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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第一章 前略、RPG世界より

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Lv.29 ソーンの鏡

   [Ⅰ]



 黄金の扉を開き、その先へと俺達は足を踏み入れた。

 するとそこは、巡礼の門に運ばれた最初の部屋と同じような感じの部屋であった。

 だが、1つだけ違うところがあり、部屋の中心部には、マヤのピラミッドを思わせる石の祭壇が鎮座していた。

 高さは俺の胸元当たりなので、そんなに大きい物ではない。

 また、祭壇の中央には、大広間でみた太陽のシンボルマークみたいなのが刻まれていた。

 そんな祭壇だが、一際目を引くのは天辺だろう。

 そこには、仄かに白い光を放つ丸い鏡があり、訪れる者を静かに待ち受けているからだ。


「コタローさん……あの鏡が気になりますね」

「そうですね。近くで見てみますか?」

「ええ」


 俺達は祭壇の前へと行き、暫し鏡を眺めた。

 丸い鏡は、台に立てかけられるようにして置かれている。

 真円を描く形状で、大きさは直径30cm程度。

 外周部分は、厳かな銀の装飾で縁取られていた。

 とりあえず、そんな感じの鏡であった。


(丸い鏡があるな。しかし、これ見よがしに置かれてんなぁ……)


 この鏡を見てまず思ったのが、『これがソーンの鏡なのだろうか?』という事だ。

 ゲームでは頻繁に出てくる名前だが、実物というのを見た事が無いので、俺には分からない。

 とはいえ、眺めているだけでは事態は進展しないので、俺は更に祭壇へと近づいて、鏡を覗き込んだ。

 すると、奇妙な現象がそこで起きたのだ。


「あれ、この鏡……なんか変だ」

「何が変なのですか?」

「だって、俺達の姿が映っていないんですよ。他の壁や床は映ってるのに……」


 アーシャさんも鏡を覗き込んだ。


「ほ、本当ですね……私達が映ってません」

「でしょ。何なんですかね。この鏡……」


 と、そこでアーシャさんがポンと手を打った。


「わかりました。この鏡は多分、まやかしを映して、真実を映さないという鏡なんだと思います。ですから、これを使って真実を探せって事なのでは?」

「あ、なるほど、多分、それですよ」


 アーシャさんの言う通りかもしれない。


「じゃあ、早速、始めますね。私が鏡で周囲を映しますので、コタローさんはそれらを確認していってください」

「了解です」


 と、その時であった。


「……その必要はない。見事だ。お主達が全ての試練を乗り越えた事を認めよう」


 どこからともなく、低い男の声が聞こえてきたのである。


「だ、誰だ!」

「誰ですか!」


 俺達は思わず叫んだ。


「我が名はソーン。真実を見通す者。そしてまやかしを打ち払う者である。さぁ偽像を映す鏡で、祭壇の中央にある太陽の印を映すがよい。そこに鏡を納めるのだ」


 俺はこの突然の展開に少し混乱していた。


(ソーンって……本人じゃんか。何だよ、この展開は……こんなのゲームになかったぞ)


 などと思いつつ、俺はそこでアーシャさんに視線を向けた。

 アーシャさんは頷く。


「コタローさんにお任せします」

「じゃあ、俺がやりますね」


 俺は祭壇の上にある鏡を手に取り、太陽のシンボルマークを映した。

 するとなんと、鏡には太陽のシンボルマークではなく、丸い窪みが映っていたのである。


(この窪みに鏡を納めろってことかな……まぁいい、やってみよう)


