Lv.16 魔光の剣
[Ⅰ]
朝食を終えた俺とヴァロムさんは、早速、1等区域にある武器屋へと向かった。
この1等区域は、城塞の外にある2等区域とは違い、物凄く綺麗な景観の街並みであった。
俺達の進む石畳の道路にはゴミも少ない上に、路肩には綺麗な花が育つ花壇が幾つもあった。
これを見る限りだと、貴族や金持ちの住む区域とあって、街の美化はかなり意識しているのだろう。
また建造物の全てが石造りで、それらは白や灰色といったシックな色合いのモノばかりであった。
見たところ、塗料などによる着色はないようである。
現代の日本のように、色の統一感がない街並みとは異なり、このマルディラントは、統一感のある整った美しさが特徴の街であった。
(こういう街並みもいいねぇ……古代ローマの遺跡は本とかで見た事あるけど、当時はこんな街並みだったのかもな……)
俺とヴァロムさんは、そんな街並みを眺めながら進んでゆく。
だがその道中、人気のない場所に差し掛かったところで、ヴァロムさんは周囲を警戒しながら小声で話しかけてきた。
「コタローよ……朝食の時に言っておった魔法じゃが、あれも御伽噺で出てきたものなのか?」
「へ? ああ、バロールとドラグナーガの事ですか?」
するとヴァロムさんは、口の前に人差し指を持っていき、シーというジェスチャーをした。
多分、呪文名を口にするなという事なのだろう。
どうやら、色々と都合の悪い事があるのかもしれない。
「ええ、そうですよ……それがどうかしましたか?」
「実はな、儂も古代の魔法については幾つか知っておってな。今言ったモノの内、前者の魔法については、ある文献で見た事があるのじゃ」
「そうなんですか……」
今、ヴァロムさんは、バロールの事を古代の魔法と言った。
という事は、アーシャさんの言っていた魔法の数を考えると、この世界ではゲームに出ていた魔法の多くが、今は失われている状況なのかもしれない。
何より、バロールとドラグナーガを話した時の皆の反応が、それを如実に物語っていた。
恐らく、魔法の名前すら、あまり知られてないのだろう。
それが事実ならば、これからは迂闊に名前を出さない方がよさそうである。
「まぁそれはともかくじゃ。古代の魔法については……いや、御伽噺については、儂とお主だけの秘密じゃ。それ以外の者がおる時は、口を噤んでおいた方が良いの。それが、お主自身の為でもある……」
「俺自身の為?」
「昨日も言うたと思うが、この国は今、魔物の襲来に怯えておる。この国の魔法研究者達は、強力な古代魔法を得る為の方法を、日夜、血眼になって探しておるのじゃ。じゃから、お主がその辺で御伽噺を吹聴すれば、聞きつけた研究者達が、どっとお主の元に押し寄せる可能性があるのじゃよ」
確かに、それは面倒だ。
ウザい事この上ない。
「わかりました。以後、気を付けます」
「うむ。その方が良い」――
そんなやり取りをしつつ、俺達は1等区域内を進み続ける。
暫く進むと、高級感のある商店街へと俺達は辿り着いた。
そこはどれもこれも、貴族御用達といった感じの佇まいを見せる店ばかりであり、2等区域にあるような庶民臭い店はなかった。
まさに高級ショッピング街といったところである。
現代日本だと、こういう高級な店にも庶民は入る事ができるが、ここは異世界。
流石に、ここを利用する人々は、特権階級ぽい人達ばかりであった。
だが、今はまだ朝という事もあってか、それほどの賑わいは無い。
チラホラ見える程度の疎らな感じだ。
朝という事もあって、まだそれほど利用客もいないのだろう。
俺達は、そんな閑散とした商店街の通りを真っ直ぐに進んでゆく。
商店街を見回すと、通りの両脇には、宝石を売る店や服を売る店、家具や美術品に食品を売る店等、様々な店が建ち並んでいた。が、しかし……俺はそこで少し疑問に思ったのである。
なぜなら、それらの中には、武器を売っているような店は、1つもなかったからだ。
あるのは贅沢品や生活雑貨を売るような店ばかりなのである。
(こんな所に武器屋なんてあるんだろうか? まぁこんなアットホームな商店街に、殺伐とした武器が売ってる方が、そもそもおかしいとも言えるが……ン?)
