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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第二章 前略、王都への道

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Lv.39 投獄

   [Ⅰ]



 ヴァロムさんが王都に向かってから9日目の事である。

 その日の朝、それは起きたのだ。

 日課になっている実戦訓練から帰ってきたところで……。

 俺が洞穴の中に入ろうとした時、アーシャさんが空から一筋の白い光と共に現れた。

 いつ見ても思う事だが、この風の冠は有り得ない移動手段である。

 アーシャさんは俺を目に止めると、慌てて駆け寄ってきた。

 だが様子が変であった。

 なぜか知らないが、青褪めた表情をしていたからだ。


「コ、コタローさん!」


 俺はとりあえず、普通に挨拶をしておいた。


「おはようございます、アーシャさん。どうかしたんですか? 修行の時間には、少し早い気がしますけど……」


 するとアーシャさんは、今にも泣きそうな表情で話し始めた。


「コタローさん……オルドラン様が……オルドラン様が……王都オヴェリウスで王を欺いたとして、城の地下牢に投獄されたそうなのですッ!」

「は? とうごく?」


 一瞬何を言ってるのか分からなかったが、今の内容を脳内で反復する事により、その意味はすぐに理解した。


「ちょっ、ちょっと……投獄ってどういう事ですか? 何でヴァロムさんが……」

「私にも何が何だか分かりません! 先程、お父様からそう聞いたのです。何が起きてるのか、さっぱりなんですから」


 アーシャさんは捲し立てるようにそう言うと、大きな溜息を吐いて顔を俯かせた。

 どうやら、アーシャさん自身も少し混乱してるようである。

 まぁこれは仕方ないのかもしれない。

 師として尊敬していた人物が、投獄されたなんて聞いたのだから、取り乱しもするだろう。

 だが、まずは冷静になった方がよさそうだ。


「とりあえず、落ち着こう、アーシャさん。それと、俺ももう少し詳細を知りたいから、順を追って話してくれますか?」


 アーシャさんはそこで顔を上げる。


「……コタローさんて、こんな話を聞いても意外と冷静ですね……もう少し驚くかと思ったのに」

「いや、十分驚いてますよ。でも、物事は整理して考えないとね。大事な事を見過ごしてしまうかもしれませんし」


 偉そうな事を言ってるが、ただ単に用心深くなっているだけである。

 これは現代日本での話だが、俺も色々と痛い目にも遭ってるのだ。

 人間関係や金……そして家族の問題等色々とあった。

 しかも酷い嘘で騙されたりした事もあったので、俺自身、物事を疑ってみる癖がついたのである。

 おまけにそれらの所為で、大学を止めなければならない事態にもなったし。

 やめよう、昔を考えると気が滅入る。

 今はそんな事よりも、ヴァロムさんの事だ。


「まぁそれはそうと、外で話すのもなんですから、中に入りませんか? ゆっくりと落ち着いた所で聞きたいですし」

「そうですね。確かに、こんな所で話す内容じゃありません。では、中で」



   [Ⅱ]



 洞穴へと移動した俺達は、中央のテーブルに行き、腰を据えて話をすることにした。

 で、投獄されたヴァロムさんだが……話を聞く限りだと、どうやら、イシュマリア王家を侮辱したという事がその理由だそうである。

 侮辱したという内容が気になるところだが、これ以上の事はアーシャさんにもわからないそうだ。

 また、それに関係しているのかはわからないが、ソレス殿下も王家からお呼びがかかったそうである。


(ソレス殿下も呼ばれたのか……王都で何が起きているんだ、一体……。この間のヴァロムさんの口振りを察するに、こうなる事を予想していた気がするんだよな。というか、ヴァロムさんは何を始めるつもりなんだ……)


 疑問は尽きないが、今の話で気になった事があるので、まずはそれを訊ねることにした。


「ところでアーシャさん。さっきソレス殿下が王家からお呼びがかかったといってたけど、それはヴァロムさんの事に関係してるのかい?」


 アーシャさんは元気なく頷いた。


「お父様の話では、八つの地方にいる八名の大神官と、八支族である太守全員に召集があったようなのです。そこから考えられるのは、恐らく……イシュマリアの血族とイシュラナに仕えし高位の神官が執り行う、大貴族への異端審問ですわ」


