表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/22

12 結衣の祈り

 神社の境内に着くと、善に下される。足が震えてその場に座り込んだ。

 自宅からすぐに千代と宗一郎が飛び出してきた。二人に支えられて、結衣は境内の端に移動する。

 千代に抱きしめられ、二人の前に宗一郎が竹刀を構えて立ち塞がった。


「なんで神社に戻ってきたの?」


 結衣は宗一郎の「盾になる」という言葉を思い出して、善に向かって叫んだ。


「仕方がないだろう。あのままではやられていた。結衣を必ず連れて戻るという約束を反故することになる。ここを壊したくないから外に出たが、俺の力が一番強まるのはこの神社の中だ」


 善が鳥居の方に目を向けた。

 ヴァンパイアが追いかけてきたんだ、と結衣は震える。


「大丈夫。結衣のことはみんなで守るから」


 千代にキツく抱きしめられて、結衣の体は震えを止めた。


「守らなくていい! おじいちゃんとおばあちゃんに何かあったら耐えられない」

「じいちゃんたちも一緒だよ。結衣に何かあったら、生きてはいけない」


 宗一郎は振り返って、結衣を安心させるように微笑んだ。

 コツコツと石階段を登る音が聞こえてきた。


 固唾を飲んで、全員がそちらに目を向ける。

 ヴァンパイアが鳥居をくぐり、境内に足を踏み入れた。


「いいか、さっきのことを忘れるな。俺が勝つことだけを祈っていろ」


 善が境内の中心でヴァンパイアを睨みつける。

 隣にいる千代が両手を合わせて瞼を下ろした。


 結衣も慌てて目を閉じるけれど、パンッという弾かれた音で咄嗟に目を開いた。

 ヴァンパイアの鋭い爪を善が受け止める。善は顎に拳を叩き込むが、それを叩き下されて阻まれた。

 結衣は攻撃の応酬を、呆気に取られながら見入っていた。


「結衣! なにをしている。早く祈れ。全員やられるぞ!」


 善の叫び声にハッとして、結衣は千代と宗一郎に視線を走らせる。

 善がやられれば、間違いなく千代と宗一郎は身を挺して結衣を庇う。あの鋭い爪の餌食になる二人を想像して身の毛がよだった。


 結衣は再び両手を合わせて瞼を下ろした。

 鼓膜を震わす衝撃音に恐怖を煽られるが、結衣が一番恐れているのは千代と宗一郎がいなくなることだ。


(お願い、善! ヴァンパイアを倒して)


 息を忘れるほど真剣に祈り、結衣は酸欠に喘いで目と口を開いた。

 善の掌底がヴァンパイアの胸に入る。ヴァンパイアは胸を抑えてよろけた。


「よくやった。引き続き祈っていろ」


 善の穏やかな声は、結衣に安心感を与えた。

 善の姿が白い光に包まれて見え、結衣は目を擦る。

 やっぱり善が光って見えた。神力が戻っているということだろうか。


 善が追い打ちをかけるように踏み出し、結衣はハッとして祈ることを再開する。


(善、頑張って。倒して)


 必死に祈っていると、呻き声が聞こえて瞼を持ち上げる。

 善ではなく、ヴァンパイアが地面に倒れていた。

 ホッと胸を撫で下ろすと、善がヴァンパイアに馬乗りになる。


「お前はここで祓う」


 善の聞いたこともないほど冷たい声に、ゾクリとした。

 善の手がヴァンパイアの顔を掴む。

 手のひらから清らかな光が溢れ、ヴァンパイアの体を包み込んだ。


「や、やめろ!」


 ヴァンパイアの悲痛な叫び声が轟く。


「そう言った人間に、お前はどうした?」


 善の低く静かな声が、やけに鮮明に聞こえた。

 目を開けていられないほどの光に、眼前へ手を掲げる。


 ヴァンパイアが断末魔を上げ、声が聞こえなくなると光は消えた。

 ヴァンパイアの姿はない。

 善が大きく息を吐き、こちらに向かって歩いてくる。

 結衣は善に駆け寄った。


「終わった」


 善の無愛想は変わらないが、先ほどまでの冷たさは感じられなかった。いつもの善だ。


「終わったって、ヴァンパイアはどこに行ったの?」

「消滅させた。もうどこにもいない。疲れたから俺は寝る。結衣も早く寝ろ」

「あっ、……うん」


 家に入っていく善の後ろ姿に返事をした。

 千代と宗一郎に両側から支えられ、結衣も家に入った。

 二人に芝生広場でのことを簡潔に話すと、お風呂に入ってすぐにベッドで横になる。


 これでもう惨劇は終わった。

 それなのに結衣はスッキリと晴れやかな気分になれなかった。

 消滅という言葉が引っかかって。


 相手は残虐非道なヴァンパイアだった。それでも改心をさせて、罪を償わせることはできなかったのだろうか、と考えてしまう。


 できないから善が消滅させたと頭ではわかっているが、やりきれない。

 どうしようもないことを考えては、心が沈む。


 寝返りを打って、頭まで布団を被った。

 今は寝よう。疲れた。

 結衣の瞼は重くなり、スッと眠りに落ちていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