Lv.17 探検隊出陣
[Ⅰ]
朝日が昇り始める早朝。
俺は馬車の車窓から、流れゆく景色を眺めていた。
そこから見えるのは、どこまでも広がる草原と遠くに見える山だけで、他に目につくモノは何もない。
強いて言うならば、俺達が進んでいるこの砂利道くらいだろうか。
とりあえず、そのくらいのものである。
だがしかし……今、俺の目の前にある光景は、日頃の嫌な事も忘れる事が出来そうなくらいに、神秘的なものとなっていた。
なぜなら、辺り一面に広がる草原は、草葉についた露に朝日が反射して、宝石を散りばめたような輝きを放っていたからである。
それはまるで、光の楽園を思わせるような、眩く美しい光景であった。
この世界に来てから、今ほど癒される光景を俺は見た事がない。その為、俺は少し得した気分になっていたのである。
早起きは三文の得という諺があるが、これもそういった事の1つなのかもしれない。
で……俺は今、馬車に乗って何をしているのかというと……イデア遺跡群へ向かう為に移動をしているところであった。
ちなみにだが、俺が乗っているのは、マルディラント守護隊の所有している馬車である。
この馬車に乗った感想だが……ヴァロムさんの荷馬車と違い、屋根付きの上に座席もあるので、すごく快適であった。
しかも、乗車定員は6人という事で中も結構広い上に、2頭の馬で引くタイプの馬車なので、それなりに安定感もあるのだ。
以上の事から、俺は、つくづく思ったのである。
やっぱ馬車移動はこういうタイプの馬車でしょ、と。
*
話は変わるが、今、この馬車に乗っているのは、ティレスさんとアーシャさんにヴァロムさんと俺、それと守護隊の者が務める御者を含めた5人だけである。
だが、今回の人員はこれだけではない。
外にはこの馬車を守るように、守護隊の者達20人が馬に跨って並走しているのだ。
つまり俺達は、護送船団のような陣形を取りながら、総勢25名の者達でイデア遺跡群へと向かっているのであった。
ティレスさんとヴァロムさんが話し合った結果、この移動方法になったのだ。
また、ティレスさんの話だと、連れてきた20名の者達は、守護隊でもかなりの腕利きらしく、しかも全員が、守護隊仕様の魔法の鎧や、魔力が付加された武具を装備しているとの事だ。
もはやショボイ魔物では相手にすらならないに違いない。
この面子ならば、俺が戦闘するという事はなさそうなので、頼もしい事この上ないのである。
というわけで話を戻そう。
*
俺は外を眺めながら大きく欠伸をした。
「ふわぁぁ」
景色は確かに美しい。
だが、同じような景色が続くので、少し眠たくもなってくるのだ。
これは仕方ないところである。まぁ眠いのは、別の理由もあったりするのだが……。
俺は欠伸で出た涙を手で拭った。
と、そこで、俺の正面に座るアーシャさんと目が合った。
アーシャさんは俺の態度が気に入らないのか、ややムスッとしている。
「コタローさん……もう少し、シャキッとなさったらどうですか? 貴方は出発してから緊張感が無さすぎます」
「も、申し訳ありません、アーシャ様。実は昨晩、あまり眠れなかったものですから、その影響が出ているみたいです」
これは事実である。
確かに寝不足なのだ。
「それは言い訳にはなりません。今日出発すると分かっていたのですから、ちゃんと睡眠をとらない貴方がいけないのです。たるんでいる証拠です」
俺は深く頭を下げた。
「仰る通りでございます。申し訳ありません。私の不徳と致すところでございます」
「分かればよろしい」
アーシャさんは、勝ち誇ったように微笑んだ。
(はぁ……俺、この子、ちょっと苦手かも……つか、何か気に障るような事でもしたのだろうか、俺……)
理由は分からないが、さっきから俺に突っかかってくるのである。
アーシャさんの隣にいるティレスさんが、苦笑いを浮かべ、話に入ってきた。
「すまないな、コタロー君。アーシャは、念願の遺跡調査が出来るものだから、気分が高ぶっているんだよ」
「お兄様、そういう事じゃありませんの。気の緩みが不測の事態を招くかもしれないから、私は言っているのです」
アーシャさんは即座に言い返した。
続いてヴァロムさんも。
「確かに、アーシャ様の言う通りじゃ。コタローよ。もう少し気を引き締めよ」
「御意」
まぁ確かに、俺がたるんでいるのは事実だから仕方ない。気を引き締めるとしよう。
で、寝不足な理由だが……実は昨日、武器屋で買ったライトセーバーモドキを発動させて、何回も試し振りをしてたのが原因なのである。
例えるならば、子供が念願の玩具を手に入れた時と同じようなものだろうか。
もう嬉しさのあまりというやつだ。
思わず、あのヴォンヴォンいう効果音を口で言ってしまいそうに……というか、既に言ってるし。
以上の事から、昨日の俺は、『最高にハイってやつだ』的な感じになっていたので、今が寝不足気味というわけなのである。
要は、アホな事してた俺が悪いのだ。
ちなみにだが、ヴァロムさんは、俺のそんな行動を見て少し呆れ顔であった。
多分、理解できないのだろう。
というか、あの映画を知らないのだから、この反応は当然である。
だがしかし!
