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傲慢な神様の巫女  作者: きたじまともみ
結衣の気持ち
30/45

30 理想と現実

 翌日、起きてから部屋を出てリビングに向かい、すぐに自分の席に座る。

 千代が朝食を準備している間に、善が「祈れ」と結衣の前で仁王立ちをした。


 昨日は手を合わせながら文句を言っただけだから、善に結衣の言葉は届かなかった。

 結衣は不機嫌そうな善を見て、少しだけ心が傷んだ。


 千代が記憶を失っている時、千代の心からの祈りがなくて体調が悪そうだった。結衣が祈らないことで、不調になっているのかもしれない。

 結衣はその場で善に向かって手を合わせて瞼を下ろした。


(優しい彼氏ができますように)


 手を下ろして目を開けると、善は片眉を跳ね上げて口を引き結んでいた。祈る前より不機嫌そうな表情をしている。


「結衣、ご飯を食べたらおつかいに行ってきてくれる?」


 千代がテーブルに結衣の朝食を並べる。


「いいよ。いただきます」


 結衣は湯気の立つ味噌汁に、ふーふーと息を吹きかけて口をつける。

 チラリと善に目を向けた。

 善はまだ結衣の傍で、不機嫌を隠そうともせずに立っている。


「なに?」

「……別に。結衣が祈る内容はなんでもいいが、今日のは全く気持ちがこもっていなかった」


 善は顔を背けて離れていき、すぐに寝転がった。

 結衣は食べながら、沈んでいく気持ちに気付いた。

 祈った内容ではなく、気持ちのこもり具合に苦言されたことに。


 コソッと善を盗み見る。こちらに背を向けて横になっており、どんな顔をしているのかわからなかった。


 結衣は首を振って、ご飯を頬張った。

 善のことなんて全く好きじゃないし、優しい彼氏を作るんだから関係ない、と自分に言い聞かせる。


「ごちそうさま」


 食器を片付け、結衣は千代から受け取ったメモを持って家を出た。





 商店街の入り口に自転車を停め、肉屋と八百屋で買い物をする。

 お米は余裕があったら買ってきて、とメモにあり、結衣は迷ったが買いに行くことに決めた。結衣が買わなければ、千代が買いに行くのかもしれない。千代に米を担ぎながら神社の石階段を登らせるのは忍びない。


 米屋で五キロの米を買う。十キロは無理だと思って。

 結衣は片手で米を抱え、肉と野菜の入った袋をまとめて空いている手で持った。


 重さにヨタヨタしながら進んでいると、「大丈夫?」と声をかけられた。

 そちらに目を向けると、同じ年くらいの男の子が心配そうに首を傾けていた。

 結衣が首を反らさないと目が合わないほど背が高い。善と同じくらいなのかもしれない。


「大丈夫です。ありがとうございます」


 結衣はペコリと頭を下げて前に足を進めたが、ふらりと傾いて、男の子に受け止められた。


「ごめんなさい」


 慌てて謝って離れる。男の子と近付くことなんてないから、結衣の顔は真っ赤に染まり、胸はバクバクと早鐘を打った。


「持つよ。この荷物を持ちながら、神社の階段は危ないから」


 男の子は結衣から荷物を全て取り上げ、軽々と持っている。

 男の子が歩き出すから、結衣は「ありがとうございます」とお礼を言ってついていく。


「なんで私が神社に住んでるって知っているんですか?」

「俺は神社の近くの高校に通ってるんだけど、部活でよく神社の階段を登らせてもらってるから」


 結衣は「そうなんですね」と納得した。

 運動部が体力作りのために走っているのは知っている。

 自転車のカゴに野菜とお肉を入れ、米は男の子が持ってくれる。

 結衣は自転車を押しながら歩いた。


「神社の階段を駆け上がるのはしんどいけど、可愛い女の子と可愛いおばあちゃんがいるって、みんな張り切ってるんだよね。二人とも見当たらないと、下りのテンションは低いけど」


 男の子が柔らかく目を細め、結衣は頬に熱が集めるのがわかった。

 胸は高鳴り、ときめいてキュンと疼く。


 社交辞令だとしても、結衣は嬉しくなった。

 善は結衣の喜ぶことなんて言ってくれない。腹の立つことは聞き飽きるほど言われているのに。


「どうしたの?」


 知らず知らずのうちに表情が険しくなっていたようで、結衣は「なんでもないです」と慌てて首を振った。


 隣に目を向ける。視線が絡まると、男の子は口元を緩めた。

 背が高くて爽やかで、荷物も持ってくれて穏やかな声に、結衣の理想の彼氏像そのもののような人が隣にいる。

 それなのに頭に浮かぶのは善のことで、結衣の心は乱される。


 神社に着き、結衣が野菜と肉の袋を持つと、男の子が野菜の袋まで持ってくれた。

 一番軽い肉だけを結衣に持たせるのは、結衣への気遣いだろう。全部持てば、結衣が気に病むと思って。


「ありがとうございます」

「気にしないで」


 一緒に石階段を登ると、鳥居の前で善が仏頂面で立っていた。

 結衣ではなく、隣の男の子をじっと見ている。


「神社の人?」

「あっ、そうです」


 結衣が頷くと男の子は善に米と野菜を渡した。


「じゃあまたね」


 男の子が手を振り、結衣は頭を下げた。善の眉がピクピクと動く。かつてないほど機嫌が悪そうだ。荷物を持たされたからだろうか?


「善、私が持つよ」

「いい」


 善に拒否され、荷物を持つことが嫌なのではないとわかる。


「……今のが祈っていた優しい彼氏か?」

「違うよ。重そうにしてたから運んでくれただけ。素敵だなって思うけどね」


 結衣が肩をすくめると、善は結衣に真剣な瞳を向ける。


「やめておけ」


 結衣は目を丸くした。


「え? なんで善がそんなこと言うの?」


 結衣のことなんてどうでもよさそうなのに。


「祈りは気持ちがこもっていなかった。そんな程度の気持ちなら、相手に失礼だ」


 結衣ではなく、男の子に対しての配慮か。結衣は大きく息を吐き出して、頷いた。


「そんなこと、私にもわかってる」


 結衣は男の子の名前すら知らない。知ろうと思えば、聞く時間なんていくらでもあったのに。近くの高校に通っている運動部ということだけ。話の流れで何部か聞けたけど聞かなかった。

 というより、相手を知ろうとすらしていなかった。


 善に目を向ける。他の人といても、善のことを考えてしまった。本当に不本意だけど、善のことが気になっていると自覚しただけだった。


「はぁー、私に優しい彼氏なんてできないんだ」


 結衣が大袈裟にため息を吐くと、善の口角が微かに上がったように見えた。


「帰るぞ。重い」


 善が玄関に向かって歩き出し、結衣はその背を追いかけながら顔を綻ばせた。


「ねぇ、善って神社の仕事をしてるんだね?」

「なんのことだ?」

「私の友達がお守りを買った時に、善が対応してくれたんでしょ?」


 善は斜め上に目を向けて少し考え、小さく頷いた。


「千代が手を離せない時に一度だけ」

「そうなの? でも、ありがとう」


 結衣が笑いかければ、善も少しだけ表情が緩まった。最悪だった機嫌は良くなったようだ。

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