Lv.20 遺跡内部へ
[Ⅰ]
俺が冗談半分で唱えたアンバストに、なぜか石の扉は反応した。
そして、光と振動と轟音を発しながら、ゆっくりと、巨大な石の扉は横にスライドしていったのである。
どういう構造になっているのか分からないが、非常に不思議な現象であった。
俺はその様子をただ呆然と眺める事しかできなかったが、10分程経過したところで、この建造物の奥へと進む入り口が姿を現した。
俺は生唾を飲み込みながら、その奥を凝視する。が、しかし……その先は深い闇で覆われている為、俺には何も見えなかった。
また、永い間、石の扉に閉ざされていた影響か、扉が開かれると同時に、奥からカビ臭い空気がこちらへと流れ込んできたのだ。
少し鼻につく臭いであったが、今はそれどころではない。
ある意味、異常事態である。
とはいうものの、どうしたらいいのか分からないので、俺は扉が完全に開いた後も、暫し呆然と立ち尽くしていたのだ。
そんな中、ヴァロムさんが俺に近寄り、小さく囁いた。
「コタローよ……いったい、何をしたのだ? もしや、この建物もアレにでてきたのか?」
俺は頭を振り、ヴァロムさんに耳打ちをした。
「こんな建物の事はアレには出てきてないです。ただ、扉を開ける呪文というのがあったので、やってみたら、こうなったんですよ。正直、わけわかんないッス」
「扉を開ける呪文じゃと……」
ヴァロムさんはそこで、少し離れた所にいるティレスさんとアーシャさんをチラ見した。
2人は今、こちらへと近づいているところだ。
「オホンッ、と、とにかくじゃ、これからは勝手な行動はするでないぞ。何かするときは、儂にまず相談するのじゃ。よいな?」
「は、はい。以後、気を付けます」
まさかアレで扉が開くとは思わなかったので、俺は今の言葉を肝に銘じた。
程なくして、アレサンドラ家の2人は俺達の所へとやって来た。
「オルドラン様、一体何があったのですか? まさかとは思いますが、この扉はコタローさんが開けたのでしょうか?」
と、アーシャさん。
「いや、儂も今それを訊いたんじゃがな。どうやら、コタローが言うには、あの青い水晶球を弄ってるうちに、扉が開いてしまったそうなのじゃよ」
ヴァロムさんは頭をかきながら、惚けたように答えた。
「水晶を弄っていたらですって!?」
アーシャさんは俺を睨みつける。
「コタローさん……貴方、素人なんですから、不用意に何でも触らないでください。今回は結果的に扉が開いたので良かったですが、こういった古代の遺跡には罠が仕掛けられている可能性だってあるんですよ。まったくもう、これだから素人は……。素人なら素人らしく、大人しくしてくださいませんか。勝手にウロチョロされると迷惑なんですから」
「は、はい。申し訳ありませんでした」
なんて嫌な言い方する女なんだ。
顔は可愛いけど、なんかムカついてきた。
(ここは我慢だ……と、とりあえず、深呼吸して落ち着こう。たまにバイトで遭遇する嫌な客だと思えばいい……)
などと考えながら、俺はカチンときた頭を冷やすことにした。
「アーシャ! 言いすぎだ。すまないね、コタロー君」
「いや、今回のは自分が悪いのです、ティレス様」
「そうですわ、お兄様。悪い事は悪いと言うべきなんです」
アーシャさんはそう言うと、怒ったように腕を組む。
まだご立腹のようだ。
(はぁ……ツンツンした子やなぁ……こりゃソレス殿下が頭を悩ませるのもわかるわ)
俺がそんな事を考えていると、ヴァロムさんが話に入ってきた。
「まぁまぁ、アーシャ様も落ち着いてくれぬか。事情はどうあれ、行く手を阻む物も無くなったのじゃ。これはもう終わりにして、次に行きませぬかな?」
「そ、そうですわね。それが目的なんですし」
「ではオルドラン様、外には魔物もおりますので、ここにいる守護隊の半数を、入口の守りに配置したいのですが、それでもよろしいですか?」
と、ティレスさん。
ヴァロムさんは頷いた。
「うむ。それで構わぬ」
どうやら、更に少ない面子で中へと進む事になりそうだ。
戦力が少なくなるので不安ではあったが、かといって、後ろから魔物に襲い掛かられるのはあまり嬉しくはない。
今はこの方法がベストなのだろう。
まぁそれはさておき、ティレスさんが守護隊への指示を終えたところで、ヴァロムさんは腰から杖を取り出した。
「さて、それでは出発の前に、明かりを灯すとするかの……グローラム!」
するとその直後、ヴァロムさんの掲げた杖の先端に、白く眩い光が灯った。
それはまるで、ナイター照明とかで使われる水銀灯のような明かりであった。
これならば、相当明るく周囲を照らせるだろう。
グローラム……懐かしい呪文である。
ゲームでは松明よりも明るかったので、結構お世話になった魔法だ。
「さて、では今より、この奥へと進もうと思う。じゃが、その前に言うておく事がある。中はどんな仕掛けがあるか分からぬ。危険を未然に回避する為にも、迂闊に何にでも手を出さぬよう、気を付けるのじゃ。よいな?」
「ハッ!」
全員がキビキビと返事する。
「では行くとするかの」
そして、俺達は奥の暗闇へと、足を踏み入れたのである。
[Ⅱ]
俺達は周囲に気を配りながらも、極力、余計な物には触れずに奥へと進んでゆく。
石の扉の向こうは、通路が真っ直ぐに伸びていた。
