間髪入れず、イアちゃんの魔法詠唱が聞こえてきた。
「ペルミラ!」
その直後、緑色に発光する霧状のモノが俺達を覆い始め、身体がフワリと軽くなった。
素早さが上がった証拠である。
とりあえず、ここまでは指示通りだ。
ここからは手を緩めることなく、一気畳み掛けなければならない。
そう考えた俺は、次の指示をだそうとアーシャさんとイアちゃんに視線を向けた。
だが、その時であった。
黒い霧に覆われていたザルマンから、赤い閃光が迸ったのである。
そして、周囲を覆っていた黒い霧は、サッと霧散し、瞬く間に消え去ったのだ。
俺は恐る恐る、ザルマンに視線を向けた。
「なッ!」
それを見るや、俺は驚愕した。
なぜなら、そこにいたのは、黒き魔獣と化したザルマンだったからだ。
猛獣のような太い4本の腕と2本の脚。ライオンを思わせる頭。
そう、ザルマンはデッドライオネスと見紛うばかりの魔獣になっていたのである。
全体的な見た目は黒いデッドライオネス。
それが俺の第一印象であった。
だがしかし、色は全く違っていた。
ザルマンの全身はどす黒い体毛で覆われており、頭部には、周囲を縁取る真っ白な鬣が生えていたからだ。
コイツを見た瞬間、俺は嫌な記憶が蘇ってきた。
なぜなら、ゲームに出てきたロードレオンという中ボスモンスターとそっくりだったからである。
ロードレオンもデッドライオネスの色違いモンスターだった上に、元は人間だったように俺は記憶している。
となると、今のザルマンは、それと同種の可能性もあるからだ。
だからだろうか……俺の目には、今のザルマンが、得体の知れない強力な魔物に見えて仕方がないのである。
(コイツ……恐らく、相当強い……)
姿を現したザルマンは不敵な笑みを浮かべる。
そこで、オライアを喰らった他の魔物達も、のっそりと起き上がってきた。
「クククッ、不意打ちとは卑怯ですね。ですが、貴方がたの判断は間違って……ン」
まだ話している途中だったが、俺はザルマンを無視して構わず魔法を唱えた。
「オライア!」
さっきと同じように爆発が発生する。
「グボァァ!」
ザルマンは踏ん張って耐えていたが、他の魔物達は更に吹っ飛んだ。
(これで魔物達が死んでくれるといいが……)
俺はそう考えたが、暫くすると、デッドライオネスはヨレヨレとだが、起き上がってきたのだ。
予想してた事だが、やはり、オライア2発程度では仕留めきれなかった。
しかし、オークとキラーエイプはまったく動く気配を見せない。
どうやらこの2種類の魔物にはトドメを刺せたようだ。
少しホッとしたが、悪い状況には変わりない。
俺は更に奴らを追い込むべく、アーシャさんとイアちゃんに次の指示を出した。
「アーシャさんはレイスさんにスートラを。それとイアちゃんもシェーラさんにスートラをかけてほしい。急いで!」
2人は頷くと同時に呪文を唱えた。
レイスさんとシェーラさんに青く光る霧状のものが纏わりつく。
これで2人の防御力はかなり上がったはずだ。
俺は間髪入れず、前衛に指示を出した。
「レイスさんとシェーラさんは今の内に、残った魔物2体のトドメを刺してください。そして、攻撃を終えたら、俺達の前に戻って守りを固めてください。急いで!」
「了解した」
「わかったわ」
俺の指示を受けた2人は、ヨロヨロと弱っているデッドライオネス目掛けて駆けてゆき、容赦なく斬りかかった。
その刹那、デッドライオネスの断末魔が響き渡る。
「ヴァギャァァァ!」
そして、まるで積み木が崩れるかのように、デッドライオネスは動きを止め、バタリと地面に横たわったのであった。
レイスさんとシェーラさんはその後、指示通り、俺達3人の前へと戻ってきた。
そして剣と盾を構え、ザルマンの出方を窺ったのである。
今の攻撃は流石にザルマンも頭に来たのか、ワナワナと体を震わせていた。
「ぐぬぬ……やってくれますね、虫けら共。こっちが大人しくしていればいい気になりやがって! だが、調子に乗るのもそこまでだ!」
ザルマンは大きく息を吸い込み、なんと、口から炎を吐きだしたのである。
それはまるでギルラーナを思わせる火炎放射であった。
炎が俺達に襲いかかる。
するとそこで、レイスさんとシェーラさんが鉄の盾を前に掲げ、俺達の前に立ち塞がってくれたのだ。
そのお陰もあり、後衛の俺達3人にまでは炎が届かなかった。
しかし、レイスさん達の苦悶の声が聞こえてくる。
「グッ!」
「こ、これはキツイわね」
かなり強烈な炎のブレス攻撃なので、流石に鉄の盾では防ぎきれないに違いない。
それから程なくして、ザルマのブレス攻撃は終了した。
俺はそこで一瞬、肩の力が抜ける。
(もしかすると……今のがゲームでよくやられた火炎ブレスとかいう攻撃か……リアルでやられると、たまったもんじゃないぞ……ン?)
