祟り
「ゆ、勇者さま……た、大変なことが」
僕達が村に到着した時、そこはパニック状態だった。
「クリカラさまの墓所の入口が破られて、中に冒険者たちが入って行ったそうなんですが」
村に黒い霧のようなものがたちこめている。
「これは……暗黒魔法の瘴気ですか?」
「ええ、ユウキさま。ドラゴンの暗黒魔法とみて間違えないようです」
アイリさんが渋面をつくり頷く。
「墓所を確認したところ、入り口の石戸が破壊されていました。瘴気は間違えなく墓所からでているそうです」
「ああ……勇者さま、お助けを」
見れば宴会の時に聖剣ブレイブを見て喜んでいた男の子の母親だ。
「どうしたのですか?」
僕の顔には厳しい表情が貼りついていると思う。とてもにこやかに聞ける感じじゃなかった。
「息子が……瘴気を吸って倒れたんです」
「あの子が……」
今あの領主が目の前にいたら、僕がキンタマを蹴り上げてやりたい気分だった。
「子供や……弱った老人から倒れていっているそうです」
「なんてこと……」
ルシアが呆然と呟いた。
「とりあえずは動ける村人が、倒れた人を瘴気の薄いところへ運んでください」
アイリさんが珍しく大きな声を上げて言った。
「は、はい、それはもちろん。しかしどこへ運べばいいのやら」
村長が慌てている。
「わたくし達が薬草を取った山がいいでしょう東の桜山です。自然の木々は瘴気を浄化する作用もありますし、あそこは最近本国の騎士団が魔物の掃討をおこなったはずです」
うん、それが良い。さすがアイリさんだ。
「ベルか何かで音を鳴らして集団で入れば獣と出くわすこともまずないはずだしね」
「わ、わかりました。すぐそうします……して勇者さまは?」
僕は墓所の中に行きます。と、言おうとしたところで。
「ダメよ」
「ダメですわ」
「まだ何も言ってないよ」
「竜と戦うのは危険すぎます」
「でも、瘴気は何とかしなきゃ」
こうも真向から反対されると思わず、僕は慌てた。
「本国の騎士団のギレンさんを呼んで、彼らに任せるの」
「でも、それだと騎士団の被害が大きい場合、瘴気に汚染されたエリアを破棄することにならないかい?」
「まあ、多分そうなるわね」
とルシアは平然とそう言った。
「そんな……村を見捨てろっていうのか?」
「もしかしたらギレン閣下が討伐の命を出すかもしれません、それに賭けます。ユウキさまは戦ってはいけません」
「なんでだっ⁉ 僕は勇者だ! ドラゴンゾンビくらい倒せるよ」
「無理ね」
ルシアがひと言で切って捨てる。
「今のあなたが聖剣ブレイブを起動できるの?」
「で、出来るんじゃ……ないのか」
確かにブレイブは昨日あたりからうんともすんとも言わなくなった。
「もう、ユウキは勇者じゃないの、あたしにもはっきりわかるくらい」
「そ……そうか」
たぶんブレイブはやっぱり起動しなくなっているのだろう。それは僕が一番よくわかっていた。
「でも、僕は行くよ」
「ユウキさま、駄目です」
アイリさんが僕の手を取り、まっすぐ目を見つめながら止めた。
「僕は好きなんだ……このフロア村が……聖竜だってこんなことはしたくないだろう。ただ眠りを覚まされた怒りで暴れているに過ぎない。たとえわずかでもクリカラを止めることのできる可能性があるなら……僕は行く」
そう言って僕はアイリさんの手を払った。
「ユウキさま……解りました。ユウキさまがそうおっしゃるなら、わたくしも行きます」
「あ~あ、やっぱりそう言うか、ならゾンビ相手なんだからあたしの浄化魔法は必要よね」
「うん……ごめん、巻き込んじゃって」
一人で行くなんて恰好をつけられる状況じゃない。二人の助太刀があればクリカラを止められる可能性はぐっと上がる。
「わたくしの魔法はゾンビには効きが悪いですが、同属性なので防御は比較的効きます。わたくしがお二人を守っている間に、何とか聖竜様を止めてください」
「まかせて、まあ竜のゾンビじゃターンアンデットでポンとはいかないだろうけど、何とかしてみようかしらね」
「二人とも……ありがとう」
僕はちょっと泣きそうになった。
「泣くのは聖竜を止めてからにしなさい」
「どいた、どいたぁ!」
その時威勢のいい声が聞こえて、ガラガラと大きな音が鳴った。
「なんだあれ? 馬車? でも馬がいない」
「勇者の坊ちゃんたちに、大聖女に姫さま、やっぱり聖竜を止めに行くんで?」
見ればベンリさんが奇妙な乗り物を動かしていた。
「なにこれ? 油を焼いた臭い?」
そういえば独特の臭気がする。臭いけどそれほど気にはならない臭いだ。
「陛下に頼まれて開発中の新型動力の車でさあ、大聖女様の仰るとおり、特殊な油を焼いて動力にしてますわ」
「これ、何人くらい乗れるの?」
恐らく鋼鉄で作られた頑丈そうな動力部が本体で煙突から薄く煙を上げている。その後ろにかなりデカい木製の車を牽引していた。
「二十はいけます……頑張れば三十くらいは」
「おっさんもたまにはやるじゃない。急いでこの車に子供や老人を乗せて」
「は、はい」
村長の指示で次々と瘴気にやられた人たちが乗せられていく、この人数だとかなりの重さがあるはずなのに、車はかなりのスピードで走り次々と村人を乗せていった。
「村の方は……これで何とかなりそうです」
「今はまだ大丈夫な人でも瘴気を吸い続ければ動けなくなるわ。村長さんも急いで退避を」
「なにとぞ……なにとぞご無事でお帰りになってください」
村長さんは涙を流しながらそう言った。
「そんじゃ……あたしたちはいっちょドラゴンクエストと行きますかね」
「ああ……村を守るんだ」
僕達は瘴気の濃い方へ走り出した。




