Lv.26 漆黒のローブ姿の魔物
[Ⅰ]
漆黒のローブを身に纏った2体の不気味な存在は、俺達へゆっくりと近づいてきた。
俺とアーシャさんは奴等の動きに合わせて、ある程度の間合いを取りながら後退してゆく。
それから俺は、すぐに撤退できるよう、入ってきた扉へと視線を向けたのである。
だがしかし……俺はそこで我が目を疑った。
なぜなら、今入ってきた黒い扉が、どこにも見当たらないからだ。
忽然と姿を消していたのである。
「アーシャさんッ、大変です。入ってきた扉が消えていますッ!」
「何ですって!?」
アーシャさんはそこをチラ見した。
「ほ、本当にありませんね。という事は、もう進むしかないのですね……」
「ええ……そうみたいです」
どうやら、この試練を作った何かは、俺達に後戻りを許さないみたいだ。
(おいおい、こんな展開は聞いてないぞ。俺……生きて帰れるんだろうか……)
閉じ込められた不安感を抱きながら、俺は前方に佇む不気味な存在と対峙する。
だが、こいつ等の不気味さに気圧されて、俺とアーシャさんはジリジリと後退を余儀なくされていた。
(後退ばかり続けていても仕方がない。すぐに後が無くなる。それに俺達の目的は、こいつ等を倒す事ではなく、黄金の扉の向こう側に行くことだ。なんとか掻い潜って、扉まで行かないと……。それはともかく、この不気味な黒い化け物は何なんだいったい……。こんな敵は、俺がプレイしてきたゲームには出てこなかった気がする。でも、今の状況から考えて、あの声が言っていた立ち塞がる困難というのは、こいつ等の事で、まず間違いないだろう。チッ……面倒な事にならなきゃいいが……)
俺はそこで、背後の壁をチラッと見た。
今の俺達と背後の壁までの距離は、凡そ15mといったところ。
早めに対処を考えないと不味い状況である。
「コタローさんは、どんな魔法を使えるのですか?」
「……俺が使えるのはファーラとレアだけです。ですから、はっきり言ってレベルは低いですよ」
他にジニアスという魔法も俺は使えるが、あれは人前での使用を禁じられているので、あえて名前はださないでおいた。
「……来る時にオルドラン様も言ってましたが……ほ、本当に入門したてなんですね」
「はい、その通りです。ペーペーです。ド素人です」
俺はそう答える事しかできなかった。
アーシャさんは少しがっかりしてたが、事実なので仕方ない。
今のこの状況で、知ったかこくわけにはいかないのである。
俺も訊いてみた。
「アーシャさんはどんな魔法使えるんですか?」
「私は、ファーラとブレイズとスートラ、そしてペルミラの4つですわ」
俺よりも良い呪文を使えるみたいである。
この辺りの呪文を使えるという事は、ゲーム風に言うならレベル5から6といったところだろうか。
そして、これがゲームならば、俺よりもアーシャさんの方が使えるキャラという事である。
「今の現状だと、アーシャさんが一番頼りになりそうですね。ところで、アーシャさんは戦闘経験とかあるんですか?」
「あ、あるわけありません。あのお父様が、そんなことを許すとでも思っているのですか」
一応そんな気はしていた。
大貴族の娘だし、これは当然だろう。
というわけで、俺も正直に言う事にした。
「そうなんですか……じゃあ、俺と同じですね。俺も戦闘経験ないですから」
「最悪ですね……」
俺達は互いの事実を知ることで、更に不安になってしまった。
そんな中、不気味な存在に動きがあったのだ。
「スートラ」
アーシャさん側にいる奴が、擦れた様な声で呪文を唱えたのである。
その直後、唱えた奴の周りを青白い光の霧が包み込み始めた。
続いて、今度は俺の前にいる奴が、擦れたような声で呪文を唱えてきた。
「ファーラ」
次の瞬間、20cm程の火の玉が、俺に向かって襲い掛かってきた。
俺は咄嗟の判断で、身体を仰け反らせてかわそうとするが、避けきれず、肩口に直撃したのだった。
「グワァッ!」
火の玉は肩口で爆ぜる。
当然、顔にも火の粉が飛んできた。
俺は慌てて火の粉を振り払う。
そして、即座に後ろへと下がり、こいつ等との間合いを広げたのであった。
「コタローさん! 大丈夫ですか!」
「だ、大丈夫です。肩口に当たっただけですから」
とはいうものの、内心は、痛みとそのインパクトで、俺は恐怖していた。
なぜなら、初めて魔法攻撃というものを受けたからである。
今の攻撃は身体的にはそこまで大したことないが、精神的にはかなりくるものがあったのだ。
(怖ぇよ……ファーラ。初級魔法なのに、結構痛いじゃないか、クソッ……)
俺は負傷の確認をしようと、左肩をチラッと見た。
すると不思議な事に、白い魔導師ローブには、当たったような痕跡は殆どなかった。
そういえば昨日、武器屋の店主がこんな事を言っていた。
このローブは、守護の魔力を付加して作られた魔法の衣服であると。
これ見る限りだと、ファーラ程度なら十分耐えられる仕様なのかもしれない。
またそう考えると共に、俺は少しづつ落ち着きを取り戻していったのである。
(装備品はそれなりだから、何とか戦えるかも……)
と、そこで、アーシャさんの声が聞こえてきた。
「コータローさん。向こうは私達を敵だと思っていますわ。こちらも反撃しますわよ!」
「はい」
アーシャさんは杖を奴等に向け、呪文を唱えた。
「ブレイズ!」
その直後、小さな氷の槍が杖の先に出現し、不気味な化け物に放たれたのだ。
氷の槍は化け物にモロに命中する。
そして、ブレイズをまともに喰らった化け物は、後方に勢いよく吹っ飛んでいったのである。
思ったよりも凄い威力であった。
考えてみればブレイズは、龍の神の幻想譚において、初期限定の最強呪文として君臨している魔法である。
俺は今の威力を目の当たりにし、それがよく理解できたのだった。
まぁそれはさておき、次は俺の番である。
俺は呪文節約の為に、魔導師の杖に秘められた力を解放させた。
杖の先にファーラの火の玉が出現する。
そして、目の前にいる化け物に火の玉を放ったのだ。
火の玉が化け物に命中すると、爆ぜて火花が飛び散り、化け物は炎に包まれていった。が、しかし……止めを刺すには至らなかったのか、2体ともそれほど間をおかずに、また俺達の方へと向かい動き出したのである。
「まだピンピンしてるッ。効いてないのか!?」
なんとなくだが、俺達の攻撃はあまり効いていないように見えた。
「でも、この調子ですよ、コタローさん。魔物に間を与えず、ガンガンいきましょう」
アーシャさんはそう言うと、呪文を唱えた。
「ペルミラ」
その直後、俺とアーシャさんの周りに、緑色に輝く霧が纏わりついたのである。
それに伴い、重石が無くなったかのように、体がフワリと軽くなっていったのだ。
「ウホッ、身体が軽くなった」
どうやらこれが、ペルミラの素早さを上げる効果なのだろう。
「さぁ行きましょう、コタローさん」
「ええ、アーシャさん」
そしてスピードを増した俺達は、漆黒のローブ姿の化け物へ、怒涛の魔法攻撃を開始したのであった。




