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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第一章 前略、RPG世界より

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Lv.36 風の冠

   [Ⅰ]



 ヴァロムさんの様子が変だったので、俺とアーシャさんは互いに顔を見合わせると首を傾げた。

 するとそこで、アーシャさんは何かを思い出したのか、ポンと手を打った。


「あッ、そう言えば、遺跡で手に入れた道具の事を忘れてました」

「そういや、そうだった」


 俺もこの空気の所為か、それをすっかり忘れていた。


「あの、ヴァロムさん。今、ちょっといいですか?」

「ン、何じゃ?」

「試練を乗り越えた褒美かどうかはわからないのですが、ソーンのオッサン曰く、精霊王からの贈り物というのを貰ったんですよ。どうしますかね?」

「ふむ。精霊王の贈り物か……。で、どんな物を貰ったのじゃ?」

「ちょっと待ってくださいね。今出しますから。フォカール!」


 俺は早速、フォカールの呪文を唱えた。

 そして腕を振りおろし、空間に切れ目を入れたのである。

 ヴァロムさんは目を見開き、驚きの表情を浮かべた。


「な、何じゃ、その魔法は……」

「これ、フォカールといって、空間に物を保管する魔法らしいです。贈り物の中にこれの魔法書があったので、それを使ったら修得できたんですよ」


 アーシャさんが頬を膨らませ、ムスッとした。


「しかも、1つしかなかったので、コタローさんしか修得できなかったんです。ただただ残念です」


 俺はそんなアーシャさんに苦笑いをしつつ、切れ目から道具を幾つか取り出した。

 そして、それらを幾つか、テーブルの上に置いたのだ。


「これが手に入れた道具なんですが、こういったグリフィンの翼とか炎の剣とか、まだ他にもあるんですけど、とにかく、凄い品々ばかりなんですよ」


 ヴァロムさんはガバッと前に身を乗り出し、食い入るように見ていた。


「こ、これはまた豪勢な贈り物じゃな……。オヴェリウスの王城にある宝物庫でも、こんな物は滅多にお目にかかれんぞい……」

「本当です。ですから、これは私達だけの秘密にしておいた方が良いと思います。だって、歴史的な遺産ばかりなんですから」


 2人は少し興奮気味であった。

 また、ヴァロムさんのこの様子を見る限りだと、グリフィンの翼が物凄い貴重品というのは間違いないようである。


「で、どうしますかね? 3人で分けますか?」


 するとそこで、またソーンのオッサンが話に入ってきた。


「オホン、お話し中のところ悪いが……精霊王がその品々を贈ったのには理由があるのだぞ」

「え、何ですか、理由って?」

「実はな、我が神殿に封印される前、精霊王は確かこんな事を言っていたのだよ。『ミュトラが施した九つの封印を解く前に、邪悪で強大な敵が必ず立ち塞がるだろう。この武具や道具は、その助けになればと思い、そなたと共にここに封印しておく。そして試練を乗り越えし者が現れた時、その者にこれを渡してもらいたいのだ』というような事をな」


 ヴァロムさんは腕を組み、また顎鬚を撫でた。

 思案中である。


「ふむ……邪悪で強大な敵か……。確かに、その可能性はあるじゃろうの。そういう事ならば、使いどころを間違えんようにせねばならぬかもの」

「うむ。我もヴァロム殿と同意見だ。これらの品々は、この先に待ち受ける戦いに備えておいた方がよいと思うぞ」


 確かに、2人の言うとおりなのかもしれない。

 よくよく考えてみると、精霊王の贈り物は、戦いに役立つ物ばかりであった。

 その為、先に待ち受ける厄介事用にストックしておくのも、1つの手段なのである。


「オルドラン様、その中にある武具に関しては、私はそれほど関心は無いので別に要りません。ですが、祈念の指輪を1つとグリフィンの翼を幾つか頂きたいのです。よろしいでしょうか?」

