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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第一章 前略、RPG世界より

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Lv.11 マルディラント

   [Ⅰ]



 イシュマリア国南部のマール地方。その中央に位置する商業都市マルディラントは、文字通り、このマール地方の経済の要となる街のようである。

 街に向かうにつれ、街道には、沢山の荷物を積み込んだ荷馬車や普通の馬車、そして、徒歩や馬で行き交う旅人達の姿も確認できるようになってきた。

 また、それらの行き交う人々の服装を見ていると、ゲームでは定番である布の服や旅人の服のような物を着ている者や、重厚な金属製の鎧や鎖帷子を装備した者、そして、俺達のようにローブを着た者等、それこそ多種多様であった。

 しかも、その上、様々な人種が行き交っているのだ。それらの中には、俺の様な日本人に近い顔つきの者もいた。

 その為、色んな用事を持った人々が、ここを行き交っているというのが、これを見ているだけでよく分かる。

 そして、これら光景は、マルディラントで人と物と金が大きく動いているという事の証でもあるのだ。

 まさに商業都市といったところだ。が、しかし……俺はそれらの光景を眺めている内に、心の片隅に残っていた僅かな希望が消えてしまったのであった。

 やはり自分はまだどこかで、異世界にいると認めていなかったのだろう。

 俺が今まで見てきた光景は、全部作り物で、俺を騙す為に誰かが仕組んだ事なんだ……そう思っていた部分がごく僅かにあったのである。

 しかし、この多くの行き交う人々を見て、ここは現代日本とは違うのだなと、俺は今になってようやく確信したのであった。


(……今まで見てきた景色もだけど、ここにいる人々はどう見ても日本人じゃないなぁ……やっぱここは異世界だわ。これ以上ないくらいに、ボッチを極めてるやんか、俺……)


 感傷に浸りながらも、馬車はマルディラントへと進み続ける。

 近づくにつれて、マルディラントの街並みが段々とハッキリしてきた。

 流石にゲームと違って、街の建造物の多さは桁外れであった。

 ハッキリ言って、ゲームなんかとは比較にならない。

 なので、ここがゲームとはとても思えないのである。が、ここではゲームの中で出てきた魔法やアイテムが、確かに存在しているのだ。

 だがまぁ、それについてはもう考えても仕方ないので、俺はもう考えないことにしたのであった。

 というわけで次にだが、このマルディラントは、白い石造りの建造物が建ち並ぶ中心に、美しい巨大な城が聳えるという様相をしており、ゲームでは比較的に良く見かける構造の街であった。

 そして、城の周囲は、これまた巨大な城塞で囲われており、豪華で堅牢なイメージを見る者に与えるのである。

 だが、城の大きさに対して城塞はありえないくらいに広かった。

 例えるならば、こたつの台の上に、小さなみかんを一個だけポツンと置いた感じだろうか。

 とにかく、そのくらいのギャップが城と城塞の間にはあるのだ。

 これは俺の想像だが、元々この街は、あの城塞の内側だけだったのかもしれない。

 しかし、人が集まるにつれて城塞の中には入りきらなくなり、外にも建造物が増えていったのだろう。

 ただ、建物の建築様式は中世ヨーロッパというよりも、どちらかというと古代ローマの様式に近い感じであった。

 その為、このマルディラントは確かに大きな街であるが、色彩鮮やかなヨーロッパの街並みのように華やかではない。

 どちらかというと、控えめな美しさを感じさせる彫刻品のような街並みなのである。


(古代ローマ帝国の街並みもこんな感じだったのかもな……美しいねぇ。でも……こういうのは観光や映画だけでいいよ。リアル体験は勘弁してほしいわ)


 ふとそんな事を考えながら、マルディラントの街並みに目を向けていると、突然、馬車のスピードが徐々に減速していった。

 何かあったのだろうか? と思った俺は前方に視線を向ける。

 すると、沢山の荷馬車が行き交う事もあって、街の入り口手前辺りから、ちょっとした渋滞が起きていたのだ。

 しかも、道が一本しかない上に、後ろからも沢山馬車が来ているので、迂回も出来ない状況なのである。

 これは我慢するしかなさそうだ。


「ふぅ……マルディラントに来るといつもこうじゃな。こりゃ、少し時間がかかるわい」


 ヴァロムさんもこの渋滞にはお手上げのようだ。

 現代日本でもそうだが、人が増えるにしたがって交通渋滞が起きるのは、どの世界でも同じなようである。


「そうみたいですね。まぁいいじゃないですか。街は逃げないですから、気長に行きましょう」

「ふむ。お主の言う通りじゃな。気長にいくとするか」


 というわけで俺達は、暫しの間、渋滞のなかを進んでゆき、マルディラントの中へと入って行ったのであった。



  [Ⅱ]



