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38 狙われる子供たち

 クリームあんみつは早々に完食し、話に夢中になっていると時間はあっという間に過ぎていた。


「そろそろ帰ろうか」


 千代が立ち上がり、結衣も腰を上げた。


「ねぇ、私が善のこと好きなの、善には内緒にしてね」

「もちろんよ。それは自分で言わなきゃいけないことだから」

「いやー、言えないよ」


 結衣は眉を下げて、人差し指で頬をかく。


「いつでも話は聞くけど、言うか言わないかも結衣が決めることだからね」


 結衣は「そうだね」と小さく頷く。

 会計をして店を出ると、強い日差しと熱気を遮るように手をかざす。


「あっつー」

「そうね、年々気温が高くなっているわね」


 千代は手で顔をあおいだ。


「ちょっと買い物もしていい?」

「いいよ、なに買うの?」

「結衣はお昼ご飯はなにが食べたい?」

「お好み焼きが食べたい!」

「じゃあキャベツは買わなきゃ」


 商店街を歩き、八百屋に向かうがシャッターが閉まっており『臨時休業』と紙が張り付けられていた。


「あら、珍しい」


 千代は口に手を添えて目を丸くする。

 しばらく休むようで、「体調を崩したのかしら?」と心配そうに千代は漏らす。


 八百屋の前で立っていると、「千代さん、こんにちは」と話しかけてくる女性がいた。年齢は千代と変わらないだろう。


「こんにちは、ねぇ、八百屋さんってどうしたのか知ってる? しばらく休むって書いてあるんだけど」


 女性は視線を走らせ、口に手を添えて声を顰める。


「小学三年生の息子さんが行方不明みたい」


 千代と結衣は目を見張って、顔を見合わせた。


「それは心配ね。なにがあったのかしら」

「夜、部屋で寝てるのを確認したんだけど、朝起こしに行くといなくなっていたようなのよ」

「夜のうちに家出をしたの?」

「でも、部屋でなくなっているものはなかったそうよ。それに、靴も履いていないのはおかしいでしょ」


 確かに、靴を履かないで家を出るのは気になる。結衣は火事で慌てて家を出るくらいしか、靴を履かずに家を出ることは思いつかなかった。


「孫のお友達も最近同じことがあったのよ。でもその子は三日後に部屋で眠っているのを発見されたの」

「でも帰ってきてよかったわね」


 千代は胸を押さえて頬を緩める。


「そうなんだけど、三日間どこにいたのか聞いても『覚えていない』って言うらしいの」


 結衣は耳を傾けながら思考を巡らせる。

 また外国から入り込んだモンスターのせいなのではないか。子供を攫って返す理由はわからないが、帰宅したら善に話をしようと決める。


 遠くの方で「おばあちゃん」と手を振る小学生くらいの男の子がいた。傍には母親らしき女性が立っている。


「あっ、ごめんなさいね話し込んじゃって。娘と孫と買い物に来ていたの。またお茶しましょうね」

「ええ、またね」


 千代は手を振る。


「おばあちゃん、さっきの人のお孫さんは何年生?」

「確かニ年生だったと思うわ」

「八百屋さんの子と、歳が近いね」

「子供が狙われているのかしら? 嫌だわ」


 モヤモヤとした気分になった。

 スーパーまで行けばキャベツを買えるが、そんな気になれなくて、惣菜屋でコロッケを買って帰宅した。





 昼食のコロッケを食べながら、結衣は善と宗一郎に行方不明の子供の話を聞かせた。


「神隠しみたいだね。八百屋さんの子も無事に帰ってくるといいのだけど」


 結衣が話し終わると、宗一郎は眉を八の字にした。


「神隠しか……」


 善が呟き、小さな声だったのに結衣にはやけにはっきりと聞こえた。


「どうしたの?」


 結衣の心の中で、小さな不安が生まれた。善の表情が険しい。


「俺にもわからない」


 善の顔が翳る。

 いつもなら現場に連れて行け、と言っているはずなのに、今回はそれがない。食事を終えると、善は部屋に篭った。


「ねぇ、今日の善おかしくない?」


 千代と宗一郎に言えば、二人は心配そうに善の部屋がある方に目を向ける。


「落ち込んでいらっしゃるように見えたわ」

「善様のことも気になるね」


 結衣は食事を終えると、神棚に向かって手を合わせた。


(善が不安に思っていることを話してくれますように)


 善には結衣の言葉が伝わったはずなのに、善はなにも話してくれなかった。





 三日後に八百屋の息子も、部屋で寝ているのを発見された。その後も四年生の女の子と五年生の男の子が同じようにいなくなるが、いずれも三日後に部屋で眠っているのが見つかる。千代が井戸端会議ですぐに情報を得てきた。


 共通しているのが、全員が三日間のことを覚えていないということ。

 10歳前後の子供が狙われていることは確かだ。

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