Lv.4 洗礼
[Ⅰ]
翌日、俺はイシュラナの洗礼を受ける為、付近にある別の洞穴へと案内された。
そこは俺達が生活する所よりも、やや狭い洞穴だった。
地面の真ん中には、悪魔召喚ができそうなオカルト風の丸い魔法陣が描かれている。
魔法陣の両脇には金属製の小さな燭台が2つあり、そこに火が揺らめいていた。
この不規則に揺れる明かりの所為か、洞穴内部が不気味で陰鬱な世界のように俺には見える。
松明から発せられる焦げた嫌な臭いがこの空洞内に充満しているので、余計にそう見えるのだろう。
それはさておき、洞穴に入った俺は、ヴァロムさんに魔法陣の前へと案内された。
魔法陣は全て白い色で描かれており、この薄暗い洞穴の中では、一際、存在感を放っている。
また見たところ、かなり複雑な紋様が描かれてるので、これを描いたヴァロムさんも結構大変だったに違いない。
ふとそんな事を考えていると、ヴァロムさんの声が聞こえてきた。
「ではコタローよ。今よりイシュラナ第1の洗礼を始める。この魔法陣の中に入り、静かに腰を下ろすのだ」
「はい」
俺は言われた通り、魔法陣の中に入った。
そして魔法陣の中心で腰を下ろし、禅を組む。
俺は次の指示を待った。
「コタローよ、背筋を伸ばして目を閉じよ。そして深呼吸を静かに繰り返し、まず心を穏やかにするのじゃ」
「はい」
俺は言われた通りに目を閉じて深呼吸をして、心を落ち着かせる。
何回か深呼吸を繰り返したところで、ヴァロムさんの声が聞こえてきた。
「ふむ、そろそろ始めようかの。では今から魔法陣を発動させる。じゃが、その前に1つ言っておくことがある。昨晩も言うたが、この洗礼は肉体的な事ではなく、魂の目覚めを促すものじゃ。言うなれば、これは魂の洗礼。まずはそれをしっかりと認識するのじゃぞ。上手くゆけば、お主は呪文を得られるであろうからな。ではゆくぞ」
俺は目を閉じたまま無言で頷く。
するとその直後、「ムン!」というヴァロムさんの掛け声が聞こえてきたのだ。
掛け声が聞こえてから10秒程経過したところで、俺の中に変化が現れた。
なんと、身体が宙に浮かんだような感覚になったからだ。
それはまるで無重力を体験しているような感じであった。
いや、それだけじゃない。
浮遊感と共に、俺の周囲は神々しいほど白く美しい光で埋め尽くされたのである。
それは不思議な現象であった。
現実の俺は目を閉じている筈なのに、目の前には白い光の世界が広がっているのだ。
今までの人生でなかった経験である。
そういえばヴァロムさんは言っていた。
この洗礼は魂の目覚めを促すモノと……。
ならば、これは俺の魂が見ている光景なのかもしれない。
そう考えると、この現象にも少し納得が行くのだ。
不思議だが、とりあえず、そう思う事にしよう。
(光の大海原だな……すごい景色だよ)
俺は光の世界を見回した。
周囲を埋め尽くすこの白い光は、穏やかな海のように静かに波うっていた。
その為、俺自身が光の海の中をユラユラと漂っているかのようであった。
しかも、何故か分からないが、妙なリラクゼーション効果もあるのだ。
あまりにも気持ちが落ち着くことから、俺はこの浮遊感と光の海を少し堪能する事にした。
(日々の疲れが癒される気がするなぁ。ああ~気持ちいい。もういっその事、このまま寝てしまおうか?)
などと考えた、その時だった。
女性の優しい声が脳内に響き渡ったのである。
―― 頭上に見える光に向かって進みなさい ――
光?
俺は頭上に視線を向ける。
すると、眩いばかりの光源がそこにあった。
あそこから光が発せられているのは分かるが、この光の正体は一体何なのだろう?
まさか照明器具で照らしているなんてことはないとは思うが……。
気になった俺は、声の指示通りに、頭上の光源へと向かって進む事にした。
水の中を泳ぐように、俺は手と足を使って浮上する。
そして光源の付近に来たところで、またさっきの声が聞こえてきたのである。
――さぁここで貴方自身の瞼を開くのです。
――その先に見えるものが貴方の進む道標。
――それが貴方と我等の希望。
――さぁ立ち上がりなさい。
――そして恐れず前に進むのです。
貴方自身の瞼を開く?
どういう意味だ、一体……。
もしかして、現実世界にいる俺自身の瞼を開けという事なのだろうか。
まぁ俺自身の瞼と言っているから、多分そうなのだろう。
というわけで、俺は言葉にしたがい瞼を開く事にした。
ゆっくりと、俺は瞼を開いてゆく。
そして、完全に瞼が上がった、次の瞬間!
俺の目の前が弾けたように、閃光の如く光輝いたのである。
またそれと共に、俺の中にも異変が現れたのだ。
それはまるで、頭の中に、何かがドッと流れ込んでくるような感じであった。
上手く言えないが、それは決して嫌な感じのモノではなかった。
それどころか、どこか懐かしい感じがするモノであった。
(何だろう。この感覚は一体……。まるで、別の存在がいるかのようだ。誰だ、君は……俺の事を知っているのか? 誰だっていい……俺は何もしないよ)
俺はその異変に身を任せようとした。
遠くから声が聞こえてきたような気がした。
(え? ……何か言った?)
だがその直後だった。
周囲は突如真っ暗になり、俺は意識を手放したのである。




