Lv.31 鏡の警告
[Ⅰ]
精霊王からの贈り物を全て片付けた俺達は、来た道を戻り、最初の部屋へとやってきた。
俺は抱えているソーンの鏡を前に掲げた。
「さぁ着いたぞ。どの壁だ?」
「我を左側の壁に向けよ。その向こうに巡礼の門がある」
「了解」
俺は左側の壁に向かい、ソーンの鏡を向けた。
するとその直後、鏡はカメラのフラッシュのような光を発した。
そして、先程と同じように、壁の一部が霧状になって、隠されていた茶色い扉が姿を現したのである。
俺達はその扉を開き、隣の部屋へと足を踏み入れた。
扉の向こうは、今いた部屋と同じような造りの所だったが、1つ大きな違いがあった。
それは何かというと、部屋の真ん中に、青白く光る煙が渦巻いていたからである。
(これはやはり、巡礼の門なんだな……ゲームだと何も考えずに飛び込んでいたが、リアルだと結構緊張するなぁ……)
後はここに立つだけだが、その前に確認しなきゃいけない事がある。
「なぁ、ソーンのオッサン……ところで、この巡礼の門は、どこに続いているんだ?」
全然知らない場所に出る可能性もあるので、これは潜る前に訊いておかねばなるまい。
「これの行き先は、お主達が入ってきた石版のある部屋だ」
「ってことは、あの大広間か。よし、では行く……」
と、俺が言いかけたところで、オッサンが遮った。
「待て……その前に、お主達に1つ言っておく事がある」
「言っておく事? 何をだ?」
「なんでしょう、ソーン様」
「実はな……ソーンの鏡の事は秘密にしておいてもらいたいのだ。だから、この先にいるであろう、お主達の仲間に何か聞かれても、鏡の事は伏せておいてほしい。いいな?」
アーシャさんは首を傾げる。
「何故なのですか?」
「今はまだ、ソーンの鏡の存在を知られるわけにはいかぬのだ」
「でもなぁ……俺達と一緒に来ている人達の中に、ヴァロムさんという人がいるんだけど、その人はソーンの鏡の事を知っているぞ。だから、俺達はここに来たんだし……あの人は騙せないよ」
恐らくヴァロムさんは、俺の話とあの古い書物の記述とを照らし合わせて、ここが怪しいと睨んだ気がするからだ。
なので、ヴァロムさんが俺をこの地に導いたも同然なのである。
「ちょっと待っておれ」
するとそこで、ソーンの鏡がぼんやりと光り、ヴァロムさんやティレスさん達の姿が映し出された。
天井から見下ろす、監視カメラのような映像だ。
「……この中に、そのヴァロムという者はいるか?」
「おお……こんな事までできるのか?」
「凄いです、ソーン様」
「この神殿内には、強力な精霊の力が張り巡らされているからな。それはともかく……どうなんだ? ヴァロムという者は、この年老いた男の事か?」
そこでヴァロムさんがズームされた。
「ああ、そうだよ。よくわかったな」
「ふむ……この男ならば認めてやろう。だがそれ以外の者には、私や精霊王の贈り物、そしてソーンの鏡の事は、絶対に話してはならぬ。いいな?」
なぜか知らないが、ヴァロムさんの事は認めてくれるようだ。
(ヴァロムさんはいいのか……えらくアッサリOKしたな。多分、何か理由があるんだろう)
まぁそれはともかく、俺達は互いに頷いた。
「わかった。約束する。誰にも言わないよ」
「私も誰にも言いません」
「頼むぞ。これは精霊王の命令だからな」
「でもそうなると、オッサンをフォカールで隠さないといけないな。ソーンの鏡は大きいから、こんなの持って行ったら、他の守護隊の方々も、流石に不思議に思うし」
「それは心配せんでいいぞ。我は鏡の大きさを自在に変化させられるからな。事のついでだ。お主達が携帯しやすいように、首飾りの形状へと変化してやろう」
そう言うや否や、オッサンは、俺の掌の上で小さくなったのである。
「なッ!?」
この現象には、俺もアーシャさんも言葉を無くしてしまった。
しかもソーンのオッサンは、直径5cm程度まで縮んだところで、首に掛ける金色の鎖も出したのだ。
(おいおい……6分の1くらいに縮んだぞ。おまけに鎖まで出すし……いったいこのオッサンは、どういう構造になってるんだよ)
ハッキリ言ってデタラメな鏡であった。
まぁとりあえず、ファンタジー世界なので、こういう事もあるのだろう。
「よし、では急……ン? これは……」
「なんだ? どうかしたのか、オッサン」
「お主達……急ぐぞ。なにやら不穏な気配が、この神殿に近づいておる」
「なんだよ、その不穏な気配って……」
「恐らく……魔物達だろう。この神殿の封印が解かれたのを察知したのかもしれぬ。急ぎ、ここを後にした方が良い」
これを聞く限りだと、なにやらヤバそうな感じだ。
俺はオッサンを首に掛けると、鏡を服の内側に入れた。
撤収開始である。
「行こう、アーシャさん」
「ええ、急ぎましょう。お兄様にも、この事を伝えないといけません」
そして俺達は、旅の扉へと足を踏み入れたのである。
[Ⅱ]
旅の扉を潜った先は、試練の始まりである石版の前であった。
俺はそこで、周囲を見回した。
すると、石板の付近にいるヴァロムさんとティレスさんの姿が、視界に入ってきたのである。
向こうも俺達に気付いたようだ。
ヴァロムさんとティレスさんは、俺達へと駆け寄ってきた。
「アーシャとコタロー君、大丈夫だったか!」
「2人共、無事であったか。一体何があったのじゃ?」
問いに答えたいのは山々だったが、今は不穏な気配の方が先だ。
「ヴァロムさん、大変です。詳しくは後で話しますが、魔物達がこの神殿に向かっているそうです」
「なんじゃと どういう事じゃ?」
「オルドラン様、私達は太陽神なる者に、そう告げられたのであります。そして急ぎ、この神殿を後にせよと言っておりました。ですから、早く撤収したほうが良さそうです」
「太陽神なる者だと……。アーシャ、それは本当か?」
ティレスさんは眉根を寄せた。
「本当です、お兄様。ですから、早く、帰りましょう」
「しかし、な……」
ティレスさんとヴァロムさんは、そこで困ったように顔を見合わせた。
2人の表情を見る限りだと、半信半疑といった感じであった。
時間が無いが、少し中であったことを話して、納得してもらうしかない。
「ヴァロムさん。実は俺達、太陽神の試練を乗り越えたんです。そこで色々と話を聞けたんですが、ついさっき、太陽神と名乗る者が俺達に忠告してきたんですよ。不穏な気配が迫っていると。なので、急いでここから立ち去った方がいいと思います」
「試練を乗り越えたじゃと、むぅ……」
ヴァロムさんは思案顔になった。
恐らく、判断に迷っているのだろう。
程なくして、決心がついたのか、ヴァロムさんは柏手を打った。
「……わかった。ここは、コタローとアーシャ様を信じよう」
ヴァロムさんはそこで、ティレスさんに視線を向ける。
「ティレス様、引き上げじゃ。守護隊の者にもそう伝えてくれぬか」
「はい……オルドラン様がそう仰るのであれば……」
ティレスさんはまだ半信半疑といった感じであったが、とりあえず、俺達はこの場を後にしたのである。