 街の中に入った俺達は、街道から地続きになっている大通りをそのまま進んでゆく。

 馬車が闊歩することもあってか、大通りはそれなりに広かった。

 日本の道路で例えるならば、幅にして3車線はある道路といった感じだろうか。大体、そのくらいの広さである。

 だが、馬車が通れるのは大通りだけのようで、建物の脇にある裏の道は、人が擦れ違うのがやっとな細い道ばかりであった。

 その所為か、大通りの沿道には、荷馬車や辻馬車がとまる停留所みたい場所が幾つか確認できた。

 またこの沿道にはそれらの他に、露天商などの姿も沢山あった。

 そこでは沢山の人々が買い物をしており、今もその賑わいを見せているのだ。

 ついでに美味そうな匂いも漂っているので、俺の腹はさっきからグゥグゥと鳴りっぱなしなのである。

 というわけで、俺は早く飯にありつきたい一心から、ヴァロムさんにそれを訊いてみた。


「あの、ヴァロムさん。だいぶ進みましたけど、どの辺りで食料を調達するんですか?」

「まずその前に、ちょっと寄らねばならぬ所があるのじゃ。じゃから、食料の買い入れは後回しじゃ」

「へぇ、そうなんですか。まぁこの辺の事はさっぱりなんで、お任せしますよ」


 俺達はその後、城塞がある方向へと進んで行った。

 大通りを真っ直ぐ進んで行くと、アーチ状になった城塞の門が前方に見えてくる。

 そこには西洋風の鎧を着こんだ数人の兵士が門の左右におり、剣や槍といった物々しい装備をして佇んでいた。恐らく、門番の衛兵だろう。

 この衛兵達を見る限り、城塞から奥は、この街の支配階級が住んでいる区域に違いない。


(まぁ俺達にはあまり縁のない場所だから、別にどうでもいいが……って、え?)


 などと考えていると、ヴァロムさんはそのまま門の方へと馬車を向かわせたのである。

 そして門の前で、ヴァロムさんは馬車を止めたのだ。

 門の兵士達が威圧感を漂わせながら、俺達の所へと即座にやってきた。


「ここより先は、平民の立ち入りは禁止だ! 引き返すがよいッ」


 思った通りの展開だ。

 ヴァロムさんはそこで、首に掛けたネックレスのような物を兵士に見せた。


「儂の名はヴァロム・サリュナード・オルドランという。アレサンドラ家の当主・ソレス殿下に用があるのでな。通してくれぬか?」


 その直後であった。

 兵士達の表情が、見る見る青褪めた感じになっていったのである。

 それから兵士達は慌てた様に取り乱し、ヴァロムさんに頭を垂れたのだ。


「た、大変、失礼をいたしました。オ、オルドラン様。どうぞ、お通り下さい」

「そこまでせんでもよい。儂はもう隠居した身じゃ。では通らせてもらうぞ」

「ハッ!」


 兵士達はキビキビとした動作で門を開き、道を空けた。

 対する俺はというと、この展開をただ呆然と眺めているだけなのであった。


(ええっと……どういう事? どういう事? 何、この展開?)


 疑問は尽きないが、俺達はとりあえず、城塞の中へと入る事ができたのだ。

 俺は離れてゆく城塞の門と、前方で手綱を握るヴァロムさんを交互に見た。

 あまりに予想外な展開だったので、今のやり取りの意味がよく分からなかったのだ。

 でも、あの兵士達の様子はただ事じゃない。

 あれはどう考えても、水戸の御老公一派が、散々敵をいたぶった挙句に印籠見せつける時の反応と、同系列のものなのである。


(一体、何者なんだ、この爺さんは……。まさか、元副将軍とかいうオチはないだろうな……)


 これは当然の疑問であった。


「あの、ヴァロムさん。さっき、兵士達が委縮してオルドラン様とか言ってましたけど、どういう事なんですか? それとアレサンドラ家というのは……」


 ヴァロムさんはこちらには振り向かず、静かに話し始めた。


「ふむ。お主にはあまり関係ないじゃろうから黙っておったが、儂は以前、イシュマリアの王都オヴェリウスで、王を補佐する宮廷魔導師をしておったのじゃよ。今はもう息子に、その役目は譲ったがの」

「宮廷魔導師……」


 なんとなく凄い響きの言葉である。

 しかも王を補佐していたという事は、ヴァロムさんは、かなり位の高い貴族のようである。

 そんな事など考えた事も無かったので、俺は今、少しショックを受けたのであった。


「それとアレサンドラ家はな、このマルディラントを含むマール地方を治める太守なのじゃ。そして儂は今、あそこに見えるアレサンドラ家の居城、マルディラント城へと向かっておるというわけじゃわい」


 ヴァロムさんはそう言って、前方に見える城を指さした。


「そ、そうだったんですか。すごいお知り合いの方がいたのですね……」


 俺も前方に聳える城へと視線を向ける。

 するとそこには、白い外壁で覆われた美しい西洋風の城が、俺達を見下ろすかのように厳かに佇んでいたのだ。 

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