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買い物、村の道具屋

 僕が思っていたより、フロア村の道具屋ベンリは大きかった。

 食品以外の村の特産物、例えばホウキやら、垢すりに使うヘチマとか、鉄鋼業が盛んなので農機具なんかも一通りそろっている。

 木製のベッドもいくつかあるので、用は足りるだろう。


 まるで博物館みたいに色んなものがところ狭しと置かれている。フロア村特産のラベンダーを使った、フローラル石鹸の良い匂いがした。

 店の奥から男性が歩いてくる。鍛冶仕事でもしていたのだろうか、防熱のエプロンにしっかりしたブーツを履いた年のころ三十半ばから四十くらいの中年の男性だ。若い時分にはイケメンで通ってきたんじゃないかと思う。


「いらっしゃいませ、おや姫じゃないですか。そちらは親戚(しんせき)の貴族のお坊ちゃんですか?」

「いえ、わたくしのご主人様です」

「ユウキ・グリフィン・ブレイビーと言います。どうぞよろしく」

「はは、勇者様にあやかって名前を頂いたんですか、通称じゃなく本名で?」


「え、ええ、本名です」

 僕はちょっと戸惑ってしまった。

「は~、貴族の坊ちゃんが勇者様の名前をね~。勇者様は孤児院出身ですから、貴族じゃないのに、御家の名前を名乗らないから次男坊か三男坊ですか?」


「はは、そんなところです」

 僕があいまいにごまかしたのを見て、アイリさんも特に突っ込みは入れなかった。


「俺はベンリ・クラフター、この道具屋ベンリの亭主です。坊ちゃんよろしくお願いしやす」

 恰幅のいい中年の男がペコリと頭を下げる。僕もおじぎして返す。


「それで、姫たち今日はどんなご用件で?」

「お屋敷の石窯と使用人室のベッドの修理と、後は台所用品をいくつか見たいのですが」

「そんなら、お安い御用だ。修理も今日は手が空いてるんで、これからちゃちゃっと行って直しちまいますわ」


 僕達は台所用品が置いてある一角に行く、包丁や鍋、フライパンなんかの新品がたくさん並んでいた。

「これは……良い鋼だ」

 その包丁は一目で良いものだと解った。程よい厚さ、長さに切れ味の良さそうな刃には、波打つ文様がある。


「よくお解りで、坊ちゃん。包丁も色々と置いてありますが、とりあえずは三徳包丁がお勧めですよ。肉や野菜もこれでスパッと切れるんですよ」

「良いかもしれませんわね。お屋敷にある包丁も研ぎ直せばまだ使えますが、三徳包丁が一本あれば助かりますわ」


 アイリさんが三徳包丁を手に取って、しげしげと眺めている。目元をみると睫毛が凄く長くて、惚れ惚れするほど美しい顔だちをしている。

「じゃあ、これは買うとして……あとは」


「フライパンが欲しいですわね」

「へい、何の料理にお使いで?」

「とりあえず、卵料理やパンケーキ用にひとつ欲しいです」


 ベンリおじさんはしばし並べられているフライパンを眺め、そこからひとつ取った。

「卵料理には浅めの銅フライパンがお勧めです。熱がむらなく伝わるんで、プロの料理人も使ってる人が多いんで」


 アイリさんが今度はフライパンを持って、よくチェックをした。

「良い造りですわね」

「おほめに預かり光栄です。姫さま」

 ベンリおじさんはアイリさんにペコペコと頭を下げた。


 貴族だからというだけじゃなく、アイリさんを慕っているのが感じられる。

「二人は古くからの知りあいなんですか?」

「そりゃあもう」


「昔、傭兵くずれの山賊がフロアの村を襲ったんです。その時、村にいらっしゃっていたブラック家の御当主さま、つまり姫さまのお父様と姫ご本人の二人だけで、百人以上の山賊を撃退したんです。そりゃあもう、忘れられない出来事でしたわ」


「そ……それは凄い」

 やっぱり相当強い人だった。逆らわないでおこう、と僕は決めた。

「姫さまは当時まだ十くらいで、それでも凄い魔法をお使いになって、山賊をバッタバッタとなぎ倒してたんでさあ」


「は……恥ずかしいです。ベンリさん……そのくらいで」

「あ、こりゃあ失礼しました。まあとりあえず姫さまは恐ろしくお強い魔術師なんで、頼りになるんですよ」

 アイリさんはまた恥ずかしそうにした。


 その後も僕たちは、必要なアイテムを見つくろって、ベンリさんの馬車に乗せた。使い捨ての魔法鍵の解除符を渡したんで、帰る頃には修理も終わっているだろう。


 普通の人には鍵を渡すなんてできないが、ベンリさんは相当信頼されているらしく、アイリさんは特に迷わず鍵を渡していた。


「ちょっとお腹が空きましたね。何か食べて行きましょうか?」

 と僕が言う。

「それでは東方料理で一番人気と言われる、ラーメンを食べましょう」

 ビシッと決めながらアイリさんが言った。

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この小説のエッチなお話しを同人誌でやっております。
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