だがホッとしたのも束の間であった。
ザルマンが次の行動を開始したからである。
「ベルレア」
奴の身体が白く光り輝くと共に、オライアの焦げ跡がみるみる消えていった。
「チッ……ベルレアを使えるのかよ」
俺は思わず、舌を打った。
「ククククッ、愚か者共め、なぶり殺しにしてあげましょう。そちらの魔法使いは中々の使い手のようですが、貴様らの装備で私を倒す事など不可能ですからね。覚悟しなさい」
だが怯んでる暇はない。
「大丈夫ですか、レイスさんにシェーラさん」
「ああ、盾で身を守っていたので大丈夫だ。だが……あの炎は強力だ。連続でやられると不味い」
「確かに……そうですね。では、レイスさんとシェーラさんに次の指示をします。効くかどうかわかりませんが、俺が今から奴にカニトを使います。その直後に奴に攻撃をして下さい」
「了解した」
俺は続いて、他の2人にも指示をした。
「それと、イアちゃんとアーシャさんは、自分にスートラを掛けて守備力の強化してください」
2人はコクリと頷くとすぐに実行する。
「スートラ」
そして俺は魔導師の杖を奴に向け、呪文を唱えたのである。
「カニト!」
その直後、杖から紫色に光り輝く魔力の塊が出現し、ザルマンに向かって放たれた。
魔力の塊は、ザルマンに命中すると、弾けて紫色の霧へと変化し、奴を覆い始めたのだ。
しかし、それを見てザルマンは嘲笑った。
「クククッ、無駄な事です。私にこのような呪文は効きませんよ。フンッ!」
なんとザルマンは全身から魔力を放ち、紫色の霧を振り払ったのだ。
(クッ……カニトが効かないとは……)
レイスさんとシェーラさんがザルマンを斬りつけた。
刃が食い込む。が、しかし……ザルマンは平然としていた。
そればかりか、不敵な笑みすら浮かべていたのである。
「勇ましい事です。ですが、その程度の武器で、今の私に深手を負わせることは無理ですよ。とりあえず、邪魔ですから向こうへ行っていてください」
ザルマンは素早く4本の腕を伸ばし、レイスさんとシェーラさんの腕を掴んだ。
そして、俺達の背後にある岩壁に、2人を投げつけたのであった。
「ウワァ!」
「キャァァ!」
ドガッという衝突音と共に、2人は地面に落ちてきた。
イアちゃんは2人に慌てて駆け寄った。
「大丈夫ですかッ! レイスにシェーラ!」
「だ、大丈夫です、イメリア様……スートラの効果がありますので、なんとか耐えることが出来ました」
「私も……大丈夫です、イメリア様」
レイスさんとシェーラさんは、ヨロヨロと何とか立ち上がる。
だがその痛々しい姿は、幾らスートラが掛かっているとはいえ、相当なダメージを受けているのは明白であった。
(不味いな……早く回復しないと……)
俺は他の2人に指示を出した。
「イアちゃんはレイスさんにベルレアを。アーシャさんはシェーラさんに慈愛の杖で回復お願いします」
2人は無言で頷くと、早速、行動を開始する。
そして、俺はザルマンを窺いながら、魔力の流れを2つに分ける作業に取り掛かったのである。