例え呆れられても、こればかりはどうしようもないのだ。
だって、ニヤニヤしちゃう……ライトセーバーは俺の……いや、男のロマンなんだもん。
話がだいぶそれたが、つまり、これが理由なのである。
[Ⅱ]
イデア遺跡群へと移動を始めてから、1時間程経過した。
周囲の景色は相も変わらずだが、風が吹き始めたこともあり、辺り一面に広がる草原は、海の波のように靡いていた。
俺はその光景を眺めながら、遺跡まであとどのくらいなのだろうかと考える。
そんな中、ティレスさんの声が聞こえてきた。
「ところでオルドラン様。コタロー君は、どのくらいの魔法が使えるのですか?」
「こ奴はまだ駆け出しじゃから、それほどの魔法は使えぬ。ほぼ入門したてと思ってもらって結構じゃ」
「へぇ、ではコタローさん。その魔導師の杖が似合うように、もう少し精進しなければなりませんわね」と、アーシャさん。
「はい、そう思って努力しているところです」
俺はそう言って、右手に持つ魔導師の杖に目を向けた。
そう……実は昨日、魔導師の杖も買ってもらったのだ。
というわけで、俺は今、魔光の剣と、魔導師の杖という2つの武器を装備しているのである。
何故、2つも買う事になったのか?
これには勿論理由がある。いや、正確には、両方買うというよりもセット販売と言った方が正しいだろうか。
実は昨日、武器屋で魔光の剣に感動していた時、ボルタックとかいう店主は、俺達に向かってこんな事を言ったのである――
「お客様、そちらの品は魔光の剣と申しますが、まだ試作品な為、私共の店では正式に売り出す商品ではございません。ですので、魔導師の杖を買うなら、タダでお付けましょう」と。
それから、こうも言ったのだ。
「そして出来れば、魔光の剣を使った使用感や改善点などを、私共に教えて頂けるとありがたいのです。今後の為にも、それらの有益な情報は、魔導器の製作家に伝えねばなりませんから」――
以上の理由から、魔導師の杖まで買うハメになったのである。
ちなみにだが、購入したのは武器だけではない。勿論、防具もだ。
で、今の俺の装備はこんな感じである。
武 ……魔導師の杖と魔光の剣
盾 ……無し
兜 ……無し
鎧 ……白い魔導師ローブ
足 ……皮のブーツ
腕 ……皮の篭手
ア ……金の腕輪
はっきり言って、武器と鎧以外はあまり大した装備ではないが、こんなのでも、購入金額は3500ゴル以上だった。
結構、大きな出費だと思ったので俺は悪い気がしたが、ヴァロムさんは顔色変えず支払っていたのを考えると、さほど苦ではないのだろう。
流石に貴族なだけあって、お金は持っているようだ。
まぁそんなわけで、俺も見た目だけは、RPGゲーム世界の住人らしくなったというわけだ。
[Ⅲ]
それから更に時間が経過した。
周囲の景色は草原に変わりないが、平坦な地形から起伏がある丘陵地帯へと変化し始めていた。
つまり険しくなってきたという事だ。
そして暫くすると、魔物の出現数も多くなり始めてきた。
魔物は守護隊によって討伐される。
そんな中、御者の大きな声が、響き渡ったのである。
「ティレス様ッ、前方に、イデア遺跡群が見えてまいりました!」
それを聞き、ティレスさんは周囲を並走する守護隊の者達に、大声で指示を出した。
「これより先は、魔物の数が今まで以上に増えてくる。馬車や馬には魔除けが施されているが、魔物の数が増えれば、今までのように魔物も避けてはくれないだろう。各自、すぐに戦闘できるように態勢を整えよ。気を引き締めるのだッ」
「ハッ!」
守護隊の表情が鋭くなる。
それを皮切りに、馬車の中も緊張感のある雰囲気へと変化していった。
(どうやら、イデア遺跡群の近くに来ているようだ。さて、どんなモノが待ち受けているのやら……)
俺は知らず知らずのうちに、魔導師の杖をギュッと握り絞めていた。
恐る恐る前方に視線を向けると、蜃気楼のように歪んで見える不気味な建造物群が、俺の視界に入ってきた。
無事生還できますように……。