「これは、試練を乗り越えたコタローとアーシャ様が本来貰うべき物じゃ。儂には関係ない物じゃから、2人で決めたらどうじゃ?」


 ヴァロムさんの言う事も一理ある。


「俺は別に構いませんよ。なんなら、グリフィンの翼は全部持って行ったらどうですか」


 するとアーシャさんは意外に思ったのか、凄く驚いた表情をしていた。


「え、全部貰っていいんですの?」

「はい、構いませんよ。風の冠もありますし」


 だが今の言葉を聞くなり、アーシャさんは眉根を寄せて、怪訝な表情を浮かべたのである。


「はい? ……今のはどういう意味ですか?」


 俺は失言を自覚した。


(あ、しまった……つい余計な事を言っちまった。どうやって誤魔化そう……)


 などと考えた、その時。

 ソーンのオッサンが、更に余計な事を言ったのである。


「ああ、それはな。風の冠にはグリフィンの翼と同じ能力が秘められておるからだ。しかも、一度しか使えないグリフィンの翼と違って、何回でも使える。まぁ要するに、非常に便利な魔道具という事だな」


 それを聞くなり、アーシャさんはキラキラと目を輝かせた。


「と、という事はですよ、ソーン様……風の冠を使用しても、グリフィンの翼と同様、色んな所へ一瞬で行く事が可能なのですね? 何回も使えるんですね?」

「まぁ確かにそうだが、使用者が一度行ったところでないと駄目だがな」

「ソーン様、それは文献で見たので存じております。ですが、風の冠という物にそんな力があったとは知りませんでしたわ。ウフフッ……そうですか、そうですか。それは良い事を聞きました」


 と言うとアーシャさんは、満面の笑顔を浮かべ、俺に視線を向けたのだった。


「コタローさん。祈念の指輪を1つと風の冠は、私が頂いてもよろしいですか? 他の道具は全て貴方に差し上げます」

「か、風の冠をですか……」


 正直言うと、俺もこの中では狙っていたアイテムであった。

 なので、少し返答に困ってしまったのである。

 寧ろ、武器関係をアーシャさんに全部上げようとまで思っていたくらいだ。

 だがそれが顔に出ていたのか、アーシャさんは妙な迫力を発しながら俺に告げたのであった。


「……勿論、【良い】ですよね、コタローさん。だって貴方、【フォカール】の魔法も得られた上に、贈り物の大部分を得られるのです。【嫌】とは言わせませんよ」


 アーシャさんは笑みを浮かべながら、凄い睨みをきかせてきた。

 そして俺は、アーシャさんの迫力に、あっさりと屈したのであった。


「は、はひ……わかりました。風の冠はアーシャさんに差し上げます」

「ウフフ、ありがとうございます、コタローさん。では早速、頂きますね」


 アーシャさんは行動が早かった。

 流れるような動作で立ち上がると、空間の切れ目に手を伸ばし、目的の品をサッと取り出したのだ。

 それから両手で風の冠を大事に抱え、ソファーにゆっくりと腰を下ろしたのである。

 ちなみに、風の冠は白い羽で編んだリースのような形をしており、青い澄んだ水晶球が装飾されていた。

 大空へ飛び立てそうな羽冠である。

 それはさておき、アーシャさんはホクホク顔であった。

 そんなアーシャさんを見て、ヴァロムさんはニコニコと微笑んだ。


「良かったの、アーシャ様。欲しい物が手に入ったようで、何よりじゃな」


 だがしかし……意外にも、アーシャさんは首を横に振ったのだ。


「いいえ、まだ目的を達していません。必要な物が手に入りましたので、ここからが本題ですわ」

「ここからが本題?」


 ヴァロムさんは首を傾げた。

 するとアーシャさんは、畏まったように居住いを正した。

 そして恭しく丁寧に頭を下げ、ヴァロムさんに言ったのである。


「オルドラン様、お願いがございます。私を弟子にして頂けませんでしょうか? どうかこの通りです。お願い致します」

「はぁ? で、弟子にじゃと……」


 ヴァロムさんは狼狽えた。

 まぁ予想外の展開だから仕方ないだろう。


「しかしのう、アーシャ様。ソレス殿下は、絶対に許さぬぞ。儂の弟子になるという事は、この城を出るという事じゃ。この意味を分かっておるのか?」

「ええ、確かに普通ならばそうですが、素晴らしい移動手段を手に入れましたので、この城からオルドラン様の住むベルナの地へ通おうと思っております。それならば、私でも可能ですので」


