表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/26

七話 フェイ・ホンファン 前編

 アレクサンドラは山程のドレスと装飾品を作らせ、己を磨き上げさせた。


「ドレスはもっと刺繍を増やして。胸元はもっと大胆でいいわ。

 ちょっと!髪飾りは特に華やかにしてって言ってるでしょう!私のこの美しい髪を引き立たせるのよ!」


「もっと丁寧にマッサージしてよ!痛いわよ!口答えする気!?鞭を持って来なさい!」


 他にも様々な我儘を言っては叶えさせた。また、これまで以上に暴力的になった。


「冬の庭は地味で嫌ね。もっと目を楽しませる工夫をしなさい。これが限界?お前、私に口答えするの?」


「はあ?もっと野菜を食べろ?おだまり!料理が不味いせいよ!」


 そして、クレマンを呼びつけていたぶったり、公式行事や私的な夜会や茶会などで影響力を増したり、母と共にオプスキュリテ辺境伯家に手紙を送り続けた。


 アレクサンドラの手紙の宛先はベルナールだ。内容は妄想たっぷりの恋文だ。

 母の宛先は、腹違いの妹でもあるオプスキュリテ辺境伯夫人だ。

 内容は、オプスキュリテ辺境伯を説得し、アレクサンドラとベルナールの婚約許可を得よと命じるものだ。


 しかし、いくら送っても返事はない。アレクサンドラとその母は激怒した。


「あの女!賤しい妾の子が!私の娘の役に立つ機会をくれてやったというのに!何様よ!」


「そうよ!失礼すぎるわ!きっとオプスキュリテ辺境伯に嫁いだから良い気になってるのよ!ベルナール様のお返事を隠してるのもこの女に違いないわ!」


 アレクサンドラと母は口汚く罵り、また手紙を書くのだった。


 そして時は流れ、再びあのデビュタントの夜会を迎えたのだった。





 ◆◆◆◆




 デビュタントの夜会当日。

 遠縁の付添(つきそ)いとして参加したアレクサンドラは、全身をベルナールの色で飾り立てていた。


 ドレスは豊かな胸を強調させるため、襟ぐりが大胆に開いている。生地はベルナールの瞳を思わせるサファイアブルーで、ベルナールの髪を思わせる銀糸とダイヤモンドで刺繍してある。

 アレクサンドラの金髪をまとめる髪飾りも同じ色だ。幾つもの大粒のサファイアで大輪の薔薇の形を作っている。

 耳飾りと首飾りもサファイアで金具は銀。扇子もドレスと同じ青色だ。


 そして、それらを身に纏うアレクサンドラは、誰よりも華やかで目立っていた。


 自分以上に美しい者などこの世にいない。そう確信できる出来だ。


 アレクサンドラが命じて参加させた取り巻きたちも、その美貌を褒め称えた。


「今宵のアレクサンドラ様は、いつも以上に華やかですわね。髪も肌も光り輝いていらっしゃる」


「本当に。男ならば誰でも魅了されます。私に婚約者がいなければ、跪いて愛を乞うところですよ」


「女でもうっとりしてしまいますわ」


「それにしても、青色とサファイアが良くお似合いですね」


「アレクサンドラ様は『黄金の薔薇』と讃えられて久しいですが、これからは『青薔薇の君』とお呼びしましょうか」


「『青薔薇の君』……悪くないわね」


(当然の評価ね。うふふ。周りも私に注目しているわ。褒め言葉があちこちから聞こえる。

『デビュタントの令息令嬢たちが霞んでいる』ですって!

 これならベルナール様も、私の素晴らしさがお分かりになるわ!ああ!早くいらして!どうして最後の入場なのよ!)


 ベルナールとその婚約者であるフェイ・ホンファンは一番最後の入場だ。

 他国の貴族令嬢であり、次期オプスキュリテ辺境伯夫人であるホンファンを(おもんばか)った順番である。


「我が国の高位貴族が最後を飾るべきだというのに。ヒトゥーヴァの娘は、どこまでも生意気ね」


「アレクサンドラ様の仰る通りです」


(しかも、ベルナール様がエスコートするのよ)


 気に食わなかったが、いよいよこれまでの苦労が報われるのだ。アレクサンドラは苛立ちをおさえながら待った。


(ヒトゥーヴァの娘は、魔獣のように艶のない黒髪に血のような赤目の醜女。しかも、自ら魔獣を討伐する野蛮な女だという話だもの。見比べれば、どちらが上か良くわかるで……)


 大きなざわめきが起き、そちらに気を取られる。


「オプスキュリテ辺境伯令息よ!今宵もなんて素敵……ああ、お隣の方……」


「噂の婚約者……あの方が……なんてこと……」


 貴族たちの囁き声。やはりホンファンは醜いのだろうと、広げた扇子の下でほくそ笑む。

 人混みの向こうから、ベルナールと彼がエスコートするホンファンらしき女が見える。

 近づくのを悠々と待ち構えていた。


(ああ!ベルナール様!相変わらず凛々しい!いいえ、さらに美丈夫になってるわ!黒い礼服もいいわね!ベルナール様の銀髪と小麦色に近い肌色を引き立たせていてたまらない!

 ……で、隣がヒトゥーヴァの娘ね。どんな化け物じみた顔を……っ!)


 アレクサンドラは、ベルナールに見惚れた後フェイ・ホンファンを見て……驚愕のあまり息を呑んで目を見開いた。


(な、なに!?なぜ!?は、話が違う!醜い化け物じゃない!)



閲覧ありがとうございます。よろしければ、ブクマ、評価、いいね、感想、レビューなどお願いいたします。皆様の反応が励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