魔王討伐の報酬
神聖クリスタニア王国、聖都クリストフ、王城の謁見室に僕達魔王討伐隊の面々が集められていた。僕達を囲むように陛下を中心に今回の魔王討伐に陰ながら尽力してくれた、貴族や官僚、大商人たちが僕達を囲んでいる。
盛大な拍手で迎えられた。
「この度の魔王討伐のクエスト、無事達成するとはさすがだな、勇者ユウキ殿に最大の感謝をここに送る。見事であった」
再度の拍手が巻き起こる。
「あれだけ強大であった魔王ルキフグスを、一人の死者も出さずに討伐したこと、歴史に残る偉業である」
「ありがとうございます。陛下、しかし死者を出さずに済んだのは、僕の力より大聖女ルシア様がいらっしゃったからです」
「うむ、ルシアもご苦労であった」
クスリと笑ってルシアも首を垂れる。
実際に魔王との戦いで死者が出なかったのは、奇跡でもなんでもなかった。
僕も腕を切り落とされたり、魔王の火炎で一度丸焦げになったこともあった。
デッカードも心臓にどデカい穴をあけられたりしていた。
そうやって致命傷を受けた人間が死ぬより早く、回復魔法で蘇生したのは大聖女ルシアの力だ。
彼女は通常の戦闘時、自身に回復魔法をかけながら、振るだけで筋肉がちぎれるような重いメイスをぶん回し、アンデット以上の不死身さを見せつけながら敵を殴殺する。
正直僕から見ても……その……怖い。
「オジサマ、此度のクエストは十歳の頃より、聖剣ブレイブに選ばれ十一年もの間勇者パーティのリーダーとしての責務を全うしたユウキが最大の功労者です。なにとぞ彼には十分な報酬をお与えください」
「うむ」
嬉しそうに王様は頷く。
ルシアは公爵令嬢なのだ。陛下は伯父に当たり、ルシアの父は第二の継承権を持つ陛下の弟だ。もっとも第一位は陛下のご長男だ。順当に行けばルシアの父が王になることはない。
「では、勇者ユウキに褒美を与えようと思う。何か望みがあるなら申してみよ」
「はい……僕は自由が欲しいです」
「ほう、自由とな、具体的には?」
「自然豊かな場所で、ゆっくりとした生活を送りたいです」
周囲の皆がざわざわと音を立てる。
「では、自然豊かで風光明媚と名高い、南の領地フロアベッドを与えよう。なに、現在の領主は地方にでも飛ばせばよい」
「あの……領地はいいです。自分に領地経営は難しいので」
「十分な数のブレーンを与えるので、心配は無用よ。勇者ユウキはただ領主の椅子でふんぞり返っていればいい」
「そ……そういうのもいいです……ただ、家が一軒、できれば庭に畑があるといいです」
そう、僕には領地なんて必要ない。
「ふむ、余は王位継承権第一位も、望めばくれてやるつもりであった。権力欲のない男とはルシアから聞いておったが、そうか……自由か」
「はい、僕は本当はのんびり生きたいだけなんです」
あの過酷すぎる冒険の日々を思い出す。もうあんな思いはしたくない。
「よし、では王家で所有する別荘を提供しよう、フロアベッドのフロア村に屋敷がある。そこをお主の住居とするがよい」
「ええ、それなら喜んで、フロア村は僕も住んでみたかった土地なので」
うん、別荘くらいは貰ってもいいかな……命がけで戦ったんだし。
「メイドや使用人は何人欲しい?」
「え、……いや、いらないですよ」
「それでは誰がお主を守るのだ?」
守る……そう、僕は守られないと生きていけない。忘れてた。
攻城用兵器や自然災害級の剣技が使える僕だけど、一般人を攻撃することはできない。
一人で屋敷にいる時とかに強盗にでも襲われれば、僕がやられることはないだろうけど、家の中の物は好き勝手にもっていかれてしまうだろう。
「少し歳はとっているが、護衛兼メイドとしてうってつけの人物がいる。その者をそなたの従僕としよう」
「は……はあ」
謁見の間に穏やかな雰囲気が満ちる。皆それぞれ報酬を受け取り、上機嫌だった。デッカードも魔法学院の名誉教授の座を貰い。ルシアは一滴が金貨一枚に相当する秘宝の香水をもらっていた。誰でも魅了できる凄い良い匂いがする香水だというが、まあ僕には使わないだろう。
報酬を受け取って思った。ああ……僕の冒険はここで終わったのだ……と。