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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第一章 前略、RPG世界より

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Lv.27 倒せない魔物

   [Ⅰ]



 俺達は攻撃の手を緩める事なく魔法を放ち続け、漆黒のローブ姿の化け物を後退させてゆく。

 だがこいつ等は、魔法攻撃を幾ら受けてもすぐに立ち上がり、何事も無かったかのように行動を再開するのである。

 それが不気味であった。

 とはいえ、攻撃の手を緩めるわけにはいかなかった。

 なぜなら、少しでも間が出来ると、すかさずこいつ等もファーラやブレイズといった呪文を唱えてくるからだ。

 しかし……どう考えても、俺達の攻撃でダメージを受けているような様子が見受けられない。

 その為、俺達の中にも次第に、焦りと迷いが生まれてきているのであった。

 俺は魔導師の杖を行使しながら、アーシャさんに言った。


「アーシャさん! こいつ等、もしかして俺達の攻撃が全然効いてないんじゃないですかッ。おかしいですよ。痛がったり弱ったりするような素振りを全然見せないです」

「で、でも、私達には攻撃するしか他に手はありませんわ。この2体の魔物を何とかしない限り、あの扉には辿り着かないのですから」


 アーシャさんの口調は明らかに狼狽えていた。

 やはりアーシャさんも、内心では駄目かもと思っているに違いない。


「ですが、アーシャさんの魔法は、俺と違って道具の力じゃない。このままの調子ならば、扉に辿り着く前に魔力が枯渇してしまいますよッ」

「そんな事は分かってますッ! でも後がない以上、先に進むにはこうするしかないのですッ。……ブレイズ!」

「しかし……無……いや、何でもないです」


 俺は無駄という言葉が出そうになったが、飲み込んだ。

 なぜなら、現状、アーシャさんの言う通りだからである。

 剣や鎧といった重装備ではない俺達は、これを続けて進み、あの黄金の扉まで行くしか方法がないからだ。

 だが……その道は物凄く遠い。

 すぐそこなのに、目の前の不気味な存在が、それを許してくれないからである。


(なんなんだ、コイツ等は一体……倒れても倒れても起き上がってくる。チッ……)


 俺は魔導師の杖を使いながら、そんな事を考えていた。

 またそれと以外に、俺の中で気になっている事が2つあった。

 まず1つは、幾らファーラやブレイズとはいえ、十数発も浴びれば、相当なダメージが蓄積しているということである。

 これがゲームなら、もう既に150~200ポイントのダメージは与えている筈だからだ。

 それともう1つは、奴等がファーラやブレイズを唱えてくることや、その動きを考えると、それ程強いレベルの敵には思えないという事であった。

 精々、俺達と同程度の強さな気がするのである。

 で、何が言いたいのかというと……要は、こんなに打たれ強いのに、その攻撃能力はあまりに弱いという事だ。

 俺がプレイした龍の神の幻想譚には、少なくとも、こんなアンバランスな敵はいなかった。

 その為、違和感を覚えると共に、奇妙な引っ掛かりをずっと感じているのである。


(この化け物達はなんかおかしい……手応えが全然感じられない。まるでサンドバックを攻撃してるような気分だ。本当に倒せるんだろうか……こいつ等を……)


 俺はそんな事を考えながらも、魔導師の杖からファーラを放ち、化け物を転倒させてゆく。

 そして徐々に前へと進んで行くのだが、黄金の扉まではまだまだであった。


(……いつになったらあそこまで辿り着けるのだろう。たった10m程度なのに、なんて遠いんだ……ン?)


 と、そこで、アーシャさんに異変が現れた。

 なんとアーシャさんは、床に片膝をついてしゃがみ込んでしまったのだ。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 アーシャさんは肩で息をしていた。

 俺は即座に攻撃の手を止め、アーシャさんに駆け寄った。


「大丈夫ですかッ、アーシャさん!」


 アーシャさんは苦しそうに口を開く。


「す、少し……魔法を使い過ぎたみたいです。ハァ……ハァハァ」


 かなり息が荒い。

 額からは幾つもの汗が流れ落ちている。

 恐らく、アーシャさんはもう限界なのだろう。

 俺はとりあえず、アーシャさんにレアをかけてみた。が、やはり、思ったほどの効果は現れなかった。

 魔力疲労は肉体的な損傷とは違うので、それ程の効果は望めないようだ。


「コータローさん……今は私よりも、アッチです」


 アーシャさんはそう言って、化け物を指さした。

 すると2体の化け物は、まるでビデオを逆再生させたかのように、スッと起き上がって来たところであった。


「クッ、しつこい奴らだな。なんで動けるんだよ」


 攻撃を大量に受けたにもかかわらず、化け物は平然としながら俺達へと向かって歩き出す。

 と、その時であった。

 化け物の1体が俺達に向かって右手を突き出し、呪文を唱えたのである。


「ジニアス」


 その刹那、俺に向かい、以前見たあの電撃が襲いかかってきたのだ。

 俺は慌ててアーシャさんをかばった。

 そして、俺はジニアスの直撃を受けてしまったのである。


「グアァァ!」

「コ、コータローさん!」


 電撃が俺の身体を走り抜ける。

 その痛みはファーラの比ではなかった。

 強烈な痺れと共に、刺すような痛みが全身を走り抜け、一瞬、気を失いそうになるほどであった。

 だが、俺は両膝を付いて四つん這いになりつつも、なんとか持ちこたえた。

 そして、俺は化け物を凝視したのである。


(グッ……ジニアスがこれほどキツイとはね。しかも、なんでこいつがジニアスを使えるんだよ……)