 俺はその窪みに鏡を納めた。

 するとその直後、祭壇は閃光のような物凄い光を発したのである。

 それはまるで太陽光を直視するくらいの眩しさであった。

 俺達はあまりの眩しさに、思わず顔を背けた。


「ンもう……また光るんですか。ここにきてから、眩しい事が多すぎです」


 アーシャさんのウンザリした声が聞こえてくる。

 確かに、アーシャさんの言うとおりである。

 この遺跡に来てからというもの、俺達は眩しい体験ばかりしてるからだ。

 そんなわけで、いい加減、俺達の目もチカチカしてるのである。

 まぁそれはさておき、暫くすると光は徐々に収束してゆき、この場は元の明るさへと戻っていった。

 俺は祭壇に目を向ける。

 だがその直後、俺は思わず目を見開いたのだ。

 なぜなら、祭壇が跡形もなく消えていたからである。


「な!? 祭壇が消えているッ!」

「あの祭壇は、どこにいったんですの!?」


 祭壇はまるで消失マジックのように消えていた。

 俺とアーシャさんは慌てて周囲を見回した。

 すると、えらく低い位置から、あの声が聞えてきたのだ。


「どこにも行っとらん。お主等の目はどこについておる。我はここだ」


 俺は声が聞こえた床に視線を向ける。

 だがそこには、先程と同じような丸い鏡が1つあるだけであった。

 1つ違いがあると言えば、鏡の縁取り部分が銀色から金色へと変化した事くらいだろうか。

 とりあえず、視界に入ってくるのはその鏡だけなのである。


「あの、ソーンさんでしたっけ。祭壇はどこにも行ってないとか、我はここだとか、今言いましたけど。鏡しかないですやん」

「そうですよ。何言ってるのですか」


 アーシャさんも俺に同調してくれた。

 すると、謎の声は呆れたように、こう告げたのであった。


「あのな……お主達の目は節穴か? 試練を乗り越えたというのに、ここでそれに気づかんとは……わざとやってるんじゃないだろうな」

「まさか、鏡がそうだとか言わないでしょうね。喋る鏡なんてあるわけないだろ」

「本当です。あまり馬鹿にしないでください」


 すると謎の声は、ボソリと呟いた。


「喋る鏡で悪かったな……」


 俺とアーシャさんは、眉間に皺を寄せながら顔を見合わせた。


「アーシャさん……鏡が喋ってるんですけど、どうします?」

「どうと言われましても……」


 そして俺達はこの展開を前に、暫し呆然と立ち尽くしたのであった。



   [Ⅱ]



 ソーンの鏡が喋る事を知った俺達は、とりあえず、冷静になって話し合う事にした。


「ところでソーンのオッサンさ。ここからそろそろ出たいんだけど、帰るのはどうすんだ? 俺達、ここに、巡礼の門みたいなので運ばれたんだけどさ」


 正直、あの試練にムカッ腹が立っていた俺は、もう敬語で応対するつもりはなかった。

 俺を面倒な事に巻き込みやがって。


「いきなり、オッサン呼ばわりか……。まぁいい。こんなのでも一応、試練を通過した奴だ。許してやろう。我は心が広いからな。お主みたいに、貧相な上に、マヌケそうで、それでいて頭が悪そうで、馬鹿者で、礼儀知らずで、世間知らずで、糞野郎な青二才に、そうそう目くじらは立てん。ありがたく思え」


 オッサン呼ばわりが、相当気に入らなかったようだ。

 声色がオッサンぽいくせに。


「……思いっきり心狭いやんけ。まぁいいや。で、どうやって帰るんだ?」

「出口は、お主達が来た最初の部屋の隣にある。我をその部屋の壁に向けろ。そうすれば、まやかしは解けて扉が見えるようになる」


 どうやら、巡礼の門で連れてこられた部屋の事を言ってるんだろう。

 一旦そこまで戻らないといけないようだ。


「1つお聞きしたいのですが、ソーン様は太陽神なのですか?」


 と、アーシャさん。


「太陽神? ああ、あの石版に書いてあったのを見たから、そう言っておるのだな。実を言うとな、あれはただの演出だ。ああやった方が、盛り上がるからな」


 なんつー軽い奴だ。

 イラッとくる。


「盛り上がるって……お前なぁ。その演出とやらの所為で、俺達がどれだけ苦労したと思ってんだよ」

「試練だから仕方ないだろう。お主達がやった試練は、我が考えた事ではないわ。あれは、精霊王が考えた試練なのだ。我はそれに従っただけにすぎん」


 精霊王……ファンタジーRPGでは、最高峰クラスの肩書である。

 これより上と言えば、神様か大魔王くらいしか思い浮かばない。


「という事は、ソーン様は太陽神ではないのですね?」

「太陽神ではないが……まるっきり嘘というわけでもない。なぜなら、今より遥かな昔、我は人々に太陽神と崇められた事もあったのだからな。まぁその時代の名残だと思ってくれればよい」