 ヴァロムさんは溜息を吐いた。


「じゃから、風の冠に拘っておったのか。そこまでは予想できんかったわい」


 アーシャさんは尚も続ける。


「オルドラン様、お願いします。試練の時、私はコタローさんの魔法を扱う力量を見て、オルドラン様の指導力に驚き、感服したのです。コタローさんは王位継承候補者たる証の魔法も修得しておりますので、勿論、魔法を扱う才能は高いのですが、それを抜きにしても素晴らしいと私は思いました。ですので、私も是非、その指導を受けたいと思った次第なのであります」


 今の話を聞いたヴァロムさんは、そこで俺に視線を向けた。


「コタロー……お主、試練であの魔法を使ったのか?」

「……はい、使ってしまいました。抜き差しならない事態になったので、あの魔法しか選択肢がなかったのです」


 俺は素直に謝った。

 ヴァロムさんも困った表情を浮かべる。


「ふむ……そうであったか。しかし、弱ったの」

「あの魔法については、私も口外するつもりはございませんので安心してください。それよりも弟子の件を、何卒、宜しくお願いいたします」


 そしてアーシャさんは頭を下げ続けたのだ。

 沈黙の時が過ぎてゆく。

 俺が見たところ、アーシャさんの様子は軽い感じではなく、真剣なモノであった。

 なので、ヴァロムさんも少し判断に迷っているのだろう。

 ヴァロムさんは、一体どういう判断を下すのだろうか……。

 暫しの沈黙の後、ヴァロムさんは口を開いた。


「ところでアーシャ様。その風の冠じゃが、一度、確認した方が良いと思うがの。古代の伝承ではグリフィンの翼の事を、色んな街へと移動できる魔法の翼と伝えておるが、今の世では誰もそれを確認した者はおらぬのじゃ。まずは、その伝承が本当かどうかを調べてからにしたらどうじゃ? 儂に弟子入りするかどうかは、それからでも遅くはあるまい」


 アーシャさんはそれを聞き、ハッと顔を上げる。


「確かに……そうですね。ソーン様の事を疑うわけじゃありませんが、一度、確認をしてみた方が良いかもしれません」

「あ、1つ言っておくが、建物の中や屋根のある場所では使うなよ。痛い目に遭うぞ。確認するなら空の下でやれ」


 ソーンのオッサンはお約束な忠告をしてきた。

 確かに、これも重要なことである。

 俺もゲームでは、何回も天井に頭をぶつけたのを思い出す。

 また、それを思い出すと同時に、当時の懐かしさも蘇ってくるのである。


「え、そうなんですか? じゃあ、人のいない城の屋上で試したほうが良さそうですね」

「ところでアーシャさん、その冠の使い方ってわかるんですか?」


 俺の指摘を聞き、アーシャさんは焦った表情になった。


「そ、そういえば……わかりませんね」

「ですよね。オッサンは知ってるのか?」

「ああ、知っておるぞ」


 アーシャさんは祈るように両手を組み、オッサンに懇願した。


「ソーン様、使い方を教えてくださいませんか。お願いします。このとおりです」

「うむ。いいとも」



   [Ⅲ]



 マルディラント城の屋上にやってきた俺達は、人気のない一画へと移動する。

 周囲に人がいないのを確認したところで、アーシャさんは俺に視線を向けた。


「ではコタローさん。先程、ソーン様から言われた通りの手順でやってみましょう。オルドラン様の住んでおられるところを想像して、私とオルドラン様をそこまで連れて行ってください」

