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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第一章 前略、RPG世界より

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Lv.3 この世界は……

   [Ⅰ]



 その後もヴァロムさんの質問は続いた。

 だがそれに答えるたび、ここは一体どこなんだろうと考える自分がいる。

 ゲームの世界に、リアル人間が生身で入り込む……そんな事があるのだろうか?

 いや、その前に『龍の神の幻想譚』は、アニメチックな2次元の絵柄の世界観だ。

 こんな現実感あふれるリアルな風景は、あまり『龍の神の幻想譚』っぽくないのである。

 この人が流暢な日本語を話しているので、意外とここは日本のどこかという可能性も捨てきれなかったが、ヴァロムさんの話を聞いて、余計にそれから遠ざかった気がした。

 それに、ゲームの中に入るなんてことは、どう考えてもありえないし、考えたくもない事であった。

 だが実際に俺は今、そんな世界にいるのだ。

 またそう考えると共に、どんよりとした気分になってくるのである。

 当然だ。帰りたくても、帰り方が分からないのだから。


「ハァ……」


 俺は大きく溜息を吐いた。


「落ち込んでいるところ悪いが、コタローよ。お主が、何故、この地にいたのかは分からぬが、これから一体どうするつもりだ? このベルナ峡谷は、今のお主の装備で越せるほど、生易しいところではないぞ」

「こ、これからですか? これから……どうしよう……」


 フェードアウトするかのように、俺は声が小さくなっていった。


「ふむ……まぁ儂は見ての通り、独り暮らしだ。帰れる目途が立つまで、暫くの間、お主もここに住むか?」

「え? い、いいんですか?」

「ああ、構わぬ。お主だけなら、儂も面倒みてやれるからの。まぁそのかわりと言っては何だが、お主にも色々と仕事はしてもらうがな」

「あ、ありがとうございます」


 先程の戦闘を見た感じだと、この人はかなり腕に覚えもありそうなので、これは渡りに船かもしれない。

 もしここが『龍の神の幻想譚』の世界ならば、この人はそれなりにレベルの高い魔法使いの気がするからだ。 

 なぜなら、さっきヴァロムさんが使ったファーラミは中級魔法だからである。

 それに今は色々と情報が欲しい。

 もしかすると、現実世界に帰る為の方法が、この世界のどこかにあるかもしれないからだ。

 またそう考えると、少しだけ元気も出てきたのである。

 そんなわけで、俺はここがあの世界なのかどうかを確認する為に、今一度訊いてみる事にした。


「ところでヴァロムさん。さっきガムルとかいう化け物を倒した時、ファーラミとか言ってましたけど、あれは魔法ですか?」

「ああ、そうじゃ。儂は魔法を使えるからの」

「やっぱりそうなんですね。では他に、どんな魔法があるのですか?」

「ン、他か? まぁ、色々とあるの。そうじゃ、コタローよ。さきほど転んで擦りむいた腕を見せてみろ」

「あ、はい」


 俺は擦り傷がある腕をテーブルの上に置いた。

 ヴァロムさんは傷に右手をかざし、「レア」と呪文を唱えた。

 すると次の瞬間、ヴァロムさんの手が仄かに光る。

 そしてなんと、擦り傷は見る見る治癒してゆき、あっと言う間に元の皮膚へと戻ったのである。

 俺はこの効果を目の当たりにし、素で驚いた。


(間違いない……これは回復魔法のレアだ。しかも、初歩の魔法とはいえ、ここまで回復するなんて……)


 レアの効果に目を奪われたが、今のが決定的だった。

 俺は今の魔法を見た事で、ここは『龍の神の幻想譚』の世界かもしれないと、確信にも似た気持ちで受け止めたのである。


「まぁこんなとこかの。勿論、他にもたくさんあるが、それはお主自身の目で、これから確かめるがよかろう」

「魔法って、すごいですね。ところで、これって俺みたいな素人でも使えるんですか?」


 するとヴァロムさんは、ここで思案顔になった。

 俺には使えないという事なのだろうか。


「お主のその言い様じゃと、知らぬようだな。まぁいい。魔法はな、イシュラナの洗礼を受けてみねば、その才が見えぬのだよ」


 今のは初耳であった。


(は? イシュラナの洗礼? なんだそれ……龍の神の幻想譚って確か、Lvが上がれば魔法は勝手に覚えていくというシステムじゃなかったっけか。いやもしかすると、今いるこの世界は、俺がやった事のないシリーズなのかもしれない。事実、俺はⅠ~Ⅷまでしか、龍の神の幻想譚はやった事ないし……)


 やってない外伝シリーズも多いので、それらのどれかという可能性はあるのだ。

 まぁそれはさておき、とりあえず、話を進めよう。


「じゃあ、その洗礼というのを受ければ、俺にも魔法が使えるかどうか分かるという事ですね」

「そうじゃの。お主も魔法が使える様になりたいのなら、イシュラナの洗礼をうけるしかないの。なんじゃったら、明日にでもやってみるか?」


 ヴァロムさんの口から意外な言葉が出てきたので、俺はやや戸惑った。


「へ? そんな簡単にできるもんなんですか?」

「ああ。イシュラナの洗礼は、今のところ分かっておるだけで3つあるんじゃが、まず最初にする第1の洗礼は、魔法陣の中で瞑想するだけのものじゃから、それほど手間はかからぬ」


