Lv.34 鏡の談話
[Ⅰ]
イデア遺跡群を後にした俺達は、日も傾き始めた頃、ようやくマルディラント城へと帰って来ることができた。
そして、城内に入った俺とヴァロムさんは、疲れていた事もあり、そのまま客間へと移動し、中で寛ぐ事にしたのである。
俺は客間に置かれたソファーに腰かけると、肩の力を抜いて大きく息を吐いた。
そして、イデア遺跡群からの長い道のりを思い返したのだった。
今考えてみると、結構スリリングな帰り道だった気がする。
なぜなら、行きと違って、避けられない魔物との戦闘が何回かあったからだ。
だがとはいうものの、素早い飛行が出来るガルーダのような魔物との戦闘が少しあっただけで、魔物が大集団で攻めてくるということは無かった。
その為、それほど危機的な状況にはならなかったのが、不幸中の幸いだったのである。
やはり、ヴァロムさんが第1陣の魔物達をすぐに始末したので、それが良かったのだろう。
そんなわけで、俺は今、奴等を纏めて葬ったヴァロムさんに、凄く感謝しているところであった。
(もしかすると、あそこで手間取っていたら、俺達は魔物の大集団を相手にせねばならなかったのかもな……怖っ)
ふとそんな事を考えていると、ヴァロムさんが向かいのソファーに腰かけた。
「今日はご苦労さんじゃったな、コタロー。遺跡では色々とあったそうじゃし、さぞや疲れたであろう?」
「全くですよ。まさか、俺自身が試練を受ける羽目になるとは思いませんでしたからね。あれは想定外でした」
「じゃろうの。まぁそれはともかくじゃ……」
ヴァロムさんはそこで身を前に乗り出し、小声で話を続けた。
「コタローよ……それはそうと、一体、あそこで何があったのじゃ? お主は太陽神の試練を乗り越えたとか言っておったが……」
「ああ、それならば、本人に直接訊いてもらえばいいと思いますよ」
俺は胸元から、ソーンの鏡を取り出した。
「なぁ、ソーンのオッサン。あの時の事をヴァロムさんに説明してよ」
「なんで我が……自分で説明すればよかろう」
「な、なんじゃ、その鏡は? 喋れるのか?」
流石のヴァロムさんも、この鏡には驚いたようである。
「そうなんスよ。しかも、結構心の狭い鏡でね。まぁそれはともかく、オッサン、説明してよ。俺はもう、心身ともに疲れちゃって、上手く説明できないからさ。だから頼むわ。つーか、そもそも、何であんな試練せなアカンかったのかが、未だに分からんし」
俺は面倒くさかったのと疲れてたのとで、ソーンのオッサンに丸投げした。
「クッ、礼儀知らずな馬鹿野郎め。仕方ない」――
というわけで、ヴァロムさんへの説明は、オッサンからしてもらう事にした。
ソーンのオッサンは簡単にではあるが、とりあえず、太陽の神殿での事や自分の事をヴァロムさんに話していった。
自分が真実を映し、まやかしを打ち破る鏡であるという事や、ソーンの鏡を手にするに相応しいかどうかを見極める精霊王の試練の事、その昔、自分が人々から太陽神と崇められていた事等を……。
また、これは俺も初耳であったが、5000年もの間、あの神殿の中にいたという事や、ソーンのオッサン自体が光の精霊であるという内容も話してくれた。
そして、ヴァロムさんも真剣な表情で、それらの話に耳を傾けていたのである。
「……と、まぁ簡単に説明すると、こんなところだ。理解してもらえたかな、ヴァロム殿」
ヴァロムさんは顎髭を触りながら頷いた。
「そうであったか……。大体、わかったわい。ところで今、精霊王という言葉が出てきたが、精霊に王がおるのか? 儂も精霊というモノの存在は知っておるが、それは初めて聞く」
「ヴァロム殿の言う通りだ。精霊王は、精霊界の頂点に立つ存在である。まぁ我等の様な精霊と違って、人々の前に現れたりする事は殆どないので、お主達が知らぬのも無理はないがな」
どうやら、精霊界というものがあるみたいだ。
俺はそれを聞き、ゲームでもそういう話があったのを思い出した。
ここでも、そういった世界があるという事なのだろう。
「ふむ、精霊王か……話を聞く限り、人の身では会う事すらままならぬ、神の如き高位の存在のようじゃな。そして、殆どの者達は、それすら知ることなく一生を終えるのじゃろう……」
「まぁ確かにそうだが……とはいえ、まったく人々と関わりが無いというわけではないぞ」
「ん、どういう意味じゃ?」
ヴァロムさんは眉を寄せる。
「精霊王リュビストは、太古の昔、全ての知的種族に文字と魔法を教えた存在でもあるのだ。だから、お主等は知らぬだろうが、この地上界における文明の発展と繁栄に大きく関与しているのだよ」
つまり、今の世界の文明は、リュビストが導いたと言いたいのだろう。
「リュビストじゃと……。では、古代リュビスト文字とは、精霊王が作り伝えた文字だというのか?」
「古代リュビスト文字? 古代の部分はともかく、リュビスト文字はその名が示す通り、精霊王リュビストが作った文字の名だ。そして太陽の神殿に刻まれている文字が、そのリュビスト文字である。古代リュビスト文字とやらが、その事を言ってるのであれば、それは精霊王が作った文字で間違いないだろう」
「なんと……むぅ」
今の内容に驚いたのか、ヴァロムさんは低い唸り声を上げた。
どうやらヴァロムさんも、初めて聞く話なのかもしれない。
「それと言い忘れたが、この文字は我等精霊と意思疎通を図れる唯一の文字でもある。だから、精霊の力を借りたいならば、覚えておいた方が良いぞ」
それを聞き、ヴァロムさんは微笑んだ。
「それに関しては心配しなさんな。儂は一応、古代リュビスト文字を読み書きできるからの」
「ならいい。コタローやアーシャさんは読めぬようだったから言ったまでの事だ」
精霊と意思疎通を図れる文字……。
実を言うと俺は、新たに入ってきた情報に少し混乱していた。
だが、こればかりは仕方がないのである。
なぜなら、古代リュビスト文字はおろか、この世界で今現在使われている文字すら、俺はわからないからだ。
その為、今の話を聞き、俺は改めて思ったのであった。
精霊はともかく、せめて人と意思疎通を図れるように、俺もこの世界の文字を学ばなければいけないと……。