ふとそんな事を考えていると、ヴァロムさんは狭い路地へと入っていった。
俺もヴァロムさんに続く。
するとそこは、やや暗い感じのする通りであった。
なんとなく、裏社会に通じてそうな日の当たらない道である。
(やっぱ武器屋は、こういう雰囲気の所が似合ってるよな。という事は、もうそろそろ着くのかも……)
ヴァロムさんの後に続き、俺はその陰気な路地を進んでゆく。
程なくして、剣と槍の絵が描かれた看板が見えてきた。
看板を見る限り、モロに武器屋といった感じの佇まいで、500平米くらいありそうな石造りの平屋の建物であった。
そこそこ大きな建物である。
「アレが武器と防具の店じゃ。さて、では行くぞ、コタロー」
「はい」
そして俺達は、その店の中へと足を踏み入れたのである。
[Ⅱ]
武器屋に入った俺は、そこで店内を見回した。
店の中は、武器や防具に加え、道具類が並ぶ棚で埋め尽くされていた。
しかもそれらは、各ブースに分けられて綺麗に整理整頓されており、訪れた客が探しやすいようになっている。
こういう中世的な世界の武器屋というと、俺的には、乱雑に並べられているイメージがあったが、ここはやはり購入許可証を持っている人が来る店だからか、整理整頓はしっかり行われているみたいだ。
また、品揃えもかなりのモノであった。
高そうな武器や防具が、マネキン人形の如く、幾つも置かれている。
(ほぇ……こりゃ凄いな。服売ってるような感じで武具が置いてあるよ。でも、客がいないんだよな。ひょっとして、俺達だけか?)
店内を見回してみたが、客は誰もいないようであった。
もしかすると、俺達が開店第1号の客なのかもしれない。
「さて、ではコタローよ、まずは順に見ていこうかの」
ヴァロムさんはそう言って剣や鎧があるブースを指さした。
「はい」――
それから30分くらいかけて、俺達は店内を見て回った。
店内にある物で目に付いたのは、鋼鉄の剣や鋼鉄の鎧といった定番の武具や、魔導師の杖や魔力の杖に、魔導師ローブとか、見習い騎士の服といったところだろうか。
まぁ早い話が、ここで売られている物は、ゲームの中盤に入りかけた頃に手に入れるような武具ばかりであった。
なので、そこそこ良い物が揃っているようである。
この店でこの品揃えという事は、2等区域にある武器屋だと、青銅の剣や皮の鎧クラスの武具しか、置いてないのかもしれない。
まぁそれはさておき、一通り見たところで、ヴァロムさんは鋼鉄の剣の前へと、俺を連れた来た。
「コタローよ、お主、剣は使った事があるのか?」
「いえ、ありません」
「ぜんぜんか?」
「まったくありません。というか、ここに来る前に住んでたところでは、そんな物を持ってると、銃刀法違反でしょっ引かれますので、使うなんてもってのほかです」
ヴァロムさんはポカンとしていた。
意味が分からないのだろう。
「ジュウトウホウ? ……まぁいい。それはともかく、一度手に持ってそこで振ってみよ。言っておくが、これは盾を装備して使う事が前提の剣じゃから、片手でだぞ」
ヴァロムさんはそう言うと、武器コーナーの試し振りをするスペースを指さした。
というわけで、俺は鋼鉄の剣を手に持ち、試しに振ってみる事にした。
で、その結果はというと……無理という結論に至った。
(こんなの片手でなんて無理。振ることはできるが、重すぎて素早い剣裁きなんてできない。俺の貧弱な筋肉では無理です……残念)
持った時に、3kg以上はありそうな感じがしたから、嫌な予感はしていたのだ。
まぁそういうわけで、ある意味予想通りの結果なのであった。
「この分じゃと、鋼鉄の鎧も無理じゃな。お主は儂と同じで、魔法使い用の武具にするしかないの」
「ええ、そのようですね。正直、甘く見てました」
やはり、ゲームと現実は違うようだ。
ゲームだと、戦士系の職業だったらレベルに関係なく、誰でも装備できる事を考えると、俺は戦士系ではないのかもしれない。少しがっかりである。
そんな事を考えていると、店員が1人こちらにやってきた。
その店員は、頭の天辺が禿ている小太りな中年のオッサンであった。
揉み手をしながら、ニコニコとした営業スマイルを携えているのが、いかにも商売人といった感じである。
オッサンは俺達の前に来ると、丁寧に挨拶をした。
「いらっしゃませ。私、店主のボルタックと申します。何かお探しのようですが、どういった物を探しておられるのでしょうか?」