「名残なんですの……」


 アーシャさんは口角をヒクヒクさせていた。

 このオッサンのあまりに軽い返しに、引いてるのだろう。

 なんとも珍妙な話である。

 そして今の話を聞いた俺は、苦労して謎解きをしてきたのが馬鹿らしくなったのであった。

 もう、やってらんねぇといった感じだ。

 早く撤収したい気分である。

 というわけで、俺はアーシャさんに言った。


「アーシャさん。そろそろ帰りませんか。ティレス様やヴァロムさんも待ってるだろうし。まぁ戦利品はこのオッサンの鏡だけだけど」

「オッサンの鏡って言うな! ソーンの鏡と呼べ!」


 アーシャさんは俺達のやり取りを微妙な表情で眺め、溜め息を吐いた。


「はぁ……これ以上長居しても、しょうがないのでしょうね。この鏡だけのようですし」

「おお、そうだ! 忘れてた。お主達、奥にある壁に向かって我を掲げよ」


 オッサンは何かを思い出したようだ。


「壁に何かあるのか?」

「この奥に精霊王からの贈り物がある。一応、試練を乗り越えた者に渡せと云われとるんでな。まぁこんなクソ野郎にくれてやるのは、我もシャクだが……。あ、アーシャさんは別だぞ」

「はいはい、壁に鏡を向ければいいのね」


 かなり捻くれたオッサンのようだ。


(この野郎……どこが心広いんだよ。しかもアーシャさんだけ名前で呼んでるし……むかつくオッサンだ。まぁいい。とりあえずは、その贈り物とやらを拝ませてもらおうじゃないか)


 などと考えながら、俺はオッサンを壁に向かって掲げた。

 すると次の瞬間、鏡が眩く発光し、壁の真ん中が霧状になったのである。

 そして、霧が晴れたその先に、白い扉が現れたのであった。


「こんなところに扉があったんですね……」

「ですね」


 まやかしを打ち払えるのは本当のようだ。

 俺達は白い扉を開いて、その向こうへと足を踏み入れた。

 扉の向こうには、同じような広さの部屋があった。

 また、この部屋の真ん中には、大きな箱が幾つかあり、それらが一列に並べて置かれていたのである。

 どうやらこの中身が、精霊王からの贈り物なのだろう。

 中に何が入ってるのか分からないが、少し、興味が湧いてきたところである。


「ソーン様、この中に贈り物とやらがあるのですか?」

「うむ。そうだ。多分……」


 俺はすかさず突っ込んだ。


「なんだよ、多分て……。自分のいた部屋の隣の事くらい覚えとけよ」

「う、うるさい。我は意思はあっても自由はないのだ。その辺は大目に見ろ」


 アーシャさんが仲裁に入ってきた。


「まぁまぁ、落ち着いて。まずはこの中を見るのが先ですよ」

「そうですね。じゃあ、これから行きますね」

「どうぞ」


 俺は一番手前にある箱を開けた。

 すると中には、美しい装飾が施された鳥の翼みたいなのが、何枚も入っていたのであった。

 その翼には金の装飾パーツや水晶といったものが使われており、どことなく美術品を思わせる品物のように俺には見えた。

 だがゲームの説明書か何かで、これと同じような物を見た気がしたのである。


「あら綺麗……何ですの、それは」

「多分、これはグリフィンの翼だと思いますよ」

「クソ野郎のくせに物知りだな。そうだ。これはグリフィンの翼だ。間違いない。我が保証する」


 するとアーシャさんは目を大きく見開き、信じられない物を見るかのように叫んだのであった。


「グ、ググ、グリフィンの翼ですってェェェッ!?」


 何をそんなに驚いているのだろう。


「アーシャさん、どうしたんです、そんなに驚いて。グリフィンの翼がどうかしたんですか?」

「だってコータローさん、グリフィンの翼ですわよッ。これは古代魔法文明の全盛期ではそれほど珍しくはなかったらしいですが、今ではもう、失われた魔道具の1つとされている物なんです。それがここにあるんですよ。これが驚かずにいられますか! というか、なんで貴方はそんなに冷静なんですの!」


 俺は思った。

 グリフィンの翼まで失われていたのかよと。

 またそれと共に、こうも思ったのである。

 一体、どれだけのアイテムや魔法が失われているんだよと……。

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