 異端審問……中世ヨーロッパの歴史で、よく見かける単語の1つである。

 当時行われていた魔女狩りなんかも、これに含まれた気がする。

 アーシャさんの様子からして、恐らく、意味合いはそれらとあまり変わりがないに違いない。

 要するに、一方的な断罪を下す宗教裁判ということだ。


「王家の侮辱と言ってたけど……そんな簡単なものではなく、少し複雑な事情がありそうだね」

「ええ、恐らくは……」


 さて、どうするべきか……。

 ヴァロムさんは10日経っても帰って来なかったら、ソーンのオッサンの指示に従えとは言っていた。

 一応、明日が10日後だが、今の話が本当ならば、帰って来ないのは明白である。

 ソーンのオッサンに訊いてみるのが早いだろう。

 俺はソーンの鏡を首から外し、テーブルの上に置いた。


「おい、ソーンのオッサン……今の話を聞いていただろ。オッサンは何か知ってるのか?」

「我はヴァロム殿が何をしたのかは知らぬぞ」

「本当かよ? 太陽の神殿から帰ってきてから、ヴァロムさんとオッサンはいつも一緒だったじゃないか」


 そう、オッサンとヴァロムさんは、いつも一緒にいた。

 おまけに、俺に聞かれないよう、密談のような事までしてたのだ。


「そんな事言われても、知らぬものは知らぬ」


 そんなわけないのだが、どうやらこの口ぶりだと、言ってくれそうになさそうだ。

 もしかすると、アーシャさんを気にしてるのかもしれない。

 まぁいい。とりあえず、話を進めよう。


「ところでアーシャさん、ソレス殿下はもう出かけたのですか?」

「いいえ、今日の昼に王都へ向かうと言ってました」

「そうですか……で、アーシャさんはこれからどうするのですか?」

「……私も真相が知りたいので、お父様に付いて行こうかと思ってます。ところで、コタローさんはどうするおつもりですか?」

「俺? 俺はヴァロムさんから頼まれている事があるので、それをしようかと思ってるよ」


 するとアーシャさんは、目を細め、怪訝な表情になった。


「頼まれている……。何ですか、それは?」


 俺はそこで昨晩のやり取りを思い返した。

 あの時ヴァロムさんは、『アーシャさんに言うな』とは言っていなかった。

 まぁ『言え』とも言ってなかったが……。

 するとそこで予想外の所から声が上がったのだ。


「アーシャさん、コイツはヴァロム殿から、ある役目を与えられておるのだよ」

「役目? 何ですの、それは?」

「ふむ……まぁまだ10日経ったわけではないが、もう言っても良いだろう。実はヴァロム殿から、『自分が10日経っても帰って来ない場合は、マール地方にあるガルテナという村を経由して、コタローを王都オヴェリウスへと向かわせてほしい』という指示を我は受けたのだよ」


 それを聞き、アーシャさんは驚きの表情を浮かべた。


「ガルテナですって……何でまたあのような所に」

「知ってるのかい?」


 アーシャさんは頷く。


「行った事はありませんが、知ってはいます。一応、マール地方の最北に位置するところですから。でも、かなり山の中を進まないといけないので、あまり人が寄り付かない辺鄙な所だと聞いたことがあります」


 どうやら、山中にある村なんだろう。


「山の中を行かなきゃならんのか……。話を聞く限りだと、なんか面倒くさい場所に聞こえるな。でも、行くしかないか。ヴァロムさんの指示だし……」

「ソーン様……ガルテナへは、コタローさんが1人で行かなければならないのですか?」

「いや、そんな指示は受けてないが」

「そうですか……それなら私もお供しましょう」


 何を考えてるんだろう、この子は……。

 無茶にも程がある。

 俺は思わず言った。


「はぁ? お供って……そんな事したら、ソレス殿下も流石にキレますよ。それに長旅になりそうですから、アーシャさんのような女性には危険が一杯です。だから絶対ダメっすよ」


 だがアーシャさんは折れてくれなかった。


「なら貴方が私を守ってくれればいいじゃないですか。というわけで、今日から貴方は、私専属の護衛者に任命します」

「専属の護衛者に任命って……話の流れ的に、その受け答えおかしくないですか?」

「おかしくありませんわ。それに他にも方法があります。マルディラントにあるエレンディアの酒場で、旅の仲間を募ればいいんですよ」


 エレンディアの酒場。

 なんか懐かしい名前が出てきたが、そんな事よりも今はこの子の説得だ。

 俺はソーンのオッサンに助けを求めた。


「おい、オッサンもなんか言ってくれよ。ヴァロムさんだって、こんなの絶対にうんと言わない筈だ」

「ふむ……だがそんな指示は、我も受けてはおらぬからな。別にいいんじゃないか、アーシャさんが一緒に向かっても」

「いや……受けるとか、受けないとかじゃなくてさ」

「流石、ソーン様です。話が分かります。じゃあ決まりですね。それじゃあ、コタローさん、明日の朝、こちらにお迎えに上がりますので、それまでにちゃんと準備をしておいて下さいね」

「ちょっ、だから危険だって何度も……」


 と言ったその直後……アーシャさんは睨みを利かせながら、物凄い迫力でこう告げたのであった。


【で・す・か・ら! 準備をしておいて下さいね!】と。

「はい……わかりました」


 というわけで、なし崩し的にではあるが、俺はアーシャさんと共に、ガルテナへと向かう事になったのである。

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