Lv.19 太陽の神殿
[Ⅰ]
巨大建造物のある丘の手前で馬車を降りた俺達は、早速、建物へと続く石階段へ向かい歩を進めた。
だがその際、馬車と馬の見張りをする為、ティレスさんはこの場に10名ほど留まるよう指示を出した。
そして、その他の者達で、丘の上を目指すこととなったのである。
建物に伸びる階段は結構長かったが、3分程度で頂上まで登りきれたので、さほど苦ではなかった。
丘の上に辿り着いた俺達は、そのまま前方に聳え立つ建造物へと歩を進める。
程なくして、俺達は建造物の前へと到着した。
近くに来て分かったが、この建造物は本当に馬鹿でかい。
高さは30mくらいあり、正面の幅は50mは優にありそうであった。
おまけに入口もデカい。形はアーチ状で、幅が約10m、高さが10mくらいはあるだろう。
全て石造りで、所々に色褪せた部分や風化している箇所もあった。
だが、まだまだ堅牢さは衰えておらず、しっかりとした佇まいをしていた。
これならば中に入っても、脆くて崩壊するなんて事はないだろう。
(しかし、こんな建物……どうやって造ったんだ? ローマンコンクリートみたいな技術が、古代にあったのかもな……まぁどうでもいいか)
守護隊員達が周囲の安全を確認し終えたところで、俺達はアーチ状の入り口を潜り、巨大建造物内へと足を踏み入れた。
中は吹き抜けの天井になっており、入って10mほどの所で行き止まりとなっていた。
この空間を囲う石灰岩のような白い石壁には、凶悪な魔物達と戦う人々の様子が彫刻されていた。
それらは壮大なストーリーを感じさせる絵巻のようになっている。
また、入って正面の壁には大きな石の扉のような物があり、その中心には、青く透き通る水晶球が埋め込まれていた。
石の扉みたいなモノには、文字のような紋様が幾つも彫り込まれている。
なんて書いてあるのかは、俺にはわからないが、一応、目につくのはそれだけであった。他は何もない。
だが1つ気になったのは、正面にある石の扉らしきものは、その大きさが異様だという事だろう。
なぜなら、高さと幅が10mはありそうな感じだからだ。
こんな馬鹿でかい扉を俺は未だ嘗て見た事はない。
その為、これは本当に扉なのかどうかすら、疑わしいレベルなのであった。
というわけで、俺はヴァロムさんに訊いてみた。
「見たところ何もないみたいですけど、ここに何かあるんですかね?」
「ふむ……とりあえず、正面にある扉らしき所へ行ってみようかの」
「はい」
俺は気のない返事をすると、ヴァロムさんの後に続いて移動を開始した。
ティレスさんとアーシャさんも俺達に続く。
石の扉らしきものの前に来たところで、俺達は一旦立ち止まり、暫しそれを眺めた。
するとヴァロムさんは何かを見つけたのか、扉らしきものへと近づき、彫りこまれた文字を指でなぞったのである。
「ふむ……ここに古代リュビスト文字で何か書かれておるな。ええっと、なになに……ここは太陽の神殿。真実を……求めし者よ……青き石に触れて魔力を籠めよ。そして封印の鍵を解く、聖なる言葉を紡ぐがよい……。解読するとこんな内容じゃな」
アーシャさんは首を傾げる。
「封印を解く聖なる言葉? 何らかの呪文を唱えろという意味なのでしょうか?」
「さてのぅ……じゃが、そう考えるのが自然じゃろうの」
「オルドラン様、この遺跡に、その手掛かりがあるのでしょうか?」と、ティレスさん。
「それはわからぬが、とりあえず、まずはこの中を調べてみるとするかの」
というわけで、俺達は手掛かりを探す為に、暫しの間、この建造物の内外を調べる事になったのである。
―― それから30分後 ――
俺達はまたさっきの扉の前に集まった。
皆の表情を見る限り、何も見つからなかったのは明白であった。
「やはり、何も手掛かりなしですね。考えてみれば、この遺跡はイシュマリア誕生以前のモノである上に、今まで多くの者達が頭を悩ませてきた所です。こんな簡単に、手掛かりが見つかるわけありませんわね」