「わかりました」


 俺は少し緊張気味に返事をした。

 何でこんな事になったかと言うと、要するに俺は実験台になったのである。

 使い方自体は、魔導師の杖を使うのとそれほど変わらないので難しくはない。

 だが、なにぶん初めての事なので、少し緊張もするのだ。


(さて、ではやってみるか)


 俺はまず風の冠を被ると、隣に来るようヴァロムさんとアーシャさんを手招きした。

 これには勿論理由がある。

 ソーンのオッサン曰く、転移させられる範囲が、使用者を中心に半径3m程度しか無いとの事だった。

 つまり、それ以上の範囲は転移できないのである。

 2人が所定の位置についたところで、俺は冠に取り付けられた青い水晶球に触れ、僅かに魔力を籠めた。

 続いて、ヴァロムさんの住処を想像し、そこへ行きたい! と、強く願ったのだ。

 するとその時である。


「おお! う、浮いた」


 俺達の周りに旋風が巻き起こり、身体がフワリと浮き上がったのだ。

 そして、次の瞬間、信じられない事が起きたのである。

 なんと俺達は白い光に包まれ、一気に上空へと飛翔したからである。

 俺は何が起きたのか分からなかったが、そんな事を考えている時間もなかった。

 なぜなら、もう既に俺達は、目的地であるヴァロムさんの住処へと到着していたからだ。

 そう、あっという間の出来事だったのである。


(どうなってんだよ……もう着いてんじゃねぇか……)


 俺達はベルナ峡谷にあるヴァロムさんの洞穴の前へと、フワッと舞い降りるかのように着地した。

 俺は周囲を見回しながら、ボソリと呟いた。


「こ、ここは……間違いない。ヴァロムさん住処だ」

「こりゃ……たまげたわい。まさか本当に、このような物があったとは……」


 ヴァロムさんも驚きを隠せないのか、目を見開きながら周囲の光景を見回していた。

 また、風の冠の持ち主であるアーシャさんも、キラキラと目を輝かせて、しきりに感動していたのだ。


「す、素晴らしいです。これが古代魔法文明の力……。私はついに手に入れました! 素晴らしい古代の遺産を!」


 アーシャさんは興奮を隠せないのか、終始、ハイテンションであった。

 勿論、俺もである。


(いいなぁ……風の冠。この転移アイテムを俺のモノにできなかったのが、残念だよ)


 俺はあの失言により、風の冠を手に入れられなかった事を悔やんだ。  

 これからは、口は禍の元というのを肝に銘じるとしよう。

 それはさておき、俺達はその後、マルディラント城に一旦戻り、また客間へと移動した。

 そして、アーシャさんは改めて頭を下げ、ヴァロムさんへの弟子入りを懇願したのである。


「お願いします、オルドラン様。私を弟子にしてください」


 その行為は10分くらい続いた。

 ヴァロムさんもそんなアーシャさんを見て、かなり悩んでいるみたいだ。

 だが、根負けしたのか、暫くすると、ヴァロムさんは諦めたように溜息を吐いたのだった。


「ふぅ……仕方がないのぅ」


 アーシャさんはそこで、そっと顔を上げた。


「では、よろしいのですね?」


 だがヴァロムさんは首を縦に振らなかった。

 その代わりに、人差し指をアーシャさんの前に立てたのである。


「1つ条件がございますな。アーシャ様自身がソレス殿下をちゃんと説得しなされ。それが出来たら、儂はアーシャ様を弟子として迎え入れよう。殿下に内緒で、というわけには流石にいかぬのでな。御理解いただきたい」

「お父様を……ですか」


 アーシャさんは少し眉を寄せたが、すぐに元の表情へと戻り、笑顔で答えた。


「わかりました。お父様を必ず納得させてみせます」

「うむ。まずはそこからじゃ」



 ―― 第一章 終 ――     草々

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