扉と同じような幅の通路なので、結構大きい。
それもあり、あまり窮屈な感じはしなかった。
また、見たところ、周囲には無機質な石の壁があるだけで、特に気になるような物は何もなかった。
とはいえ、天井が入口部分のような吹き抜けではなく、だいぶ低い位置となっているのが、少し気になるところであった。
俺の目測だと、天井高さは10mくらいはあるだろうか。
なので、別に低過ぎるという事はないが、ここは高さが30mくらいある建造物である。
これが意味するところは1つだ。
つまり、この上には、2階部分があるという事である。
まぁそれはさておき、30mくらい進んだところで、俺達は十字路に差し掛かった。
俺達はそこで一旦立ち止まり、どちらに行くのかを話し合う事になった。
とはいっても、話し合うのは、ヴァロムさんとティレスさんとアーシャさんの3人だけだったが。
そして、話し合いの結果、右側の通路を選択する事になり、俺達はまた移動を再開したのである。
右側の通路も、今までと同じような造りの所であったが、暫く進むと、上へ続く階段が前方に見えてきた。
そこでティレスさんは、ヴァロムさんの意見を仰いだ。
「オルドラン様……上に続く階段です。どうしますか?」
「ふむ……これは上るしかあるまい」
「そうですわね」
俺達は前方の階段を上がる。
すると、階段を上った先には、広大なフロアが広がっていた。
しかもこのフロアは、天井や壁に光る石が嵌め込まれている為、グローラムが無くても十分に明るい。
また、パッと見た感じだと、通路のようなものは見当たらない上に、天井高さも下のフロアと同様、10mくらいありそうな感じであった。
その所為か、学校の体育館を思わせるくらいの広さに、俺は感じたのである。
それと今見て気付いたが、下にあった十字路を左側に向かったとしても、どうやらこのフロアに出てくるようであった。
なぜなら、俺達が上ってきた階段の反対側にも、同じような階段の手摺りが見えるからである。
ヴァロムさんはフロアの真ん中へ行き、ぐるりと周囲を見回した。
「ふむ……ここはどうやら大広間といった感じじゃな。それと、奥に見える幾つかの像に囲まれた四角い物は、何かの祭壇であろうか? 分からんが、とりあえず、行ってみようかの」
ヴァロムさんは奥へと歩き始めた。
他の者達もヴァロムさんの後に続く。
進むにつれて、奥の様相がハッキリと見て取れるようになってきた。
どうやら奥にある祭壇らしきものは、人の倍以上はありそうな、大きな長方形の石板のようであった。
しかもその石版は、縦ではなく、横に寝かせて台座の上に置かれていた。その為、俺は一瞬、石の棺でも置かれているのかと思ったくらいだ。
それと、この石板の四隅には、タロットカードの隠者を思わせるフード姿の老人の石像が4体置かれていた。
だが、この石像……向きが少し変であった。
なぜなら、この4体の石像全てが、中心にある石板を覗き込むような仕草をしているからである。
おまけに姿勢も、前に乗り出したような感じであった。
いかにもココに何かあります、と言っているような構図である。
(この石版と石像はなんなんだろう……わけがわからん……ン?)
と、そこで、前を歩くヴァロムさんが立ち止まった。
石板のある位置から、少し離れた所であった。
他の者達もそこで立ち止まる。
微妙な位置で止まったので、俺はヴァロムさんに訊ねた。
「ヴァロムさん、どうしたんですか? 祭壇はもう目と鼻の先ですよ」
「初めて入る建造物じゃ。用心するに越した事はないじゃろう」
どうやら、罠が無いかを確認するという事なのだろう。
それから暫しの間、ヴァロムさんは床や天井にジッと視線を向け、不審な個所はないか確認していった。
そして、一通り確認したところで、ヴァロムさんは皆に告げたのだ。
「ふむ……恐らく、罠や仕掛けの類は無いじゃろう。では、祭壇を拝ましてもらうとするかの」と。
俺達は祭壇へと向かった。
程なくして、祭壇の前に来た俺達は、暫し無言で石版を眺めた。
すると、石版の中心には太陽の絵のようなものが描かれており、その周囲には、あの古い書物で見たのと同じような文字が、沢山刻み込まれていたのだ。
もしかすると、これが古代文字というやつなのかもしれない。
アーシャさんの声が聞こえてきた。
「これは古代リュビスト文字……私には分からない文字が多すぎますわ。オルドラン様、解読できそうですか?」
ヴァロムさんは顎鬚を撫でながら返事をした。
「ふむ……そうじゃな。解読は出来ると思うが、ここまでびっしり古代リュビスト文字が書かれておると、流石に時間がかかるの。じゃが、かといって手をこまねいているわけにもいくまい」
そこで言葉を切ると、ヴァロムさんは皆に振り向いた。
「では、これより儂は石版の解読作業に入る。守護隊の者は暫し休んでくれて構わぬぞ。ただし、余計な物には触れぬようにな」
「ハッ」
守護隊はキビキビとした返事をする。
続いてヴァロムさんは、アレサンドラ家の2人に視線を向けた。
「それからティレス様とアーシャ様は、儂の解読した言葉を何かに控えてほしいのじゃが、良いかの?」
「分かりました」
「分かりましたわ」
「うむ、では始めよう」
そしてヴァロムさん達は、解読作業に取り掛かったのだった。