と、アーシャさん。
「ふむ。そのようじゃな……」
ヴァロムさんはそう言って、長い顎鬚を撫で始めた。
「オルドラン様、この建造物以外にも、ここには沢山の遺跡があります。まずその辺りを地道に調べていった方が良いんじゃでしょうか?」
「お兄様、それでは時間が掛かりすぎてしまいますわ。もう少し効率の良い方法を考えるべきです」
「この遺跡はもうかなり調べつくされているからのう。何か出てくるかもしれぬが……その可能性は低いじゃろうな」
とまぁこんな感じで、3人は難しい表情を浮かべながら、今後のミーティングを始めたのである。
蚊帳の外である俺は暇だったので、石の扉に埋め込まれている青い水晶球を見る為、それに近づいた。
なんで水晶球を見に来たかというと、ただ単に綺麗だったからだ。
それ以外に理由はない。
俺は水晶球の前に来ると、マジマジと眺めた。
大きさはサッカーボールくらいありそうで、一点の曇りもない。
透き通るような青さを持つ美しい水晶球であった。
何の為にこんな所に埋め込んだのか知らないが、もったいないなぁと俺は思ってしまうのだ。
やっぱこういう綺麗な物は、もっと品の良いところに飾っておいた方が、美しく見えるからである。
とりあえず、こんな廃墟に似つかわしくない、美しい水晶球であった。
(まるで宝石だな。でも盗掘に遭ってないところを考えるに、そんな簡単に取り出せる物でもないんだろう)
俺は水晶球を眺めながら、さっきのヴァロムさんの言葉を思い返してみた。
あの時ヴァロムさんは、確かこう言っていた。
ここは太陽の神殿。真実を求めるものよ。青き石に触れて魔力を籠めよ。そして封印の鍵を解く聖なる言葉を紡げというような事を……。
封印の鍵を解く言葉というのが分からんが、多分、何か合言葉のようなモノを唱えろって事なんだろう。
(ゲームではあまり気にならんかったけど、こういうイベントを実際にやられると、かなり面倒やなぁ……手掛かりを探すのが大変やわ)
俺は少しゲンナリしていた。
と、その時である。
封印の鍵という単語を聞いて、ふとある呪文の事が脳裏に過ぎったのだ。
(そういや、あの呪文て、解錠する魔法だったよな……まさかな)
俺は半分冗談のつもりで、青い水晶球に手で魔力を籠め、あの呪文を唱えてみた。
「アンバスト……なんちゃって」
すると次の瞬間、青い水晶が、突然、眩く輝き始めた。
あまりにも眩しかったので、俺は思わず右腕を眼前にかざした。
「あわわ、なんだよ、これ……」
俺はこの突然の変化にたじろいでいた。
ヴァロムさんの慌てる声が聞こえてくる。
「コ、コタローッ、一体何をしたッ!?」
「な、何をしたといわれましても」
「何だこの光は!」
水晶から放たれる光は、更に強さを増した気がした。
だがそれだけではない。
この光と連動するかのように、建物全体がゴゴゴゴと揺れ始めたのである。
俺はこの異変に恐怖して、生唾をゴクリと飲み込んだ。
「な、なんですの。これは地震? い、いったい、何が起きてるんですの……」
いや、アーシャさんだけではない。
他の守護隊の人達も同様であった。
「いったい何が起きたというのだ……地震か!」
「た、建物全体が揺れている!」
地響きは治まる気配を見せない。
だが時間が経過するにつれて、水晶の光が弱まり始めてきた。
程なくしてあの強烈な光は消えていった。
俺は右腕を降ろし、瞼をゆっくりと開く。
そして俺は驚愕したのだ。
なぜなら、あの巨大な石の扉が、ゆっくりと横にスライドしていたからである。
「う、嘘だろ……開いてんじゃん……」
自分でやっておいてアレだが、半ば冗談でやった事なので、やった本人が一番驚いていた。
そして、俺はこの予想外の展開についていけない為、呆然と立ち尽くしたのであった。




