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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第二章 前略、王都への道

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Lv.37 アムートの月

   [Ⅰ]



 太陽が徐々に姿を現し始める早朝。

 俺はベルナ峡谷のとある場所へとやって来ていた。

 そこは周囲を高い岩の壁に囲まれ、やや窮屈な感じがする所だ。

 その影響か、風が吹いたりするような事もなく、静かで日当たりも悪い。

 広さを何かに例えるならば、サッカー場のペナルティエリアくらいのスペースだろうか。

 とりあえず、そんな感じの広さの場所であった。

 で、俺はここで何をしているのかと言うと……実は今まさに、魔物と戦闘を始めようとしているところなのである。

 俺の目の前には、カシャカシャと金属の触れ合う音を発している3つの物体がいた。

 いや、訂正……3体の魔物がいる。

 薄汚れた鎧の魔物……ゲームでは定番のモンスターである『リビングメイル』だ。

 こいつ等は、この広大なベルナ峡谷を宛てもなく、ただただ彷徨い続けており、少し哀れな感じのする魔物であった。

 ちなみにだが、こいつ等と出遭うのはこれが最初ではない。

 もうかれこれ数十回は遭遇している。

 そして、その度に、俺は奴等と戦闘を繰り返しているのであった。

 最初の頃は俺も委縮してしまったが、今ではもう慣れたものである。 

 だがとはいうものの、人間を見つけると問答無用で襲い掛かってくるので、油断ならない魔物には変わりがないが。


(さて……今日もリビングメイルと遭遇だ。しかし……鎧の魔物が多いねぇ、このベルナ峡谷は。なんでだろう? まぁいいか……)


 俺は注意を払いながら、3体のリビングメイルに目を凝らす。

 薄汚れた青い鎧の隙間からは暗闇以外、何も見えない。

 勿論、声を発する事もない。

 聞こえてくるのは、鎧が動く度に鳴る「ガシャガシャ」という無機質な金属音だけであった。

 どういう原理で動作しているのか分からないが、ヴァロムさんの話によると、死にきれない彷徨う魂がこれらの鎧に宿り、そして動かしているというのが、ここでの一般的な見解だそうだ。

 真偽のほどはともかく、その説が一番しっくりときたので、俺もとりあえず、そう考える事にした。

 まぁそんな事はさておき、今はコイツ等との戦闘である。

 幾ら慣れたとはいえ、油断は禁物なのは言うまでもない。


(では、俺式、魔法戦闘実験の開始だ!)


 俺は奴等を注視しながら、魔光の剣に魔力を籠め、青白い光の刃を出現させる。

 それから素早くペルミラとスートラを唱えた。

 その直後、緑色と青色に輝く薄い霧状になったモノが2つ、俺の身体に纏わりついてきた。

 これらの現象は、素早さと守備力の強化が施されたという証である。

 これでとりあえず、戦闘の準備は整った。

 俺は魔光の剣を中段に構えると、3体のリビングメイルの出方を窺った。

 向こうも俺が戦闘態勢に入ったのを感じ取ったのか、少し様子を見ているようである。

 俺はそこで、一番近くて斬りやすい位置にいる、左側のリビングメイルに目を向けた。


(さて……まずは、こいつから行くか……)


 左側のリビングメイルをロックオンした俺は、早速、行動を開始した。

 選択したのは勿論、物理攻撃の『たたかう』だ。

 俺は魔法で強化した身体能力を利用して、間合いを一気に詰め、リビングメイルに向かい、袈裟に斬り下ろした。

 その刹那、青白い光の刃が、リビングメイルを肩口から切り裂く。

 それから続けざまに、俺は右足の裏で、斬りつけたリビングメイルを思いっきり蹴とばした。

 リビングメイルは後方に勢いよく吹っ飛んでゆく。

 だがその時、残りの2体が続けざまに襲いかかってきたのだ。

 しかし、俺は慌てない。

 こんなのは想定の範囲内。

 俺はそこで、後ろにある岩壁へと向かって駆け出した。

 その時、背後をチラリと見る。

 奴等は一心不乱に、俺を追いかけていた。

 俺はそれを確認したところで、前方にある岩壁へと向かい突進する。

 そして、その岩壁を蹴って三角飛びのように跳躍し、追いかけていた奴等の背後に着地したのである。

 身体強化の恩恵だ。


(よし、背後を取った……隙あり!)


