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魔王を討伐したので年上メイドと辺境でスローライフします!  作者:


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村長のお願い

 僕達は朝食を食べると、そのまま雑談を始めた。アイリさんが月餅にあうウーロン茶を淹れてくれて、その良い香りを楽しみながら、密度の高い餡子(あんこ)の甘みを楽しんだ。


「もう聖杖クリスタニアの作成を始めるんだ」

「そう、非常時はいつ起こるかわからないからね」

 魔王との戦いの最期で、全ての魔力を振り絞り、砕け散った聖杖クリスタニア。数百年の時をかけて大聖女の魔力によって造られるそれは、あらゆる魔道具の中で最高の一品だ。


「魔力を込めるオーブはあたしの家に幾つかあるのよ。で杖の基盤部分はいまベンリのオッサンに作ってもらってるの」

「へ~、やっぱりベンリさんは凄いんだね」

「あれでスケベオヤジじゃなければね」

 またルシアが嫌な虫を見たみたいな顔をした。


「もしかしてアイリさんの貞操を狙ったりは……」

「ナイナイ、あのオヤジにそんな勇気はないわよ。(よわい)十ちょっとのアイリちゃんが山賊どもを血祭にあげるのを見て、心底ビビったらしいわよ」

「まあ……確かにわたくしはベンリさんの興味の対象外だったようですが」

 なんとも困ったような顔をしてアイリさんがぼやいた。


 その時、玄関のベルがけたたましく鳴った。何だろうとアイリさんが立ち上がって玄関に行くのについていった。ルシアも無言でついてくる。


「はぁ、はぁ、はぁ……ゆ、勇者さま」

 見れば息を切らし肩で呼吸する村長がいた。

「どうされました?」

 心配そうな表情をうかべアイリさんが訊ねた。

「い、一大事なんです。聞いてくだされ」


 村長は短く刈り込んだ髪型に少し白髪が混じってきているが、まだまだ壮年の男性だ。質素倹約を旨としているのか、白い綿衣服の上下に茶色い革のジャケットを羽織っている。高価な装飾品は一切身につけていない。しいて言えば左手の薬指に銀のマリッジリングをつけているが、それもそこまで高価な品には見えない。


「聖竜の墓所ですか」

 慌てて軽いパニックになっていた村長を、とりあえず落ち着かせ、リビングへ案内した。僕と村長が向かい合って座り、僕の隣にルシアが腰かけた。アイリさんはどうやら紅茶を淹れにダイニングへ行ったようだ。


「私も先祖から伝え聞いただけで、確かな話かはわからないのですが、三百年ほど前までは実際に聖竜クリカラさまは生きていて、家畜などと引き替えに雨を降らしてくださったり、不届きな野盗などを退治してくださったりと村を守ってくださっていたそうです」


 三百年程前はちょうど竜族がこの大陸から消えていった時代だ。竜族は力強く、たいへん賢く、そして長生きだった。聖都クリスタニアを見下ろすセントラルマウンテンの(いただき)には最強の竜王バハムトがいて、クリスタニアの王と盟約を結んでいた。


 竜たちは最初の竜《始まりの女王竜》の子供たちで、女王は六匹の子供を産むとすぐ地に返ったという。しかし残念なことに子供の竜たちには生殖能力がなかった。あるいは全てオスだったとも言われている。

 

 これは定かでない伝説なのだが、竜たちの父親は竜ではなく人間でその人物こそクリスタニアの建国の王であるとされている。もはや記録さえ定かではない大昔のことなので誰にも真実は解らない。確かなのは竜たちはクリスタニアの近隣に住み、時に恵みを、時に怒りから災厄をもたらしたと伝説が残るだけだ。


「そのクリカラさまの墓所を調査という名目で荒そうというのです。領主さまは」

「竜信仰はまだ根強いはずですよね? そんなことをしたら領民からの反発は避けられないでしょう、自分の首を絞めるだけなのに」

 竜は時に金銀財宝をため込んでいるとかいわれるが、実際に竜の墓を暴いて財宝を手にしたなどという話は聞かない。


「それがどうも、領主さまは博打(ばくち)と女遊びが好きで、たいそうな借金をこさえたとかで」

「何それ、最低のクズじゃない」

 ルシアが不快感を隠さずそう言った。


「その墓所の調査って、いつから始めるつもりなの? 一週間もあればあたしが陛下に掛け合ってそのクズ領主、首にできるけど」

「それがもう、今日にも始めるとかいう話で」

「ずいぶん急ね。借金で首が回らなくなって、なりふり構わないみたいね」

「何とか説得をしてもらえないでしょうか」

 わかったわとルシアは頷く。僕も首を縦に振り、アイリさんに目をやる。紅茶セットを持ったアイリさんも同様に頷いた。


「もうすでに馬車を用意しています。領主さまの館まではここからでは結構距離がありますから」

「村長さんはここで待機していてください」

「えっ⁉ し、しかし」

「下種領主に目をつけられても困りますし、最悪戦闘も考えられます。その時には正直足手まといですので」

「そ、そうですか、くれぐれも、くれぐれもお願いします」


 村長は何度も頭をさげた。僕達は顔を見合わせる。アイリさんは大事な故郷のことなので当然だが、ルシアと僕もフロア村を守りたい気持ちには変わりはない。

 馬車が慌ただしく走り出した。たずなを握る村人が早口に言った。

「多少揺れますが勘弁してくだせぇ、大至急と村長からうかがってますので」

「大丈夫よ。あたしたちが何としても止めるから」

 僕はこの時、とても嫌な予感がしていた。

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