 この呪文を使える者は数えるほどしかいないと、ヴァロムさんは以前言っていた。それと、自分の知る限り、ジニアスを使える魔物はいないとも……。

 俺の中で更に疑問が深まってゆく。


「い、今の呪文は、まさか……イシュマリアの王位継承候補者しか使えない電撃呪文……。なぜ、こんな化け物が使えるんですのッ」


 どうやら、アーシャさんも俺と同じ見解のようだ。

 やはり、おかしいのである。


(どういうことだ一体……コルフィアスの魔法とかで俺の能力をコピーしたのなら、それも理解できるが……ン? コルフィアス? ……いや、違う。これはコルフィアスではない。まさか……こいつ等の正体とは……)


 この時、俺の中にある仮説が浮かび上がってきた。

 と、そこで、アーシャさんの悲鳴にも似た声が響き渡ったのである。


「コ、コタローさん! また化け物がッ!」


 俺は奴等に視線を向ける。

 すると、ジニアスを放った奴が、また俺達に向かって、手を突き出していたのだ。


(やばい……この動作はジニアスの気がする。この体勢じゃもう避けれない……今、もう一度喰らったら、確実に死んでしまう。何か方法は……アッ!)


 この時、俺の脳裏に、とある光景が過ぎった。

 そして、俺は一か八かの賭けで、それを実行に移したのである。


(上手くいってくれよ……)


 俺は魔光の剣を手に取り、魔力を籠めて光の刃を出現させた。

 と、次の瞬間。 


「ジニアス」


 また奴の手から電撃が放たれたのだ。

 俺は青白く輝く光の剣を縦にして、電撃を受け止めるように前に突きだす。

 その直後、バチバチとスパークする稲妻が魔光の剣に命中し、光の刃に絡みついたのであった。

 どうやら上手くいったみたいだ。

 遥か彼方の銀河系の映画では、暗黒卿が放った電撃を、ライトサイドの騎士がこうやって受け止めていた。

 それを参考に一か八かでやってみたのである。

 両方とも魔力で作られたモノなので、なんとなく上手くいくような気もしたのだ。

 だが、完全には無理であった。

 防ぎきれない電撃が、俺の手を伝ってくるからである。


(イタタタ……ビリビリと痛いけど、この程度なら、十分我慢できる範囲だ……)


 程なくして電撃は消え去る。

 ジニアスを凌いだところで、俺はすぐに癒しの魔法薬を使い体力回復に努めた。


「アーシャさん、また奴等の攻撃が来るッ。一旦、下がろう」

「は、はい、コタローさん」


 俺はアーシャさんの手を取り、少し後退する。

 そうやって、化け物との間合いを広げた。


「この魔物達は……いったい何なのですか? 攻撃がなかなか効かない上に、王位継承者が使う強力な魔法まで使ってくるなんて……」

「アーシャさん……俺の勘だと、コイツ等は倒せません。いや、俺達が死なない限り、倒せない気がします」

「は? 意味が分かりません。どういう事ですか?」


 アーシャさんは首を傾げた。


「これはあくまでも俺の想像なのですが、コイツ等は俺達自身が創り出した化け物のような気がするんです」

「私達が創り出した? 何を根拠にそんな事を……ならば、目の前の敵は、私達の分身や影だとでもいうのですか?」

「そうです。あれは……影……ハッ!? 影だって! ……まさか……真実の扉って」


 その時、アーシャさんの一言がスイッチとなって、今まで疑問に思っていたものが俺の脳内で目まぐるしく動き始めた。

 俺達と対峙する2体の存在。その向こうに見える黄金の扉。消えた入口。扉に書かれていた試練の内容。そして……それらをつなげるプラトンのイデア論。

 それらパズルのピースが全て繋がった気がしたのだ。


「……そういう事か。なんてこった……俺はとんでもない思い違いをしていた。この扉は実物、いやイデアではないんだ。なら、イデアは!」

「コタローさんッ、また奴らがッ!」


 俺は慌てて振り向く。


「クッ、しまったッ!」

「ファーラ」


 なんと、化け物達の1体が俺達へと近づき、ファーラを唱えてきたのだ。

 もう避けれないと思った俺は、腹に力を入れて火の玉を身体で受け止める事にした。

 ヴォンという破裂音と共に、俺の胸元で火花が飛び散る。


「あちちちッ」


 糞熱かったが、何とか持ちこたえた俺は、即座に魔導師の杖を使い、火の玉を一発お見舞いしてやった。

 火の玉が爆ぜて化け物は転倒する。

 だがこれで終わりではない。もう1体の方も、俺達へと近づいていたのである。

 俺は慌てて魔力を指先に向かわせると、もう1体の方に自前のファーラを放った。


(こんなくだらない茶番は、とっとと終わらせないと……)


 化け物がファーラで吹っ飛んだところで、俺はアーシャさんに言った。


「アーシャさん! 後ろの壁まで走るんだ。真実の扉は、俺達の背後の壁にあるッ」


 しかし、アーシャさんは意味が分からないのか、ポカンとしていた。


「え? ど、どういう事ですの?」


 埒が明かないと思った俺は、そこでアーシャさんの手を取った。


「話は後ですッ」

「ちょっ、ちょっと、コタローさん。どうしたのです、急に!」


 アーシャさんは戸惑っていたが、今は時間がない。

 俺はアーシャさんの手を引き、後ろにある鏡の壁へと駆けたのだった。

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