 俺はすぐさま、奴等の背中を縦に水平にと、魔光の剣で斬りつけた。

 斬撃を受けた2体のリビングメイルは、ヨロけながら、俺に振り返る。

 この動作を見た感じだと、かなりダメージを与えられたようだ。

 俺は間髪入れずに右手を突き出すと、そこでトドメの呪文を唱えた。


「ギルラーナ!」


 次の瞬間、俺の右手から、火炎放射器の如き炎が勢いよく放たれる。

 そして、2体のリビングメイルは、燃え盛る紅蓮の炎に包まれたのであった。


(こんなところかな……とりあえず、油断はしないでおこう)


 俺は暫らく、炎に焼かれるリビングメイルの様子を窺った。

 時間が経過するに従い、もがいていたリビングメイルも、次第に身動きをしなくなった。

 そして暫くすると、完全にその動きを停止したのである。

 恐らく、鎧を操っていた何かが消滅したのだろう。

 するとその直後、ギルラーナの炎は役目を終えたかのように消え去り、そこには焦げた鎧だけが静かに横たわっていたのだ。

 ちなみにだが、この世界の魔物はお金には変わらない。

 つまり、魔物を倒して、手軽にお金を稼ぐなんてことは無理なのである。

 お金を稼ぐには、現実世界と同様、働いて稼ぐしかないのだ。

 それはさておき、魔物が動かなくなったのを見届けたところで、俺は魔光の剣を仕舞った。


「……さて、帰るか。朝稽古にはちょうどいい魔物だった」


 俺は誰にともなく、そう呟きながら、後ろを振り返る。

 だがその時、斜め前方に見える岩陰から、女性の声が聞こえてきたのであった。


「へぇ……朝早くから、こんな事をしてたんですね、コタローさん」


 俺は岩陰に視線を向けた。

 するとそこからアーシャさんが姿を現したのだ。

 今日のアーシャさんは髪をツインテールにしており、少し活発な雰囲気であった。

 まぁ実際に活発な子なので、ある意味、アーシャさんによく似合う髪型である。

 だがそんな事より、ここにアーシャさんがいる事の方が驚きであった。


「え、アーシャさん? お、おはようございます……というか、何でこんな所にいるんですか? まだ修行の時間には早いように思うのですが……」


 そう……アーシャさんが修行に来るのは、もう少し後なのだ。

 こんなに朝早くに来るなんてことは、今までなかったのである。

 勿論、これには理由がある。

 実はアーシャさんがヴァロムさんに弟子入りを認めてもらう際、ソレス殿下との約束で、こちらへの滞在時間は朝食後から夕食前までという決まりがあったからだ。

 だから俺は驚いているのである。

 そんな俺を見たアーシャさんは、そこでニコリと微笑んだ。


「昨日、オルドラン様から耳寄りな情報を得ましたので、今日は早めに来たのです」

「は? 耳寄りな情報?」


 俺は意味が分からんので首を傾げた。


「オルドラン様は言ってました。ここ最近、コタローさんが朝早くに出かけて何かをしているみたいだと。そういうわけで、今朝はコタローさんの後をこっそり尾けさせてもらったのです」

「さ、さいですか」


 俺は後頭部をポリポリとかいた。

 ヴァロムさんも余計な事を……。


「それにしても、コタローさん……貴方、随分と腕を上げましたね。初めてお会いしたジュランの月の頃とは雲泥の差ですわ」

「まぁあの頃からだと、かなり月日も経ちましたからね。今はもうアムートの月です。俺も少しは成長しましたよ。それに物騒な場所ですから、ある程度腕を上げとかないと、何があるかわからないですからね。これはその為の訓練というやつです」