 話を聞く限りだと、かなり簡単に聞こえた。

 これなら俺にもできそうだ。

 それに、あのゲームの魔法を実際に使えるのなら使ってみたいという気持ちもある。

 というわけで、俺はお願いした。


「じゃあ、お願いします。何事も経験なので、イシュラナの洗礼を受けてみますよ」

「うむ。なら、明日までに洗礼の段取りをしておこう」

「あ……それと、もう1つ訊いていいですか?」

「何じゃ?」

「先程からヴァロムさんの話の中で、イシュマリアとかイシュラナとかいう似たような単語が出てくるのですが、それは何の名前なんですか?」


 するとヴァロムさんは苦笑いを浮かべた。


「今までのお主を見ている限り、その質問はしてくるだろうと思っておったわ」

「はは……ですよね。お互いに話が噛み合わないですし……」

「まぁよい。さて……それでイシュラナだが、この名は、この地の民が信仰する光の女神の名前じゃ」

「ああ、神様の名前なんですか。なるほど」

「うむ。それとイシュマリアじゃが、これはイシュラナがこの地に使わしたとされる御子の名前じゃよ。そして、我等の国の名前でもあるのじゃ」

「御子……国名……」


 よく分からんが、話の流れから察するに、このイシュマリアというのは、俺達のところでいうイエス・キリストのような存在なのかもしれない。


「ふむ、そうじゃな……お主は知らぬじゃろうから、簡単にイシュマリアの伝承を話そうかの」


 少し間を置き、ヴァロムさんは話し始めた。


「……遥かな昔、破壊の化身ラルゴという化け物が猛威を振るい、この地で破壊の限りを尽くしておったと云われておる。山や大地は業火に焼かれ、海は荒狂い、空は暴風が吹き荒れる。この大地に住まう多くの生きとし生ける命が、ラルゴによって奪われたそうじゃ。じゃが、それを見かねた光の女神イシュラナは破壊の化身ラルゴを倒すべく、自らの力を分け与えた戦士を地上に使わしたのじゃ。その戦士がイシュマリアであった。そしてイシュマリアはラルゴを見事に倒し、この地に平和をもたらしたと云われておるのだ」


 要するに、神に使わされた御子であるイシュマリアという勇者が、その化け物を倒したという事なのだろう。


「そうだったんですか。なんか色々とすごい話ですね……」

「じゃが、この話には続きがあっての」

「続き?」

「うむ。実はの、ラルゴを倒したイシュマリアは、イシュラナの元には帰らずに、そのまま地上に残ったのじゃ。日が経つにつれ、ラルゴを倒したイシュマリアの元には大勢の人々が集まるようになった。そして、いつしか人々は、イシュマリアを救世の王として崇め始めたのじゃ。こうして光の御子が治めるイシュマリアという国が誕生したのじゃよ」


 宗教国家あるある、みたいな感じだ。


「なるほど。ン? という事は、この国の王様って、イシュマリアの血筋なんですか?」

「そのとおりじゃ。国王は代々、神の御子イシュマリアの血族なのじゃよ」


 どうやらこの国の王家は、日本の天皇家に近いのかもしれない。

 確か初代天皇は神武天皇だけど、元をたどると天照大御神という神様らしいし。

 まぁあくまでも神話レベルでの話だが……。

 それはともかく、今のはこの地での常識的な話らしいから、一応覚えておこう。


 その後も、俺は色々とこの地についての質問をした。

 ヴァロムさんの口から出てくる内容は、どれもこれも馴染みのないものばかりだったので、俺はその都度戸惑ってしまった。

 まぁ予想していたこととはいえ、現実社会とのギャップを改めて思い知らされたのである。

 だが、俺は説明を聞くにつれて、少し奇妙な違和感を覚える事があった。

 しかし、その違和感が何なのか分からないのである。

 1つ言えるのは、光の女神イシュラナ……神の御子イシュマリア……破壊の化身ラルゴ……これらは、俺がプレイした龍の神の幻想譚には一切出てこない名前ということであった。

 なので、俺の知っているゲームの世界とは違う可能性があるのだ。


(ここは一体どのシリーズの世界なのだろう……いや、そもそも本当に、龍の神の幻想譚の世界なのだろうか……)


 情報が少ないので、まだはっきりと俺も断言はできない。

 それに、この人が日本語を流暢に話してることも、少し引っ掛かることであった。

 もしここが現代日本ならば、それほど気にする必要もないが、そうでないとすると何か違和感があるのだ。

 だがこうなった以上、ジッとしていてもしょうがない。

 今後、色々と情報を得る事ができれば、もしかすると、現実世界に帰る糸口が見つかるかもしれないからだ。

 前向きに考えて、とりあえず生きてゆこう。

 そう考えながら、俺はこの地での初日を終えたのであった。

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