朝食
目を開けた時、高く昇った日の光が目に飛び込んできて、僕はまなこを細めた。
あ……もう昼か。
「ご、ごめんなさい! 寝過ごしました」
アイリさんは庭に出て辺りを眩く照らす初夏の日差しに洗濯した替えのシーツを干しているところだった。
「何を仰られますかユウキ様、もう貴方は自由の身、寝たいときに好きなだけお眠りになってくださって構わないのですよ」
「そ……そうか、な?」
「ええそうです。おはようございますユウキ様」
「おはよう、アイリさん」
そっか……僕は自由になったんだ。
「いよしっ!」
僕はガッツポーズを決める。それをアイリさんが微笑んで見ていた。
それにしてもよく寝たな……こんなに深く眠ったのはいつ以来だろう?
理由はなんとなくわかっている。アイリさんという優秀な護衛がいたからだ。
アイリさんがもつ絶対守って見せますオーラと言おうか、誠実な人柄は一目で解ったし、この人はかなり強い、下手すればデッカードより強いかもしれない。
ルシアと戦ったらどっちが勝つかな?
アイリーン・ド・ブラック、ブラック家は暗黒魔法使いの家だ。爵位こそそれほど高くなかったと思ったけど、戦闘能力では火炎魔法使いフレイム家の血筋より強いと聞いたことがある。
暗黒魔法が魔物やアンデットに利きが悪いという弱点がなければ、多分勇者パーティにこの人も在籍していただろう。対人殺傷能力では最強の誉れ高き暗黒魔法だが、魔法の世界では差別されている感じがする。
でも、そう、この人は最強の護衛のお姉さんなのだ。
ふと安心すると、くぅぅ~とお腹が鳴った。
「くす、今お食事を用意いたしますわ」
アイリさんが目を細める。少し笑っているように見えて、日差しが眩しいだけじゃなさそうだった。
「石窯が壊れておりまして、パンの焼き直しができませんでした」
僕の前にちょっと硬そうなライ麦パンが置かれる。
「湯は沸かせましたので、これは、コーヒーです」
湯気を立てる良い匂いのコーヒーを僕は一口飲む。
うん、良い豆だ。香ばしい良い匂いと苦みのバランスが良い、微かに酸味を感じるのがこの豆の特性かな。
南方の島国で栽培されているコーヒーは貴族の飲み物だ。こんな辺境では手に入れるのも容易じゃなかったはずだ。
「美味しいコーヒーです」
「お砂糖とミルクはいかがですか?」
「うん、貰おうかな」
アイリさんは手早く僕の前に角砂糖と生クリームを置いた。
僕は角砂糖をふたつ摘んで放り込み、生クリームも多めに注いだ。
コーヒーをかき混ぜるとクリームが渦を巻く、真っ黒だったコーヒーが白っぽくなる。
一口あおると口の中いっぱいに幸せな味が広がった。コーヒーの苦みって甘さとクリームの味が加わるだけでなんて複雑で魅力的な味になるんだろう。
「うん、砂糖とミルクで凄く美味しくなりました」
「良かったですわ、この生クリーム出来立てを届けてもらったんです」
「うん、どおりで美味しいわけだ」
「ありがとうございます。こちらがメインディッシュです。ボイルした鳥のささ身とトマトの東方風冷菜でございます」
「わあ、また美味しそうな東方料理」
色が綺麗で、健康な鳥を使ったんだろう、ささ身肉にトマトの赤が映える。
少し黒みがかったドレッシングみたいなのがかかっている。うん、この香りたぶん黒酢とごま油だろう。塩かソイソースかなんかで味をつけてあるようだ。
僕は大きく口を開けて、まずはささ身を食べてみる。
「うん、全然パサついてない、しっとりとしてジューシーだ」
茹で加減が絶妙すぎる。アイリさんの料理スキル、これはただ者じゃないな。
「東方料理には医食同源という思想がありまして、料理で病に立ち向かい、健康を促進しようという思想が料理の技法に凝縮されております」
「そうなんだ……じゃあ、この料理は?」
「はい、疲労回復の効用が期待できます」
「うん……確かに疲れがとれるような感じだ」
「おかわりもありますのでどんどん召し上がって下さいね」
「はい、これならいくらでも入りそうだ」
次に僕はトマトを食べてみる。うん、さすがに旬の野菜、酸っぱいかと思ったら凄く甘い、フルーツみたいだ。
僕はこの時、自分が信じられないくらいの空腹だと気が付いた。
そう、魔王との死闘の疲労がまだ残っていたのだ。その疲労がこの東方料理で回復してるのが解かる。
美味しい料理にふかふかのベッド、物凄く美人なメイドさんがいる。
これが僕のスローライフの始まりだった。
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