墓所
臭いな……とごろつきをまとめるリーダー格の冒険者思った。腐った死体の臭いだ。
墓所の入口は簡単に開いた。そもそも暴かれるなんてことをまるで想定していない造りだった。石戸は少量の爆発物で簡単に崩壊した。
金に目のくらんだごろつきの集団が我先にと墓所に入って行った。まず出迎えたのがこの臭いだった。
「入口はちゃっちいが中は見事なものだな」
男が感心する。ごろつきどものリーダーである男は、金属の胸当てに革の防具を着込んでいて、まだ若い二十代の後半くらいだ。無精ひげを生やし短いぼさぼさの頭をしている。
「ああ……金の臭いがする」
そう言った男は領主の使用人だ。この集団の中では明らかに身分の違う綺麗な藍染の衣服を着ていて、髪が整えられたセミロングだ。年のころは五十と言ったところ。この集団の中では明らかに浮いている。
「金か……俺には腐肉の臭いにしか思えねえ」
石造りの通路が奥まで続いている。どこの山にこんな良い石材があるのかと思うほど綺麗な石畳の通路だ。
「おいっ! 勝手な動きをしないよう、見張っとけ」
使用人の男がどなった。声を掛けられたリーダーの男は使用人の態度にも気にした様子はまるでない。使用人は金さえ払っていれば冒険者たちは決して裏切らないと解っている。そうでなければこんな危険そうなごろつきどもに命令なんて出来ない。
ここにいるごろつきどもは、金と女と酒にしか興味がない。金目のものがあればネコババくらいはするだろう。
本当だったら領主の権限で村人を動員したかったようだが、フロア村の村長は今回の発掘調査に断固反対したらしい。
「皆、お宝探しに目をギラギラさせてやがるな。信仰心とか欠片もねえのか」
リーダーの冒険者がそう言うと、領主の手下が笑って答えた。
「お前だっていきなり爆薬で入口壊して、土足で上がりこんでるじゃねえか」
「そりゃ……竜なんて見たこともねえが、所詮モンスターだろ? 違うな動物か、でその死体が村を守ってくれるのか?」
「バカな村人どもは本気で竜の墓所を暴けば祟りが起きるって信じてやがる。でも今日で歴史は変わるぜ、この調査が終われば残りの五竜の墓だって暴かれる」
男たちは巨大な生き物に飲み込まれるように、墓所の奥に来た。ここにはもう地上の光は一切届かない。
「なんか……寒いな……地下はこんなもんか?」
腐臭も強くなってきた。さすがにかなり嫌な予感がしてきた。
「おいっ! お宝だぞ」
先頭を歩いていたごろつきの一人がそう言った。
見れば黄金ミスリル製の武具が落ちている。武具はそこにただ落ちているのではなく、ミイラが着ていた。竜の墓所の番兵だ。
「触るなよっ! よし……どれどれ」
使用人がごろつきどもを掻き分けて前に来た。武具を見て顔色を変える。
「ほ……本当にお宝じゃねえか」
わっとその場の全員が沸き立つ。
「ただの番兵が黄金ミスリルの鎧とは、こりゃ竜の寝床はもっとすげえぞ」
リーダーの男が舌なめずりをする。腐臭はいよいよ不快になってきたが、それよりも興奮が上回った。
「何人かこのミイラの武具を外まで運べ、残りは奥へ進むぞ」
今まで最後尾でトラップに怯えていた使用人ががぜんやる気を出して先頭を歩いた。
「こりゃかなりの大金になりそうだぜ、本当に俺たちが三割もらっていいんだな」
「領主さまにきけ、それより本当に竜は大丈夫なんだろうな?」
使用人がリーダーに心配そうに訊ねる。
「竜がまだ生きていたとしても、ゾンビ化していて全盛期の半分以下のモンスターランクはAくらいじゃねえかってのが、金貸し魔法使いの見解だ。Aランクなら俺たちで狩れる」
「よし、信じたぞ……それじゃあ進むか」
しばらく進むと大きな扉が見えた。扉には宝石で描かれたクリカラの絵が輝いている。
「こ、こりゃあすげえ……でも、これは爆破するわけにはいかないな。この扉自体がかなりの金になりそうだ」
「開きそうか?」
ごろつきの中のシーフスキル持ちが扉を調べる。
「いけるぜ、親方、凝った鍵だが三百年前のシロモノだ。現代の俺のシーフスキルなら難なく開けられるぜ」
「よし、開けろ」
「がってん承知だぜ」
シーフの男が何本ものピックを鍵穴に差し込んでいった。しばらくいじっているとガチリと音が鳴った。
「へへ、開いたぜ」
ドアの奥から猛烈な臭気ともに瘴気があふれ出てきた。
見ると巨大な腐った死体に見える竜が、首を持ち上げている。眼がランタンの光を反射し赤く光った。
「やっこさん、やっぱりゾンビになってるな」
「ひ、ひぃ」
使用人の男が転がるようにごろつきをかき分け、ゾンビから逃げた。ごろつきたちはそれぞれの得物を掲げる。
最前列の数人が一斉にドラゴンゾンビへ襲いかかる。
次の瞬間だった。ドラゴンゾンビが前足を横に振った。次の瞬間前衛三人の首が飛ぶ。
「な‼ バカなっ‼ 防具にかかってた魔法はどうなってやがる‼」
「ま、魔法は切れてねえです」
「ち、力技でA級冒険者を瞬殺だと?」
リーダーはすぐに撤退を決断したが。もう遅かった。
ドラゴンゾンビが毒のブレスを吐いた。
「ぎ、ぎぇぇぇ」
一息吸い込んだだけで、ごろつきたちは息絶えた。
「い、いかん、すぐに報告しなくてはっ!」
何とかブレスの効果範囲から逃げた使用人が、来た道を全力引き返す。
しばらく進むと、番兵の武具を運ぼうとしていた男たちが倒れている。
「な、! お前たちどうした?」
男たちはすでにこと切れていた。
ガシャン……と音がする。武具の擦れる音だ。
一つしかなくなっていたランタンの光で辺りを窺う。
血まみれの黄金ミスリルの剣を提げた番兵のゾンビがいた。
「ひ、ひぃぃぃ、……ぎゃー‼」
番兵の剣で使用人の頭はトマトのように割れた。