   *


 話は変わるが、この世界では1年を6つの月に区切っており、ぞれぞれがアレス・ジュラン・ゴーザ・ヘネス・アムート・ラトナと呼ばれている。

 因みに、月の並びもこの順番である。

 また、1つの月が60日くらいはあるので、現代日本でいう2か月相当と考えた方がいいだろう。

 そういうわけで、俺がこの世界に来てから、もう既に8か月も経過しているのだった。

 しかも、帰る為の糸口すら見つからない、なんとも悲しい話なのである。

 もうお手上げというやつだ。

 気が滅入るので話を戻そう。


   *


 アーシャさんは俺をマジマジと見ていた。


「どうかしました? 俺の顔に何かついてますか?」

「……今のコタローさんならば、私専属の護衛として働いてもらってもいい気がしますわね。それに、オルドラン様の愛弟子であるコタローさんならば、お父様もお認めになると思いますし」

「えぇ……アーシャさんの護衛ッスか。それはちょっと……」


 正直、勘弁である。

 アーシャさんのようなキツイ性格の人間に使われるのは、確実に心身が疲れるからだ。

 だが、今の言葉を聞いたアーシャさんは、ムスッとした。


「なんですか、その反応は……。私の元で働けるのですから光栄に思いなさい」

「へ? あの……もう確定なんですか?」


 アーシャさんはコクリと頷くと、遠慮なく言った。


「ええ、確定です。実を言いますと、護衛とかを抜きにして、前からそうしようと思っていたんです。だって貴方……フォカールの魔法を使えますから、私の道具箱として最適なんです。ですから、私以外の人間には仕えさせませんよ」

「ちょっ、マジすか!?」


 俺は少しゲンナリとしながら溜め息を吐いた。

 そして、フォカールの魔法なんて覚えるんじゃなかったと、少し後悔もしたのであった。

 だがとはいうものの、このフォカールは俺自身にとっても便利な魔法である。

 それもあってか、溜め息を吐くと同時に、諦めにも似た気持ちも湧いてきたのだ。

 アーシャさんはそれを見透かしたかのように微笑む。


「ウフフ、諦めて貰いますわよ。まぁそれはそうと、コタローさん、貴方……朝早くから魔物との戦闘を何回かしてましたけど、これから一体何をするつもりなんです?」

「へ? 何って……もう帰るところですが……」


 すると今の返答が意外だったのか、アーシャさんは首を傾げた。


「え? という事は……毎朝、魔物と戦闘をしてらしただけなんですか? なんでまた?」

「俺も新しい魔法を得たので、使いこなせるようになろうと思いましてね。だから、魔物と戦闘をして訓練をしていたんですよ。実戦に勝る訓練は無いですから」


 まぁとはいっても、俺の戦闘相手はリビングメイルが殆どであった。

 何故、リビングメイルばかりと戦闘するのか?

 それは、無機質な鎧の魔物なので、倒してもあまり罪悪感が湧かないというのが大きな理由である。

 とはいえ、勿論、他の魔物とも遭遇する事はあるので、その時は命を奪う覚悟を決めるが……。


「へぇ~、コタローさんて努力家なんですね……」


 アーシャさんは意外そうに俺を見ていた。

 どうやらアーシャさんの中で、俺は怠け者になっているのかもしれない。

 ちょっとショックである。

 こう見えても、俺は努力はする方なのだ。

 少しは横着もするけど。


「でも、多少の心得が無いと生きてくのが辛いですからね、この世界は……。それに俺の故郷には、こんな言葉があるんですよ……備えあれば憂いなしってね。日頃から準備しておけば、いざという時には何事も心配はいらないって事です」 

「確かに、コタローさんの言う事も一理ありますね。それに、お父様やお兄様も言ってました。ここ最近、マール地方にも凶暴な魔物が増えてきていると。ですから、コタローさんの考え方は正しいと思いますよ」


 魔物が増えているというのは、俺もつい最近、ヴァロムさんから聞いたので知っている。

 というか、実を言うと、戦闘訓練をしている理由の1つには、これもあるのだ。

 なんとなく、嫌な予感がするのである。

 ここが龍の神の幻想譚なら、今の兆候は、確実に何かの前触れのような気がするからだ。

 鍛えておかないと不味い気がしたのである。


「らしいですね。まぁそういうのもあるんで鍛えているんですよ」

「そうだったんですね。邪魔をしてしまったようですね……」

「いいですよ。気にしないでください。それに、もう訓練は終わりましたから。さて、それじゃあ戻りましょうか」

「ですね。謎も解けた事ですし」

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