ビキニと紫苑
「大塚さんようこそ、浅霧旅館へどんな用件でこちらにいらっしゃたんですか?」
「海に沈む夕日が綺麗だって聞きました。それに一度泊まってみたかったし、執筆作業にはうってつけだし」
執筆にうってつけかぁ。薄紫色のショートボブヘアのこの人は大塚紫苑。神樹として転生した女性だ。そして私は浅霧睡蓮、この旅館の経営者で人造神の女だ。
「まぁ確かに景色はいいですからねぇ」
「ここってプールあります?」
「プールはないけどすぐ近くに海水浴場有りますよ」
「良かったぁ、もし時間が有れば水の中に入りましょう」
旅館と言っても高くても改装して時に二階分に城跡からか減築し、一階は色んな設備と浅霧家の住居とも使ってるので部屋数は少ない。だから泊まる人は限られている。洋風でもいいけど昔ながらの畳もある和風な感じがやっぱり落ち着く。
「今日は客少ないし良いですよ」
「部屋に荷物置いたら行きますよ」
「じゃあ私先に着替えて待ってますね」
「準備運動先にやっといてください」
「大丈夫ですよ、私と一緒にやりましょうよ」
「ええ、分かりました」
そういう訳で私も緑色のビキニに着替えて先に入念に準備運動をやっていた。真夏の晴れた空の下、海の向こうに無人島が見えた。前にゴムボートで行こうとしたけど遭難しかけたので緊急の時以外は絶対に使わないと決めている。そう思っていたら大塚さんが小走りで近づいてきた。
「大塚さん、どうやったらそんな我儘ボディになるんですか?!」
「ちょっと胸揉まないでください」
大塚さんは藍色のビキニを身に着けていた。けど私だってこの人に負けないくらいプロモーション良いもん。だけどそんな事で張り合うのはくだらないなぁと思った。けどデスクワークばかりのイメージだけど。健康管理には自分以上に気を使ってるんだろう。
「秘訣は何ですか?」
「睡眠をしっかりとる事と適切な食事と運動です」
「へぇ、そうなんですね。ところで息子さん元気ですか?」
「最近は自我が強いのか「ババア」呼びしてきますよ」
「やっぱりそうなんですねぇ...」
「浅霧さんの所もですか」
「そろそろ言い始めそうなので、それに二郎大丈夫かなぁ」
「あ、そっか今日はお泊り会か!」
「寂しくて泣かないですかね?」
「心配しなくても大丈夫ですよ、もしそうなったとしても抱軋めて上げれば何とかなりますよ」
「そんなもんですかね?」
「一日だけ育児から解放されるんですから今日は思いっきりリラックスしましょう!」
「それもそうですね」
「ところでお腹空いてません?」
「まだ大丈夫です」
「ちょっと休みますか」
「そうですね、今何時くらいでしょう?」
「お腹もすいてきましたし、そろそろ食事にしましょっか?」
そして私と大塚さんの二人で食事をしたし、夜は温泉にも入った。別にその気が有るわけじゃない。ただの母親同士の交流会だ。けどふと思う事が有るんだけど。もしこの人が男だったら。想像するだけで興奮してきた。まぁつまり男体化。イケメンになって私の目の前に...。
「ん?どうしました?私の顔に何か付いてます?」
「いやいや何でもありませんよ、本当です!」
「やっぱり女どうしだから何だろう...」
「違います!すいません。ただ顔のお肌の艶が良いのでどんなコスメを使ってるのかなぁて...」
「...ああ、やっぱり気になりますよね!?私はねこういうのを使ってます」
「...そんなものをお使いになってるんですね!参考になります!」
「私、明日早くここ出ますね、長居するのも迷惑かかりそうだし」
「迷惑だなんてそんな、本日はわざわざお越しいただき、誠にありがとうございます」
「お休みなさい」
何とか、うまく誤魔化せた。けど、本当はバレているんじゃないかな。口に言わないだけで今度知り合いの薬局を経営しているあの人に頼んで『男体化』の薬作ってもらおう。大塚さんに服用させようか。あるいは自分に使ってあの人を...。何て駄目に決まってるよね。
「お忘れ物無いように今一度確認してお帰り下さい。有った時は郵送か徒歩で私に行きますよ」
「ありがとうございました。また来ますね」
「ちょっと待って!」
「え?何ですか?」
私はエヴリン・スカーレット”Evelyn Scarlett”という施術師兼魔術師の女性の店の紹介した部屋の穏やかな雰囲気とアロマ?の香りの事を話した。あの日以来どうしてもあの感覚を共有したくて堪らないからだ。お節介かもしれないけど喋らずにはいられなかった。転生した来たばかりで日も浅いだろうというちょっとした意地悪心も含めて。
「その店ならもう知り合いの川崎さんに教えてもらいました」
「それは下に『茜』(あかね)が付くほうのですか?」
「はい、そうです」




