↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】ヒトゥーヴァの娘〜斬首からはじまる因果応報譚〜  作者: 花房いちご
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/26

二人の出会い 中編

「王国の狗め。我が祖先の敵め。お前など姫様に相応しくない。さっさと帰れ」


 美花(メイファ)の護衛が憎悪を滲ませて言った言葉に、ベルナールの護衛三人が殺気立ち武器に手をかけた。

 ベルナールも衝撃を受けたが、護衛たちを手振りで止める。


(ここで怒りを露わにしては、飛頭蛮(フェイトゥマン)との友好にヒビが入る!)


 代わりに激怒したのは美花(メイファ)だ。


「お黙り!オプスキュリテ辺境伯家は我が(フェイ)家の盟友!無礼は許さない!」


「なっ!?ひ、姫様?私は姫様のために申し上げたのです!姫様とて、このような男は嫌って……」


「お前如きが私の何を知っていると言うの!お前たち!この無礼者を取り押さえなさい!」


 美花の言葉と共に護衛たちが男を捕らえ、見合いは終わった。


 ベルナールは、最初に通された部屋に戻った。

 美花は怒りと動揺のあまり気が遠くなったそうで、この場にはいない。従者が気の毒なほど何度も謝罪するが、あの場ではっきりと男を叱責してくれたことに感謝した。


「美花殿にお大事にと、そしてどうか気に病まないで欲しいとお伝えしてくれ」


 ベルナールは、護衛と共にへレーネの迎えを待つ事になった。護衛たちは部屋の外に立ち、警戒する。


「若君、お静かにお待ちください。決して、この部屋から出ないように」


「念の為、何も口にしないようにして下さい」


「わかっている」


 飛家の家臣が無礼を働いたのだ。取り調べが終わるまでは、茶菓を口にしない方がいいだろう。

 ベルナールは椅子に座り、ぐったりと机に突っ伏した。


「疲れたな」


 先程の出来事はやはり衝撃だったし傷ついた。


(確かに、かつて俺たちと飛頭蛮は対立していた。何代も前の過去の話だと思っていたが、まだ恨んでいる者もいるのか。

 叔母上はこれを心配していたんだな)


 静かに時が流れる。黙って座っている間に、心も落ち着いてきた。


(……暇だ)


 大人しくしているべきだと分かっている。

 しかし、暇だった。

 視線を動かす。壁の一方に窓がある。丸く壁をくり抜き、木と硝子でできた飾り窓をはめてある。

 触ってみると、内側から開けることが出来た。

 昼過ぎの陽光を浴びて、庭園はキラキラと輝いている。


(この窓から出れそうだ。暇すぎるし、少しだけ庭園を歩くくらいはいいんじゃないかな?竹の森を近くで見てみたい)


 この時、護衛に声をかけるべきだった。

 そうすれば止められて、こんなことにはならなかった。後悔したがもう遅い。




 ◆◆◆◆◆◆




「ウオオオオーン!ウオオン!ガウ!」


 虎に似た中型魔獣は、ベルナールがいるクヌギの木に何度も体当たりしたり、爪で切りつけている。

 どうやら魔法で体を硬化させているらしく、がっしりしたクヌギの木はおろか、周りの竹も大きく揺れている。


 ーーーザワザワ!バキッ!バァン!ーーー


 激しい葉ずれの音、竹が割れて跳ね上がる音がひっきりなしに響く。


「うわああ!た、助けて!」


 ベルナールはクヌギの木にしがみつき、死の恐怖に怯えている。怖くて歯の根が合わない。

 ベルナールは魔獣に襲われた瞬間、咄嗟に魔法で攻撃した。左前脚を大きく損なったが、致命傷には程遠い。しかも傷は、どんどん治っていっている。

 力の差が歴然過ぎて、ベルナールの頭の中は己の死の予感と混乱でいっぱいだ。


(ここは邸宅の敷地内だろ?!なんで魔獣が居るんだ!それに王国語と東の隣国語両方で叫んでるのに誰も来ない!)


