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九話 憎悪と陰謀

「あの女あの女あの女あの女あの女ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないヒトゥーヴァの娘のくせに化け物のくせに私のベルナール様を奪った!あああああ!絶対に許さない!殺してやる!」


 アレクサンドラは、気づけばホンファンを呪いながら誰かを殴っていた。

 装いはデビュタントの夜会そのままだ。殺風景な部屋の中にいる。

 握っていた扇子は壊れている。それで殴られ続けた誰かは、血塗れで酷い有様だ。下男が羽交締めにしているので逃げることもできないらしい。

 苦しそうに息をしながら「たすけて」「ゆるしてください」と言っている。

 辛うじて、夜会の支度をした侍女の一人だとわかった。


「そうだわ。今は折檻(せっかん)の途中だったわね。お前が最後の一人だった」


 アレクサンドラは壊れた扇子で、侍女の顔を上げさせた。


「うっ……おぶっ……うっ……うぅ……た……たすけ……ぐえっ!」


「虫みたいね。なんて醜いのかしら」


 殴りながら話す。この侍女の罪を。


「私とヒトゥーヴァの娘、比べればどちらが美しく高貴か自ずとわかるというもの……なのに、ベルナール様はあの娘ばかり見ていた。

 私は誰よりも美しく高貴なのにおかしい……お前たちの支度(したく)に手抜かりがあったに違いないわ。

 だから、私が断罪してあげる」


 アレクサンドラは狂気を浮かべながら、侍女を甚振った。


 これまでアレクサンドラの肌を整え、衣装を着せ、化粧をした侍女全員をいたぶり、アレクサンドラ付きから外すよう命じた。

 ようやく少しだけ冷静さを取り戻し、息を整えていると執事が手紙を渡した。


「手紙?誰から……叔父様から?」


 それは、国王からの手紙だった。

 手紙を読んだアレクサンドラは……。




 ◆◆◆◆◆




 翌日。アレクサンドラとリュミエール公爵家は動いた。

 まず、寄子(よりこ)たち臣下を使い、ホンファンと彼女の一族の悪い噂を流した。


「フェイ・ホンファン様ですか?公の場ではお淑やかにされていますが、魔獣を嬲り殺しにする恐ろしい方……いいえ、化け物です」


「あの美しさも化け物だからだ。我々を惑わすために美しいのだ。魔獣の血が濃いから魔獣と同じ黒毛だし、あんなに瞳が赤いのさ」


「ヒトゥーヴァは人間じゃない。殺しても死なない化け物だ。あの昔話は本当だ」


「しかも、その、はしたない方で……。見目麗しい令息を見つけては、誘惑して欲望を叶えているそうです。未婚の淑女とは思えないお方ですわ」


「ヒトゥーヴァの一族は、魔獣と交わって生まれた化け物の一族だ。人間じゃあない。オプスキュリテ辺境伯家は誑かされているのさ」


 聞いた者が信じたか否かはともかく、噂は瞬く間に広がった。

 当然だ。リュミエール公爵家は王家の外戚であり、広大な穀倉地帯とワインの産地などを有する大領主だ。また、今は国政から手を引いてはいるが、代々重臣として現王家に支えて来た。


 一週間もすれば、噂は社交界のみならず市井にも広がるだろう。


 とはいえ執事たちの報告によると、ベルナールとホンファンの社交にはあまり影響は出ないらしい。


「お二人はオプスキュリテ辺境伯家の関係者か、古くから付き合いのある家とだけ交流しています。

 各家は噂を信じず、ヒトゥーヴァの娘を丁寧に扱っているとか」


 アレクサンドラは、新しい侍女たちに身体を磨かせながら(わら)う。最近のアレクサンドラは、食事と悪巧み以外の時間のほとんどを自分を磨かせることに費やしている。


「今はそれでいいわ。あの女が全てを失うのはこれからだもの」


 その後。宰相たちからリュミエール公爵家へ強い抗議があったが、噂を流したという証拠はない。無視した。


「奴らは噂を消そうと必死になっているらしい」


「おほほほ。手遅れだというのに愚かなこと」


「お父様とお母様のおかげですわ!アレクサンドラのためにありがとうございます!」


 アレクサンドラは両親に抱きついた。もちろん、同じように協力してくれた兄たちにも抱きついてあげよう。


「いよいよ明日!明日!ベルナール様が私のものになるのよ!ああ!待ちきれないわ!」


 明日。王城で開催される夜会。それで全てが終わる。

 アレクサンドラは高笑いし続けた。



 ◆◆◆◆◆◆



 翌日の夜会。王城の広間にて。

 アレクサンドラは着飾り、取り巻きを引き連れて参加した。


 今宵のドレスも、ベルナールの色味を意識したものだ。光沢が美しい白と青の生地をたっぷり使い、銀糸で刺繍している。

 もちろんデコルテはしっかり出ていて、張りのある乳房の豊かさがよくわかるデザインだ。

 また、髪も気合を入れて結わせている。複雑に結われた金髪を飾るのは、銀の台座にダイヤモンドとサファイアが輝くティアラだ。


「アレクサンドラ様。今宵もお美しゅうございます。側妃殿下が霞むほど……」


「あらそう?悪い気はしないけれど不敬よ。側妃なんていつ捨てられるかわからない身分だけど、今は一応尊きお方なのよ?」


 今宵は、国王の側妃主催の夜会だ。堅苦しい物ではなく、ダンスと歓談で社交するのが趣旨である。入場も順番を問わない。

 参加者も広く招待していたが……数日前に主催たちとアレクサンドラたちが手配したので、国王とリュミエール公爵家の取り巻きたちで固めた。

 もちろん、宰相のような堅物たちはいない。

 国王は、このような気楽な夜会を好み、側妃たちによく開催させている。


(招待客の急な変更もいつものこと。お陰で宰相たちにも怪しまれずに済んだわ。

 後は叔父様が上手くやってくれれば……)


 今、壇上で挨拶する側妃の隣に本来居るはずの国王はいない。アレクサンドラたちと結託して企んでいるからだ。


 側妃の挨拶が終わりしばらくして、ある招待客たちが遅れて入場した。

 アレクサンドラに取り巻きの一人が耳打ちする。


「フェイ・ホンファンが入場しました。同行しているのは、例の従者たちだけです。オプスキュリテ辺境伯令息様はいらっしゃいません」


 エスコートしていたはずのベルナールが居ない。アレクサンドラの心が歓喜で震えた。


「そう。わかったわ」


(予定通りだわ。叔父様はうまくやったみたいね)


 アレクサンドラは満足して微笑み、広間の中央に歩み出た。

 取り巻きの一人が声を上げる。


「フェイ・ホンファン!アレクサンドラ・リリーシア・リュミエール公爵令嬢様がお呼びだ!

 前に()でよ!」



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