魔王討伐
僕は三日間戦い続けた。魔王はどんな不死者よりも不死に近く。一瞬の油断が敗北を招く、ギリギリの戦闘だった。
「やった……の?」
三日の間僕に回復魔法をかけ続けてくれた、大聖女ルシアが呟いた。
魔王の玉座、嫌らしいくらいに豪華で、威圧感で溢れた広間に、圧倒的な静寂が訪れる。
そこに……魔王は……。
居ない。
わっと歓声が上がる。
普段はあまり仲の良くないルシアと賢者デッカードがハイタッチをしている。誰もが羨む美人なルシアと背が高く痩せ型で神経質そうな顔をしたデッカード。
周りの皆もこの困難なミッションを達成した喜びを、全身で表現している。
「やったじゃない、ユウキ」
ルシアが僕に抱きついてくる。柔らかな膨らみが僕の胸でつぶれて、散々戦って汗にまみれているのに、ルシアからは良い匂いがした。
金髪碧眼でロングヘア、健康的な小麦色の肌をした人形のように綺麗な女の子だけれど、とても強い魔法使いなのだ。
「しかし、本当にひやひやしたぞ」
デッカードが僕の肩をバシバシ叩いた。
「やりましたね。ついに魔王討伐です。おめでとうございます」
王都クリタニア騎士団の団長ギレンが僕の前に跪き祝辞を述べた。
鉄製の兜からのぞく無精ひげの生えた四十がらみの男は、疲労の極致にありながらも、ニカッと良い笑顔で笑った。
僕の持っていた聖剣ブレイブが静かな音を立て、起動状態が解除される。辺りに敵がいなくなった証拠だ。
僕はその場にくずれ落ちる。
「おっと」
ギレンが僕を支えてくれた。三日間途切れなく戦ったのは僕とルシアだけで、他のメンバーは魔性のものを完全に排除する結界の中で気絶して、目が覚めたらまた戦うという行動を繰り返していた。そのためかギレンには少し余裕があった。
「あたしの聖杖クリスタニアはもう駄目ね」
ルシアが持った豪華な装飾を施された魔導杖がひび割れガラガラとくずれ落ちる。およそ二百年もの間、歴代の聖女が魔力を込め続けてきた最強クラスの魔導杖は最後まで僕らを守って散った。
「その……ルシア……ごめん、僕のために、君の大事な杖を……」
「あはっ、魔王は倒したんだし、気にしない、気にしない。杖はまた作ればいいわ、優秀なあたしのひ孫かその後の子孫あたりが完成させるわよ」
そう言ってルシアは笑った。少しだけ悲しそうな笑みで。
「とりあえず、魔王はこれで五百年の眠りにつくわ。これからの人類史を発展の時代にするため、あたしたちにはまだまだやることがあるわ」
「うん……そうだね」
正直僕は疲れきっていて、とてもその後のことなんて考えられなかった。
「とりあえず。何か食べて眠りたい」
「ああ、そうだな、三日も何も食わず眠りもせず戦い続けたんだしな、聖杖クリスタニアがなければ死んでたな」
と、賢者が言った。
デッカードが結界内のリュックから、干し肉と水を取り出してきて僕に渡してくれた。ルシアは優雅に紅茶を煎れ始める。
僕は木のコップに注がれた水を一気に呷った。
「ああ……美味い」
ただの水を飲んだだけなのに、シロップのように甘く感じた。続いて干し肉にかぶりつく。その塩味がたまらなく美味に感じる。
あんなに不味いと思っていた携帯食が今はどんなご馳走より美味しい。
一人分の食事をあっという間に食べきった。まだ、全然足りないんだけど、今度は急激な眠気におそわれる。
僕はもそもそと結界に入って、何度も使い回された寝袋に潜り込むと、あっと言う間に眠りに落ちた。
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