Lv.42 ラミリアン
[Ⅰ]
レイスという冒険者が来るまで、俺達はカウンターの近くにある空きテーブルで待つ事にした。
周囲のテーブルでは大きな声で笑い合う冒険者達の声が聞こえる。
なかなかに騒々しい酒場であった。
汗臭さや熱気も凄い。
彼等は風呂に入ってるのだろうか?
まぁかくいう俺も、ベルナ峡谷で水風呂ばかりだから、あんまり人の事は言えないが。
「コタローさん、その冒険者達が、旅慣れた者だと良いですね」
「そうですね。でも、今の話を聞いた感じだと、その辺は大丈夫な気がするんですよ」
「え、なぜそう思うんですか?」
「まぁなんとなくです。それに初心者相手とはいえ、武術指導できるほどの冒険者ならば、ある程度その道には通じてる筈ですからね」
「そういえば、先程の方はそんな事言ってましたね……」
アーシャさんはそう言うと、カウンターにいるエレンディアさんをチラッと見た。
「それと、これも俺の勘というか予想ですが、案外簡単に話はまとまるかもしれませんよ」
「どうしてですか?」
「ヘネスの月に入った頃から未だに仲間の募集をしているという事は、恐らく、今の彼等が持っていないもの、つまり、攻撃魔法や補助魔法の使い手を探しているのだと思います。まぁ裏を返せば、俺達にも当てはまる事ですけどね。要するに、バランスって事です。そう考えると、彼等と俺達は利害関係が一致するんですよ」
RPGを進めるセオリーというやつだ。
「ああ、そういう意味ですか。確かにそうですね……さっきの方も、優秀な魔法の使い手は少ないような事を言ってましたし」
「でもこれは、あくまでも可能性の話ですから、本当のところは会って話さないと、何とも言えませんが。ン?」
と、その時であった。
背後からエレンディアさんの声が聞こえてきたのである。
「はぁい、コタロー君、お待たせ~。連れてきたわよ」
俺は後ろを振り返った。
するとそこには、エレンディアさんと共に、長く尖った耳をしたエルフみたいな男が立っていたのである。
背は高く、俺が見たところだと180cmはありそうだ。
金属製の鎧と剣を装備しており、、顔は人形のように整っていた。
サラッとした艶やかな長い銀髪と、そこから見え隠れする尖った耳とが一際目を引く。
まぁ要するに、イケメンエルフという表現がピッタリの男であった。
しかも、結構、筋肉質な身体をしているので、俺の目にはそこそこ腕のある冒険者に映ったのである。
「こちらが先程言ったコタロー君よ。優秀な魔法の使い手みたいだから、話を聞いてあげてくれるかしら。それじゃあ、よろしくお願いね」
それだけを告げ、エレンディアさんはカウンターへと戻ったのである。
さて、呼んだのはコッチだから、まず俺から自己紹介しておこう。
俺は椅子から立ち上がり、挨拶をした。
「初めまして。私の名はコタローと言います。お忙しいところ、お呼び立てして申し訳ありませんね。ちょっと少し込み入ったお話があるので、よろしくお願いします。では、立ち話もなんですので、どうぞ、こちらにお掛けになってください」
俺は空いている席に座るよう促した。
「では、お言葉に甘えて」
男は頭を下げると椅子に腰かけた。
「私の名はレイスという。もう知っているとは思うが、今はこの隣にある訓練場で武術指導をしている者だ。そして見ての通り、ラミリアンである」
「私はアーシャと申します。以後、お見知りおきを」
さてここからが交渉だ。
すると向こうから、話を切り出した。
「では、本題に入らせて頂こう。先程、エレンディアから、王都へ向かう為の仲間を探していると聞いたのだが、それは本当だろうか?」
「ええ、本当です。ですが、寄り道をしたい場所があるので、少し遠回りな旅の予定です。なので、それでもよければ、仲間になってもらえるとありがたいのですが」
「寄り道か……で、それはどの辺なのだ?」
「マール地方の北部にガルテナという村があるのですが、まずそこへ行ってから、王都へ向かうつもりです」
レイスという男は眉を寄せた。
「ガルテナ? ……すまない、初めて聞く名だ。私もこの町に来てから、日が浅いのでな。ちなみに、そこは遠いのか?」
俺はそこでアーシャさんに視線を向けた。
すると俺の心情を察してくれたのか、アーシャさんが話に入ってくれた。
「遠いといえば遠いですが、どの道、王都に向かうには北に行かなければなりません。ですので、そう考えますと、通り道とも言えますね。ただ、王都への最短の道ではないというだけです」
「そうであるか……で、出発の予定はいつなのだ?」
