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五話 辺境伯家の返答

【リュミエール公爵家からの申し出は全て断る】


 その報せは、オプスキュリテ辺境伯家の使者一行がもたらした。

 高位貴族の使者に相応しい装いをしているが、いかにも武人らしい男女で構成された一行だ。

 彼らは、公爵家の使者一行を引きずるようにしてやって来た。そして、オプスキュリテ辺境伯からの辛辣な手紙を携えていた。


「たかが辺境の蛮族風情が!我が家との縁談を断るだと!」


「あの辺境伯!ベルナール様の意思を無視して断ったのね!酷いわ!」


 使者たちを謁見室に通し、手紙を読んだ公爵とアレクサンドラは激怒した。

 だが、使者たちはびくともしないし、うんざりとした様子を隠しもしない。


「公爵閣下。発言を訂正されよ。不躾(ぶしつけ)な要望を送ったばかりか、王国の東の守護者たるオプスキュリテ辺境伯家を愚弄なさるおつもりか」


「ご令嬢。貴女の横槍に最も反対しているのは、ベルナール・オプスキュリテ様その人です」


「左様。我らが若様は、フェイ・ホンファン様を熱愛されている」


「なんですって!?」


 いかにも東の隣国らしい名前を聞くだけで、アレクサンドラの怒りが増す。

 フェイ・ホンファン。それがベルナールの婚約者の名だ。アレクサンドラももちろん知っている。


 フェイは家名で、ホンファンは名前だ。

 フェイは飛ぶ、ホンは赤色、ファンは芳しい香りという意味だという。


(存在も名前も気に食わない!所詮は、魔獣の血を引く化け物と噂される一族の娘!教養もなく醜いに決まってるわ!)


「私の方がベルナール様に相応しいわ!」


「それを決めるのは貴女様ではございません」


 使者たち言葉と、辺境伯の手紙の内容を要約するとこうだ。


【リュミエール公爵家からの申し出は全て断る。

 ベルナールとフェイ・ホンファン嬢との婚約を解消し、リュミエール公爵令嬢と婚約するなど絶対に有り得ない。

 そもそもベルナール・オプスキュリテとフェイ・ホンファン嬢の婚約は、当家とフェイ家のみならず国家間の政略である。公爵殿は東の隣国と対立するおつもりか。

 しかも本人たちは相思相愛だ。

 公爵ともあろう者が、すでに成立した他家の婚約に割り込むばかりか、想い合う二人を引き裂くような真似は慎まれよ】


「ベルナール様と穢らわしいヒトゥーヴァの娘が相思相愛ですって!嘘よ!無理矢理婚約させられたに決まっているわ!」


 アレクサンドラの発言に、使者たちが顔を強張らせた。


「ご令嬢。発言を撤回なさい。ヒトゥーヴァとは、かの一族に対する我が国での蔑称」


「左様。また、フェイ家はかの一族の長にして、文武共に優れた名家です」


「はあ⁈それがなんだって言うのよ!」


「はあ……隣国のことだというのに、ご存知ないのですね。我が国の公爵令嬢、しかもオプスキュリテ辺境伯家に嫁ぐおつもりにしては不勉強ですね。

 おまけに失礼だ」


「なっ!?なんですって!?」


「東の隣国の貴族家に対し、あまりに失礼だと申し上げたのです」


「フェイ・ホンファン様ご自身に対しても失礼です。かの方は、若年でありながらすでに魔獣討伐に邁進されている。身分も為人(ひととなり)も素晴らしいご令嬢です」


「また、我らが若君への侮辱でもあります。あのお方はフェイ・ホンファン様を見初めて求婚されたのですから」


「だから!ヒトゥーヴァの娘を見初めるわけ無いじゃない!何度も同じことを言わせないで!」


「はあ……せめてヒトゥーヴァではなく、彼の国での正式名称でお呼びなさいませ。ご存知ないならお教えします。フェイトゥ……」


「お黙り!この無礼者どもが!護衛騎士!この者たちを黙らせなさい!」


「そうだ!この野蛮人どもを!殺さない程度に痛めつけろ!」


 室内にいた護衛騎士十名が一斉に襲いかかる。

 しかし、使者たちは彼らを瞬く間に倒してしまった。

 しかも全員が魔法も剣も使わず体術のみ。座っていた者は座ったまま、立っていた者はそこから動かず叩きのめしたのである。


「これが公爵家の交渉術ですか。やれやれ。野蛮はどちらだか……」


「我らが主君が一人、オプスキュリテ辺境伯夫人の親戚とは思えませんな」


「お話は済みました。我々はお暇しましょう」


 淡々と帰り支度を始める使者たちに、公爵が顔を真っ赤にして叫ぶ。


「ぶ、無礼者が!こ、こんなことをして良いと思っているのか!」


「場合によっては戦闘してもよい。主君からそう言われています」


「そもそも、そちらから手を出したというのに。当然ですが映像魔法で記録していますので、訴えても貴方がたが恥をかくだけですよ」


「なんだと貴様……ひっ!」


「きゃっ!」


 使者たちから発せられた異様な気配……後で殺気あるいは覇気と呼ばれる物だと知る……を、ぶつけられたアレクサンドラと公爵は固まった。


「我々は怒っているのですよ。

 不躾な要求をする公爵家にも、誰のおかげで東方が平和か忘れている中央貴族にもね」


「ともかく、我々は主君と若君の意思をお伝えいたしました」


「では失礼いたします。

 ……ああ、ご令嬢」


「ひっ!な、なによ!」


「繰り返しになりますが、言動にはお気をつけ下さい。我儘も過ぎれば身を滅ぼしますよ?」


 使者らは言うだけ言って、さっさと退出した。

 彼らの気配が完全に消えてから、アレクサンドラと公爵は怒りを爆発させた。

 護衛騎士を怒鳴り、蹴り、怒りのまま吠えるる。


「この役立たずどもが!蛮族相手に無様をさらしおって!」


「私が辺境伯夫人になったら!あいつら全員首を()ねてやる!」


 ギャアギャアと騒ぎながら、アレクサンドラは次の手を考えた。

 ベルナールを諦めるなど考えられない。自分の欲しいものが手に入らないなど、あってはならないのだから。


「そうだわ!いいことを考えた!」


 ニヤリと笑い、父である公爵に話しかけるのだった。

 父もすぐに同意して動いたが……。




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