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34 作戦会議

 動物の目撃情報がないにも関わらず、三日続けて同様の事件が起きた。

 外出する人は減り、神社の祈祷もキャンセルの連絡が何件かあった。


 今日はみんなで夏休みの宿題をやろうと計画していたが中止になり、結衣は自室で問題を解いていく。

 宿題にはあまり集中ができず、事件のことばかりを考えてしまう。


 犯人は獣型のモンスターだということしかまだわかっていない。

 結衣の住むC市の近隣で事件は相次いでいるが、場所や被害者の関連が全くなく、善も手をこまねいている。


 扉がノックされ、結衣は「はい」と返事をした。


「結衣、お昼ご飯ができたよ」


 宗一郎が呼びにきて、結衣は問題集を閉じた。

 リビングに行くと、善がぐったりしているように見える。


「なにかあった?」


 善は大きなため息を吐く。


「子供が来なくなって、祈りが減った。子供の純粋な祈りは心地良かった……」

「今はしょうがないよ。早く事件を解決すれば、また子供が来てくれるようになるよ」


 席に着いて、全員揃って昼食を食べ始める。

 会話を楽しみながら食べていると、善が箸を置いて立ち上がった。

 険しい表情でリビングを出ていく。

 玄関の扉を開く音が聞こえた。


「善、助けて」


 ローレライの声が聞こえ、結衣も玄関に向かった。

 ローレライだけではなく、河童とドッペルゲンガーまでいる。


「ローレライ、どうしたの?」


 結衣は三人を家の中に上げる。

 千代は冷たいお茶をグラスに注いで三人に渡した。


「なにと接触した? お前たちから、事件現場で嗅いだ汚れの臭いがする。とくに河童、お前から」


 善は河童に剣のある目を向けた。


「かっちゃんは私たちを守ろうと戦ってくれたの! かっちゃんを睨むのやめて」


 ローレライが両手を広げて、河童を背に隠す。


「河童に怒っているわけではない。なにがあった?」

「私たちが滝壺で水遊びをしていたら、空からマンティコアが降りてきて、滝壺のお水を飲み始めたの」


 善が「マンティコアか……」と顔を歪めて、人差し指で口を触る。

 マンティコアは人間の顔に鋭い歯が並び、ライオンの体をしていて毒針の尾が付いているというモンスターだ。人間を好んで襲い、捕食する。


「喉が渇いたのね、と気にせず遊んでいたら、いきなり襲いかかってきたの」

「最近巷を騒がせている事件を知らないのか? 間違いなく犯人はマンティコアだぞ」


 善が訝しげな目を向けると、河童が項垂れた。


「僕たちはそんな事件を知りませんでした」


 山奥に住んでいるのだから、仕方がないのかもしれない。


「だが、マンティコアだとわかっていたのだろう? なぜ食われるかもしれない、と逃げなかった?」

「だって私たちは人間じゃないから」


 ローレライの言葉に、善は「あー……」と小さな声を漏らした。


「だから襲ってきたのが不思議だったの。私とドッペルゲンガーをかっちゃんが庇ってくれたんだ。でも動きが速すぎて、捕まえることができなかったの。かっちゃんが惹きつけるから、私にはドッペルゲンガーを連れて逃げろって」


 その時のことを思い出したのか、ローレライの瞳に涙が溜まる。

 結衣はローレライの背をそっとさすった。


「じゃあなぜここに河童がいる」


 善が腕を組んで河童に目を向けた。


「それはライちゃんが歌ってくれたからです。ライちゃんの歌に魅了された隙に、僕は二人を抱えて逃げました」

「だってかっちゃんを置いてなんていけないし。マンティコアがオスで助かったよ」


 善は口に手を添えて、なにかをブツブツと言っているが聞き取れない。考えを整理しているのかもしれない。

 しばらくすると「千代、ドッペルゲンガーをここに残していくがいいか?」と善が千代に配慮する言葉をかける。


「ええ、もちろんです。プリンがあるのよ。一緒に食べようね」


 千代はドッペルゲンガーを座らせ、キッチンに向かった。


「河童とローレライはついてこい。ついでに結衣も」


 ついで扱いされ、結衣は一番後ろを歩いて善の部屋に入る。

 善がベッドに腰を下ろし、結衣とローレライと河童は床に座る。

 善は長い足を組んで、結衣たちを見下ろした。


「マンティコアを祓うために、お前たちの力を借りたい」


 善の尊大な態度に、結衣はローレライと河童の表情を窺う。二人は気にした様子もなく、真剣な瞳で頷いた。


「マンティコアの厄介なところは、素早さと毒の尾だ。ローレライの歌が効くなら、歌で動きを止めている間に俺が尾を無効化する」

「任せて」


 ローレライは胸を張って、ポンと叩く。


「祓う間、歌で拘束できるのか?」

「わからない。すぐに正気に戻るかもしれないし、しばらく効くかもしれないし」

「そうか、確実に拘束した方がいいな」


 河童が顔の横で手を上げる。


「水中に引き摺り込めれば、僕が拘束できると思います」

「それならば、尾を無効化してからすぐに沈めよう。河童が拘束している間に俺が祓う」


 三人が自分のやることを確認して奮起するが、結衣は自分を指して「私は?」と声を上げた。今の作戦に結衣は入っていない。それなのにここに呼ばれたのだから、結衣にも役目があるはずだ。


「俺はローレライの歌を聞くとまずいから、耳栓をする。結衣は祈りで俺に指示を出せ」

「『ローレライが歌い始めたよ』とか?」


 善は眉を寄せて首を振った。


「俺は結衣の頭の中を覗けるわけではない。祈りが俺の中に流れ込んでくる。その場合は『ローレライが歌い始めたので、準備をお願いします』とかだな」


 結衣はなんとなく理解をして頷いた。言っていることは同じでも、祈るようなニュアンスで伝えればいいということだろう。


「結衣はローレライの近くにいろ。絶対に離れるな」

「待って。善と離れると、私には善のことが見えないよ」

「俺のことは見えなくても、ローレライや河童のことは見えるだろ? マンティコアのことも見えるはずだ。姿は見えなくとも、結衣の祈りは俺に届く」

「わかった。頑張る!」


 善に指示を出すなんて、責任重大だ。結衣は深呼吸をして意気込んだ。


「ローレライは危険だと思ったら、結衣を連れてすぐに離脱しろ」

「わかったわ。結衣のことは絶対に私が守る」


 ローレライは力強く頷いた。


「今から出れば、まだいるかもしれない。いなくなっていても、臭いで辿れる可能性もある。すぐに出発をするぞ」

「じゃあおじいちゃんに車を出してもらえるように頼んでくるよ」


 結衣が立ち上がると、善に腕を掴まれて止められる。掴まれた箇所から、じわじわと熱が広がっていくようだ。

 結衣は腕を掴んでいる善の大きな手に釘付けになった。


「車に宗一郎を一人で残すのは危険だ。気は進まないが、俺が結衣を担いでいく」


 結衣は口元を引き攣らせる。

 またヴァンパイアから逃げた時のように、高速で屋根の上を移動するのだろう。あの時の恐怖で体が震える。

 そしてはたと気付いた。


「まだお昼だけど、誰かに見られたらヤバくない?」


 夜まで待ったほうがいいのではないか、と思うが、早く向かわなければマンティコアを見失ってしまうかもしれない。結衣はオロオロと全員に目を向ける。


「外に出ている人間はほとんどいないのだろ? なるべく人目を避けて向かう。行くぞ」


 善が部屋を出て、その後を追う。


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