「一応、明日の早朝か、遅くても明後日の朝には出発しようと思っております」
「むぅ、早いな……。という事は、結論は急がねばならんか……」
レイスさんは目を閉じて腕を組み、何かを考え始めた。
暫しの沈黙の後、レイスさんは口を開いた。
「コタローさん……私には他に仲間がいるのだが、今からその者達をここへ連れて来ても良いだろうか? 私だけでは決められないのでな」
「ええ、構いませんよ。それじゃあ、ここで待っていますので連れてきてください」
「すまぬ。では暫しの間、待っていてもらいたい」
レイスさんはそう言うと席を立ち、酒場を後にしたのであった。
[Ⅱ]
俺達はレイスさん達を待っている間、果実酒と幾つかの料理を注文し、それらを食べながら、他愛ない世間話をして時間を潰していた。
その間も酒場内の賑やかさは、相変わらずであった。
ワイワイガヤガヤと至る所から笑い声や話し声が聞こえてくる。
俺達の話し声を掻き消すくらいの賑やかさである。
だがある時、酒場内のどこかから、こんな会話が聞こえてきたのだ。
「おい、それよりも、お前聞いたか? あの魔炎公が、城の地下牢に投獄されたって話」
「おお、聞いたぞ。でもガセじゃないのか? だってアレだろ、魔炎公って言えば、イシュマリア王の親友だって噂だし……」
「そうそう。俺もそう思ってたから、嘘だと思ったんだ。でもさ、どうやら本当らしいぜ。それに異端審問まで行なわれるって話だ」
「本当かよ……いったい王都で何が起きてんだ? 王様も最近なんか変だっていうしさ」
「でも、おかしいのは王都だけじゃないよな。ここ最近、魔物の数も増える上、見た事ない魔物の姿まで目撃されてるらしいし」
「ああもう、やだやだ。お前等さ、もっと景気の良い話とかは無いのかよ」
「へへへ、じゃあ、このあいだ、俺と寝たイイ女の話でもしてやろうか」
「そんなもん聞きたくねぇよ。ガハハハ」
どうやら噂というものは、どこの世界でも一気に広がってしまうようだ。
(悪事千里を走るって諺があるけど、その通りだな……もうこんな所にまでヴァロムさんの噂が来ているとは……)
俺はそこでアーシャさんに目を向けた。
アーシャさんも今の話を聞いていたのか、不安そうな表情を浮かべている。
こればかりは無理もないだろう。
「アーシャさん、大丈夫だよ。それに今の状況は、ヴァロムさんも想定してたと思うから」
「そ、そうですよね。でなければ、コタローさんにあのような指示はしないですから」
「そうですよ。ン?」
するとそこで、酒場の入り口からレイスさんが姿を現した。
レイスさんは銀髪の女性1人と、背の低い青い髪の女の子1人をこちらに連れて来た。
どうやら、この2人が仲間のようだ。
「コタローさん、遅くなってすまない。これが私の仲間だ。さぁ2人共、挨拶をするんだ」
「初めまして、私はシェーラと言います。よろしくね、コタローさん」
まず、ボーイッシュなショートヘアーをした銀髪の女性が、軽快な挨拶をしてきた。
「私がコタローです。こちらこそ、よろしく。シェーラさん」
シェーラさんという方は明るい感じの女性であった。
このシェーラさんもレイスさんと同じく、輪郭の整った美しい顔つきと艶やかな銀髪、それと尖った耳をしていた。
モロにファンタジー世界の住人といった感じだ。
それと、胸当てや剣を装備している事からも、この女性がもう1人の剣士のようである。
次に、青く長い髪の女の子が挨拶をしてきた。
「わ、私はイアです……よ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね、イアちゃん」
人見知りをするのか知らないが、イアちゃんは少しオドオドしていた。
容姿は、小学校6年生くらいの女の子といった感じだ。
イアちゃんは、白いローブと杖を装備していた。
回復系魔法の得意な魔法使いとは、この子の事なんだろう。
「さて、それじゃあ、空いてるところに掛けてください。腰を落ち着けて、ゆっくりと話をしましょう」
3人は頷くと、空いてる席に腰掛ける。
そして俺達は、パーティを組む為の交渉を始めたのである。
*
で、その交渉の結果だが、俺達は互いに合意し、旅の仲間となる事で了承した。
だが、明日の早朝に出発するのは、レイスさん達も流石に難しいようであった。
その為、俺達もそこは譲歩し、出発は明後日の朝という事で話がついたのである。
まぁそんなわけで、今日は互いの親睦を深めるべく、俺達は酒を酌み交わしたのであった。




