領主
「このルシアさまを十分と待たせるとは、いい度胸してるじゃない」
「い、いま領主さまはお忙しく」
冷や汗をダラダラ流しながら門番は慌てていた。
時を五分ほど遡る。
僕達は一時間とかからず領主のお城に到着した。
門番をしていた男が最初は横柄な態度で応じて、僕達を追い返そうとした。
案の定ルシアがキレて、男はルシアのパンチで瀕死の重傷を負ったあと、回復魔法で蘇生させられた。これがあるからルシアは怖いんだ。
「ま、まさか本当に大聖女さまとは……」
「あんたのボス程度の貴族、あたしが本気になれば、すぐにでもクビにできるのよ」
「ひ、姫さま……」
男はアイリさんに泣きつこうとするが、当然そんな話には応じない。アイリさんはツンとそっぽを向いている。
「あと五分以内に案内なさい、さもないとユウキの攻城剣技でこのご立派な門を破壊して、中に突入するわよ」
「は、はぃぃい……解りました。こちらへ」
心底ビビったらしい使用人は、主の答えを待つ前に僕達を案内してくれた。
城門をくぐって、成金みたいな趣味の悪い無駄にゴージャスな内装の建物の廊下を歩いて行くと、執務室と思われる奥の部屋から怒号が聞こえた。
「追い返せと言っただろう‼」
ルシアは黙ってツカツカと歩いて、執務室のドアを開けようとする。鍵かかかっているようだった。
一瞬の逡巡後、ルシアはドアノブを思いっきり捻り、内開きのドアを思いっきり押した。
バキンッ‼ メキメキッ‼ と音を立ててドアが吹き飛ぶ。これ結構頑丈そうだったけど、やっぱり凄い怪力だ。
「ルシア!」
僕は彼女を呼び止める。
「あによ?」
ルシアはかなりお怒りの様子だった。
「相手は一応……貴族だからな。拷問はなしだぞ」
「わ~ってるわよ」
ルシアは首を左右に横倒しにする。ぽきぽきと関節が鳴った。本当に解っているのだろうか、僕は凄く不安になった。
「こ、……これは大聖女さま」
先の優秀だったという父親の領主がすでに亡くなったと聞いていたから、僕は現領主を結構年配なのかと思っていた。見ればまだまだ若そうだ三十代後半か四十くらいに見える。
僕も他人のことは言えないけど、脂ぎっていて精力は強そうだ。貴人が好んで選ぶという紫を主体とした、高そうなスーツに身を包んでいるが、どうにも趣味が悪い。これ見よがしに勲章をいくつも付けていたが、どれも大したことないものだった。まあ僕がいやいや身につけている勇者の勲章はクリスタニアでは最高のものだからか。ちなみに僕とルシアとアイリさんも貴族を相手するので正装でちゃんと太陽をモチーフにした勇者の勲章と、ルシアは白百合の大聖女の勲章を着けている。
「言わなくてもあたしが何を言いたいか解るわよね?」
ルシアが領主に詰め寄る。
「だ、大聖女さま、落ち着いてください。今回の調査は学術的なもので……ぎゃっ‼」
ルシアが無言で領主のキンタマを蹴った。やっぱりわかってないぞ。
「ルシア!」
「だいじょ~ぶ、ちゃんと手加減はしたから」
悶絶しうずくまる領主の頭をヒールの高いブーツで踏んでルシアは言った。
「竜の墓所を暴くことの意味を、あんたは解ってるの? 言っとくけど竜は肉体が朽ちているだけで、魂はまだ生きてるのよ。もうだいぶボケちゃってるだろうけど」
「ひ、ひえ、私たちのお抱え魔術師は、肉体が朽ちて三百年も魂が生きてるはずはないって」
「その魔術師は?」
「領主さまに融資をなさっていた方で……勇者さま達がいらっしゃると姿を消して」
領主のお付きのものがそう答えた。
「金貸しのヤクザもんね?」
「はぁ……そう言われると……はい……その通りです」
ルシアが領主を踏みつけている脚に体重をかける。
「ひ、大聖女さま! お許しください」
「すぐにその墓荒らしを止めさせなさい」
「はいぃぃっ! わ、解りましたが……」
「何? なんか文句があるわけ?」
「発掘隊は……その……すでに墓所の入口を破壊して……」
ひゅうとアイリさんとルシアが息を呑む。僕も正直驚いた。




