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28 異種族家族

 以前ローレライを連れてくる時に止めた駐車場で車を降りた。今回も千代と宗一郎には車で待機してもらう。


 未舗装の道のない道を進んでいく。

 結衣と善は手を繋いだまま前を歩き、結衣が後ろを振り返ると、ドッペルゲンガーが懸命に追いかけてきていた。


 険しい道を超えた先に、滝壺が見える。

 傍に、以前はなかった丸太小屋があった。


「人が住んでるのかな?」

「こんなところに住む人間はいないだろう。ローレライのために、河童が建てたのではないか?」


 丸太小屋に近付くと、扉が勢いよく開いた。

 ローレライが「結衣!」と叫ぶ。

 ローレライのプラチナブロンドが、月明かりに照らされて輝いていた。

 こちらに跳ねるように駆けてくる。


「こんな時間にどうしたの?」

「遅い時間にごめんね」

「ううん、会いにきてくれて嬉しい」


 ローレライは満面の笑みを向ける。

 結衣は後ろで俯いているドッペルゲンガーの背中をそっと押して、ローレライの前に歩みを進ませた。


「この子がどうかしたの?」


 ドッペルゲンガーはビクリと肩を跳ねさせて、服の裾をギュッと掴む。


「この子はドッペルゲンガー。愛情を持って育ててくれる人を探しているの」


 結衣はこれまでの経緯を簡潔に話す。


「結衣に育てさせてもよかったが、結衣は100年もしないうちに寿命がくる。その時にまた同じ過ちを犯すかもしれない。だから人間ではダメなんだ。河童と二人で過ごしたいのなら、断ればいい。だが、子供を望んでいるなら、育ててみないか?」


 善の言葉に、ローレライは手を口元に添えて「私とかっちゃんの子供……」と目を瞬かせる。そしてすぐに表情を明るくした。


「ちょっと待ってて。かっちゃんも連れてくる」


 ローレライは丸太小屋に引き返し、しばらくして河童の手を引いて戻ってきた。

 河童には、ローレライが手短に説明する。


「かっちゃん、私たちには子供はできないって諦めて、二人でずっと一緒にいようって約束したよね。でも、血はつながらなくても、子供を育てる機会をもらえたんだ。一緒に愛情いっぱいに育てよ?」

「そうだね。ライちゃんと一緒なら幸せだけど、子供がいたらもっと幸せになれるだろうね」


 ローレライと河童は顔を見合わせて笑った。二人はドッペルゲンガーと視線を合わせるためにしゃがむ。


「ローレライと河童が、お母さんとお父さんになってくれるよ」


 二人はお母さんとお父さんという言葉に、くすぐったそうにはにかんだ。

 ドッペルゲンガーはローレライと河童へ交互に視線を走らせる。


「どちらの姿になれば、愛してもらえますか?」


 眉を下げるドッペルゲンガーを、ローレライと河童は優しく抱きしめた。


「そのままの姿でいいんだよ」


 ローレライの不安を受け止めるような穏やかな声で、ドッペルゲンガーは肩を震わせて啜り泣く。

 両腕を伸ばして、しっかりとローレライと河童に抱きついた。


 結衣と善は顔を見合わせる。

 結衣が目に涙を溜めて「よかったね」と笑うと、善は微かに口角を上げた。


「帰るぞ」


 善が踵を返し、結衣は引っ張られる格好になった。


「ローレライ、また遊ぼうね」

「うん。結衣、善、この子を連れてきてくれてありがとう」

「またね」


 手を振ると、河童とローレライがドッペルゲンガーの手を繋いで見送ってくれる。

 ドッペルゲンガーは丸い頬を赤く染めて、ぎこちないけれど笑っていた。ローレライと河童の優しさが伝わったのだろう。


 来た道を戻って車に乗り、千代と宗一郎に先ほどのことを話すと、二人ともホッとしたように頬を緩めた。





 日曜日の朝、結衣が目覚めてリビングに入ると、千代が神棚に向かって手を合わせていた。


「おはよ」


 結衣が声をかけると、千代は手を下ろしてにっこりと微笑む。


「結衣おはよう。朝ごはん、すぐに食べられるわよ」

「うん、食べる」


 結衣が席に着くと、寝転がっている善と目が合った。


「どうしたの? 今日は機嫌が良さそうだね」


 善の口角は上がり、穏やかな表情をしていた。普段は引き結ばれた口をしているから、珍しくて目を瞬かせる。ほんの少しだけ、ドキッとしたのは内緒だ。


「やっぱり朝は千代の祈りに限るな」


 千代の記憶が戻って初めての祈りで、善が満足そうに頷く。


「結衣も祈れよ」

「ご飯を食べたらね」


 結衣は千代の用意した朝食を「美味しい!」と顔を綻ばせながら頬張った。

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