 その頃、護衛たちは異常事態に気付いて竹林に向かっていたが、間に合わない距離だった。

 ベルナールは助からない。そのはずだった。だが……。


「い、嫌だ。し、死にたくない……!助けて!誰か助けてくれ!」


「じゃあ、もうちょっと頑張って!」


「へ?」


 可憐な声がした。ベルナールのすぐ近くだ。


「東の隣国語……うわ!」


 視線を向けると、黒髪赤目の少女の頭部が浮いていた。黒髪は結いあげられていて、綺麗な簪が刺してある。


「き、君、誰?飛頭蛮の子?」


(でも、飛頭蛮って夜しか頭を外せないんじゃなかったっけ?叔母上がそう言ってた)


 疑問に思うベルナールだったが「それは後!話を聞いて!」と、叫ばれて口を閉じた。


「私があの虎(もど)きを引きつけるから、その隙に木から降りて逃げて。急いでね!」


「え?で、でも君が危ない……」


「私は大丈夫だから!早く!」


 それから少女の頭部は大活躍した。

 ビューン!と、風を鳴らして飛んでいく。


「ほら!こっちに来い!間抜けな虎め!動きが遅いよ!」


「グルルッ!ガウッ!」


 魔獣を挑発し、翻弄し、とうとう引きつけるのに成功した。

 そして少女の頭部は、ヒュウン!と、竹林を縫って遠くへ飛ぶ。魔獣はそれを追っていく。

 ベルナールはこの隙にと木から降り、走った。薄暗い竹林から光さす方へ。


「若君!ベルナール様!どこですか!?」


「ここだ!ここにいる!」


 無事、護衛の一人と合流する。安心して気が遠くなりそうだったが、踏ん張った。


(助かった!だけど、あのままではあの子が危ない!)


「少女が魔獣を引きつけて助けてくれた!まだ襲われているかもしれない!お前が倒せ!来い!」


「ええ?!ちょっ?!若君ー!?待ってくださいいいいい!」


 ベルナールは、折れた竹や枝葉で傷だらけになりながら走った。


「音がする!こっちだ!……なっ!?」


 そこでベルナールは信じられない光景を見た。


 ーーーゴオオオオオ!ーーー


「ギャオオ!ガオ!」


 少女の頭部が口から、少女のものらしき胴体が手から炎を出し、魔獣を攻撃している。


(どういうことだ?飛頭蛮は首が離れている間、胴体は動かせないはず。それに口から火炎を吐く魔法なんてあるのか?……いや、そんな場合じゃない!)


 魔獣は苦しんではいるが、堅牢な毛皮は炎を弾いている。

 少女の頭部も胴体も疲労からか動きが悪い。


 このままでは少女は死んでしまう。


(でも俺も攻撃すれば!)


 覚悟を決めた時、少女がベルナールに気づいた。頭部が炎を止めて驚く。


「っ!?ちょっと!逃げてなかったの!?」


「君!そのまま攻撃を続けて!……風の精霊よ我に力を!」


 風魔法で竜巻を放つ。少女の炎を纏い、増幅し、魔獣を巻き上げ焼いていった。


「グギアアアアアアア!」


 断末魔の悲鳴が竹林に響く。しかし魔獣は死なない。必死にもがき、炎の竜巻から逃れていく。


「くそ!もう一度、魔法を!」


「だ、駄目、私もう……」


 少女の頭部と胴体は力無く地面に落ちてしまった。


「魔力切れか!……そのままじっとしててくれ!」


 ベルナールは跳躍し、少女の胴体と頭部を抱きしめる。


「ガルルルッ!」


 魔獣は炎の竜巻から逃れ二人を襲おうとし……。


「若君!お下がりください!」


「ギャオオン!」


 声と共に魔獣が両断された。追いついた護衛が剣で切り裂き、絶命させたのだ。

 自分も少女も無事だ。


「よ、よかった……」


 ベルナールは、今度こそ意識を失った。




閲覧ありがとうございます。よろしければ、ブクマ、評価、いいね、感想、レビューなどお願いいたします。皆様の反応が励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。