某3Dダンジョンゲームのぼったくり商店みたいな名前だと思ったのは言うまでもない。
色々と突っ込みどころ満載の名前である。
「うむ。この男に合う武具は無いかと思って、今、色々と見ておるのじゃよ」
「おお、左様でございますか」
というと、このオッサンは品定めするかのように、俺をジロジロと見た。
そしてニコッと微笑むと、杖が置かれたコーナーを指さしたのである。
「私が見たところ、お客様はあちらの装備品が適しているように思いますが」
「うむ。儂もそう思っておったところじゃ。それではコータローよ。今度はあっちのを装備してみよ」
「杖かぁ……。まぁ仕方ないか」
俺達は杖のコーナーに移動した。
沢山並んだ杖の前に来たところで、ヴァロムさんは、先端に赤い水晶が嵌め込まれた木製の杖を指さした。
「コタローよ。そこにある魔導師の杖を持ってみよ」
「これですね」
俺は言われた通り、その杖を手に取った。
重さ的には、大体、1kgから1.5kgくらいだろうか。
このくらいの重さなら、何とかなりそうであった。
「これなら、俺でも使えそうですね」
そこでボルタックさんは、揉み手をしながら説明をし始めた。
「この魔導師の杖はですね。先端の水晶にファーラの力が封じられているのです。力を開放するには、ごく僅かの魔力を先端の水晶に籠めるだけですので、戦いの際には重宝すること間違いなしですよ」
ゲームではよくお目にかかる、中盤に入りかけた頃の定番アイテムである。
「店主よ、これは幾らだ?」
「こちらは1000ゴルとなりますね」
やはり、お金の単位はゴルなようだ。
少し安心した。
ヴァロムさんはそこで俺に視線を向けた。
「どうする、コタローよ。これにするか?」
「そうですねぇ……でも」
俺的にはやはり、主人公っぽく剣とかをガンガン使いたかったが、この貧弱な身体では仕方ないのかもしれない。
「どうしたのだ? 何か気になる事でもあったのかの」
「いや、そういうんじゃないんですけど……。ただ、俺的には剣が使えると良かったなぁと思ったんですよね。でも、いいです。これにします」
すると、ボルタックさんがニコリと微笑んだ。
「おお、左様でございましたか。できれば剣を使いたかったと。なるほど、なるほど」
「ふむ。店主よ、何かあるのか?」
「実はですね。今、とある魔導具の製作家がですね、魔戦の杖を改良した試作品をウチの店に持ってきているのですよ」
「ほう。それは気になるの」
俺もだ。確かに気になる。
魔戦の杖は確か、魔力そのものを使って攻撃する武器だった。
それと結構、攻撃力のある武器だったのを憶えている。
だが、攻撃する度に魔力が減るから、あまり使わなかったのである。
「少々お待ち頂けますか。奥の倉庫に置いてあるものですから、こちらにお持ち致します」
ボルタックさんは、店の奥へと足早に消えていった。
そして、暫くすると、ボルタックさんは剣の柄のような品物を持ってきたのである。
「こちらがその品になります。魔光の剣というらしいです。使い方は魔力の杖と同じで、柄を握り、魔力を強く籠めてくださるだけで、これは武器になるそうですよ。どうぞ、試してみて下さい」
俺はそれを手に取った。
重さ的には300g程度だろうか。ハッキリ言って凄く軽い。
だが見たところ、鍔も何もない青い柄の先端に、水色に輝く水晶が取り付けられただけの物なので、このままだと凄く貧相な武器であった。
それはともかく、まずは言われた通りにやってみる事にしよう。
というわけで俺は、右手にそれを握り、魔力を籠めてみたのである。
すると次の瞬間! なんと、水晶の部分から青白い光の刃が出現したのであった。
それはまるで、遥か彼方の銀河系の映画で使われてそうな、まばゆい光の剣だったのだ。
あの独特な効果音は無かったが、俺は目を見開き、思わず感動した。
そして俺は即答したのである。
「俺、これにしますッ。これ、光線剣じゃん! 絶対これっスよ。俺はこれから、宇宙の意思の流れに身を任せます! ヒャッホゥー!」
以前見たスペースオペラ映画の光側の騎士が持つようなこの武器に、俺は興奮を隠せなかった。
だがハイテンションな俺とは裏腹に、ヴァロムさんとボルタックさんは凄くドン引きしていた。
「はぁ? あのぅ……この方は……突然、どうなされたのですか?」
「こ奴は時々、アホの子になる時があるんじゃよ」
「だれがアホの子やねん!」
とまぁそんなわけで、俺は心ときめく武器と、運命的な出会いを果たしたのであった。
ヒャッハー!




