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ユニークシナリオ『桜花の剣鬼・流浪の剣聖』

「久しぶりだね、お父さん」


 森の奥。木々が密に茂る一角に、私が作った小さなお墓がひっそりとたたずんでいる。

 木の枝で組まれた簡単な柵と、歪な墓石には『お父さん』の名前が刻まれていた。

 周囲は苔や落ち葉に囲まれて、まるでこの森が守ってくれているような……そんな気持ちにさせられた。


 子供の頃から過ごしているこの森は、私にとっては世界で一番落ち着く場所だった。

 木漏れ日が柔らかく差し込み、苔や草の匂いが鼻をくすぐるたび、胸の奥まで温かくなる。

 幼かったころは、お父さんとこの森が私の全てだった。


 風に揺れる枝の音に小鳥のさえずり、そして時折聞こえてくる剣を振るう音が好きだった。

 私はそんな音を聞きながら育ち、気がつけばお父さんを真似して剣を振るった。



「お前……本当に、どうしようもない奴だな。

 ほら、こっちに来てみせてみなさい」


 こそこそと隠れて鍛錬していたが、お父さんに気づかれてからは、その横が私の立ち位置となっていた。

 私は多くのことを教えてもらい、身長が伸びていくにつれて剣も大きくなった。

 お父さんは困ったように笑っていたけど、それでもなんとなく喜んでいるのだと感じた。


 森の中には苔が生えており、一歩踏みだす度に微かな沈みを感じたが、お父さんがいうには半人前らしい。

 その沈みを感じないようになれば一人前らしいが、当時の私にはできる気がしなかった。


「いつか、お前がその沈みを感じなくなったとき、そのときはこの森を出て旅をしなさい。

 お前まで私のような人間に付き合う必要はない。世界の広さを知り、そして私たちの『桜花流』を絶やさないでくれ」


 そして、森のはずれに生えている桜が咲くころ、お父さんは私の元を去った。

 最後の言葉は『お前より弱い奴と、結婚することは許さん!』……なんて、そんなバカみたいなことを言うから、思わず笑ってしまったのを覚えている。



「お父さん、やっと沈まなくなったんだ。

 一生懸命鍛錬して、お父さんの使っていた『これ』で戦えるようにもなった。

 だから、そろそろ行こうと思うの」


 私は膝を折りながら手を合わせる。手のひらに感じる木のひんやりとした感触と、森の湿った空気に胸の奥が締めつけられる。

 思えば、私はお父さんにもらってばかりいた。

 今着ている羽織や、腰に差している刀だってそうだ。なにより、お父さんが教えてくれた『桜花流』のおかげで、この森にいた(トカゲ)を倒すこともできた。


 この森は私にとってかけがえのない場所だ。怖いこともあったけど、それとは比較にならないくらい楽しかった。

 だから、今ここで立ち上がらないと、ずっとこの空間から出られないような気がした。



「それじゃあ、行くね。次に来るときは、お父さんに負けないくらいのいい男を連れてくるから」


 立ち上がりながら踵を返せば、柔らかい風が私を祝福してくれる。

 木々の音色に見送られながら、私は生まれ育った森を後にした。



――――――――



――――――



――――



――


 私は外の世界を知らない。生まれた時から森で育ち、人間はお父さんしかいなかった。

 他の人と話したこともなければ、会ったこともない。だから、どんな風に接したらいいか知らないし、どんな顔をすればいいのかもわからない。



「まさか、ここにきてユニークモンスターと会うなんて」


 だから、森のはずれにある桜の下で、怪我をしている人間と会ったときはビックリした。

 しかも、その人間が私のことを『モンスター扱い』してきたわけで、思わず無視してやろうかと思ったのは内緒だ。


 この森は、お世辞にも安全とはいえない。私も幼かったころは、何度もお父さんに助けられた。

 だから……っというわけでもないが、なんか――私よりも年下っぽい見た目だし、ここはお姉さんとしての余裕をみせてもいいだろう。それに、お父さん以外の人間とあったのも初めてだ。



「人をモンスター扱いするのは感心しませんよ。私には桃華という名前があるし、なによりモンスターは君のことを助けたりしない」


 収納魔法を使用して包帯を取りだし、怪訝そうな顔をする彼を手当てした。

 気がつけば、怪我をしたお父さんにも同じようにしていたな――っと思いだし、自然と笑みがこぼれてしまう。

 最初は警戒していた彼も、最終的には私のいうことを聞いてくれた。


 ただ、時折聞こえてくる『どうしてユニークモンスターが……』とか『どこでフラグを踏んだんだ……』とか、その独り言に少し心配してしまう。

 なにをいっているかはわからないが、私もお父さん以外の人と会ったことがないのだ。

 この男が特別であって、他は人は違ってほしいと思った。



「ありがとう、その……」


「桃華。私の名前は桃に華と書いて、桃華。

 一応、君の恩人でもありますし、できれば忘れないでくださいね」


 そういって彼に手を伸ばせば、握り返しながら答えてくれる。

 見た目ほど酷くはなかったようで、手当てした途端に治っていく姿に、私の方が彼を疑ってしまった。

 あっという間に怪我が治り、笑いながら話す彼に微笑んでしまう。


 ここまで喜んでくれるのであれば、助けた甲斐があったというものだ。

 相変わらず『配信を切らないようにしないと……』とか、その言動は理解できないものであるが、人助けというのは気持ちが良いと感じた。



「なっ、なにかお礼させていただけませんか?」


 踵を返した私を彼が呼び止める。どこか焦っている様子だった。


「別にいりません。今度、君が困っている人見つけたら、そのときは助けてあげてください」


 私は振り返らずに答えた、別に見返りがほしくて助けたわけでもない。ただ、次の瞬間には彼は私の手を取って、その(てのひら)に『袋』を押しつけてきた。……本当に驚いたよ。突然のことに思わず落としてしまったが、その中からこぼれたお金に、更に気まずい空気が流れていた。



「あの……その、すみません」


 なんというか――たぶん、この男は不器用なのだろう。

 申し訳なさそうに謝る姿に、私の方が罪悪感を覚えてしまうほどだった。

 私は落ちていた袋を拾い上げると、そこから少しだけもらって彼へと返す。


 せっかくだ。少し仕返しでもしてやろう――私は彼から少しだけ離れると、腰の刀に手を添えて微笑んだ。

 お父さんから受け継いだ刀『花霞(はながすみ)』。その刀身は淡い光が滲んでおり、まるで花びらが散っているような幻影を纏う。

 刃文は流水のように揺らめき、見る角度によって花弁の影が浮かんでは消える。



「少し貰いすぎましたからね。そのお返しに、私の技をみせてあげます」


 私の言葉に風が止んだかのような静寂が訪れる。そして、金属が小さく鳴いたかと思えば、抜き放たれた一線が、周囲の花びらを引き寄せた。


 桜花流一ノ型『鞘鳴り』


 その一線は、目で追うことすら叶わない速さ。鞘から抜け出す勢いのまま、引き寄せられた花びらが舞い上がった。

 相手の意識よりも早くその命を絶つ技。斬られたことすら悟らせぬまま、残響のように鞘鳴りだけがその耳に残る。


 私が彼の方を向きながら微笑めば、彼は息を呑んだように声を失っていた。

 よっぽど驚いたのだろう、その姿に私としても嬉しくなってしまう。

 これだけ反応してくれれば、仕返しとしては十分だろう。



【ゲームをプレイ中の皆様へ・重要なお知らせ】

・ユニークシナリオ『桜花の剣鬼・流浪の剣聖』がアンロックされました。

 桜吹雪と雷鳴を身にまとい、流浪の剣聖が出会った者の運命を狂わせる。

 挑戦する者よ、己の剣と知略を駆使して剣聖の軌跡に挑め!

※本シナリオでは、全てのプレイヤーが ユニークモンスターとランダムエンカウントします。

 プレイヤーの選択次第で、ユニークモンスターの行動パターンが刻々と変化。

 あなたの判断が戦局を左右するでしょう。

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