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勇者一行、ついに魔王と決戦……はしなかった

作者: さや


「この奥に魔王が…」


禍々しい気配を放つ扉の前に立つのは、勇者が率いるパーティだった。

異世界より召喚された黒髪黒目、肌が綺麗な点以外特に特徴の無い少年勇者・ハル。

聖女として神殿より遣わされた波打つ金髪に艶めかしい肢体の聖女・レイラ。

帝国魔術師として他に類を見ない程の才を持つ銀髪の壮年魔術師・ジーク。

誰よりも逞しく鍛え抜かれた肉体を持ち、熱い性格を表すかのように赤い髪をした拳闘士・フェン。

琥珀色の髪をした、帝国の第3王子でありながら文武どちらの才も持たないが人の良さは帝国一故に「せめて補助役をさせてほしい」と同行した王子・ウィンバルド。

彼ら5人は魔王討伐の旅に出てから、数々の困難を乗り越えようやく魔王城最上階、魔王が居るであろう場へ辿り着いた。


「……行くぞ、皆!」


俺たちの戦いはここで終わるんだ!

ハルはこの旅の目的である魔王とこれから対峙するのだと意気込んで扉を開けた。

その先に見えた光景は


「やだぁ!パパまだ!まだ死んじゃやだぁ!」

「魔王様!姫様はまだまだ未熟なのです!どうか、どうかもっと長生きしてください!」


困惑する勇者一行。

勇者一行の前に広がる光景は、1つの大きなベッドの上で水色の髪の少女が泣き叫び、その傍では黒い長髪に角の生えた男が付き従うように、少女と共にベッドで横たわる存在に語り掛けていた。


「えー……っと、あの…」

「何だ!今、魔王様が生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ!」

「パパお願い!ねぇ、まだ私の花嫁姿見てないよ!見ないで死んでいいの!?」

「え、どうすんのこれ」

「今から帰ります…?来た道戻るのなかなか大変ですけど…」

「帰る訳が無かろう。そもそも魔王が死ぬのならその後あの娘を倒せば完全に魔王の血は絶たれる訳で」

「えー?あんな子供殺すのすっげぇ罪悪感だわ…」


勇者たちはこの現状をどうするべきか作戦会議を開く事にした。

そんな中、1人の人物が少女たちに話し掛ける。


「あの、生きるか死ぬかの瀬戸際とはどういう事でしょうか。差し支えなければ教えて頂けますか」


勇者一行は心の中で「空気読め王子ー!」と叫んだ。

しかし意外にも、少女に付き従う男は説明をしてくれた。


「魔王様の寿命がもうじき訪れそうでな。魔王様本人が生きようと思えばまだ生き長らえる事も出来るのだが、『可愛い愛娘に看取られて逝けるなら幸せな魔王生だった』とかふざけた事を抜かすので、必死に姫様と止めている所だ」

「そうよ!どこの誰だか知らないけど、こんな時に邪魔に入るなんて人の心とか無いの!?」

「えぇー…魔族に人の心説かれた…」

「しかも美形の角の人、あの人が魔王って言われても違和感無いくらいの威厳ありますけどまさかの魔王じゃないんですね」


レイラの言葉に一同は角の男をまじまじと観察する。

艶やかな黒髪に切れ長の赤い瞳、端正な顔立ちをしたこの男が玉座にでも座っていたら誰もが魔王と間違えるだろう。

ただただ事の成り行きを見守るしか出来なかった勇者一行に、ベッドに横たわる存在らしき声が語り掛けた。


「ハッハッハッ、よく、来たな……勇者たち、よ…」

「魔王様ご無理はなさらないでください!!!」

「勇者なんかより私の話を聞いてよ!おじいちゃんになって孫溺愛してから死んで!」


息も絶え絶えの魔王と、それを心配する少女たち。

そして男は少女の言葉を聞いてからハッと思い立ったように叫ぶ。


「魔王様!あと少しだけでもいいので生きましょう!ほら、今なら姫様の番候補が沢山居ますよ!」


男はハルの元へ駆け寄り、「話を合わせろ。孫さえ生まれれば後は本人が生きたいと願うはずだから」と囁いた。

(え、俺ら魔王討伐しに来たんだけど)

そう思いながらもハルは自分と同じ年頃に見える少女が泣いているのを放置する事は出来なかった。


「えー…番候補になりました勇者です?」

「……愛しい娘の、リリの、番の面談をする体力が…」

「勇者たち、回復薬などは無いのか。光魔法の回復魔法は魔王様には毒だが、神殿作ではない上級回復薬なら魔王様も使えるのだが」

「あります、これで良いですか?」


レイラが男に回復薬を渡すとジークは「何故渡したこの愚か者」とレイラを叱責するが、レイラは聞こえないフリをした。

男は魔王に回復薬を使い、魔王の体が起き上がれるように介抱をする。


「……世話になったな、勇者よ……我は魔王、名は捨てた。好きなように呼ぶがいい」

「そして私は魔王様の右腕、アズベルだ」

「娘のリリよ。パパに回復薬くれて、ありがと…」


泣き腫らした目を擦りながら少女・リリは言った。

ハルと同じ程の見た目をしたリリは、一見すると愛らしい少女のようにしか見えず魔王の娘とは思えない容姿をしていた。


「では、これより第1回、リリの番候補面談を始める。面談後は短期間の同居をここでしてもらおうと思っている……勇者から自己紹介を」

「えっ……と、1番、勇者!ハル・アオヤマ!異世界の日本から来た高校生です!特技はおでこで玉子を割る事です!」

「おでこで玉子を…?変わった特技ね」

「次の者!」

「2番!拳闘士フェン!一生娘さんを幸せにすると誓う!降り掛かる火の粉は俺が振り払ってやるよ!」

「逞しい男の人って素敵よ!」


ハル、フェンに促され、ジークが続けた。


「さ、3番、帝国魔術師のジーク・ドルバ、魔王軍にも引けを取らない魔術が得意だ…?」

「いわゆる『いけおじ』、かしら?」

「ジークもノリノリなんですね?はいはーい!4番、聖女のレイラ・カノヒアです。魔族にも使える回復魔法を何とかして開発したいと思います」

「将来こんなナイスバディになりたいわ!」

「……5番、魔王の右腕アズベルです。年下は趣味では無いですがとりあえず立候補しておこうと空気を読みました」

「口うるさいおじさんは却下よ!」


空気読みの右腕、ここに誕生。

空気読みのアズベルは残る1人、王子であるウィンバルドに視線を送る。


「あ、僕は良いんですけど、もう1人実は候補者が…」

「ウィン、候補者ってここには俺らしか…」

「あ、いやぁ。僕一応、王子として常時即時連絡を取れる手段があって、一応連絡したんだよね、ほら、魔王がなんか大変そうだったし。そしたら…」

「そしたら…?」


皆がウィルの言葉の続きを待つ中、突如上空に人が現れたかと思うと、綺麗に着地をした。


「6番!帝国国王のフィナード!私の元に嫁に来てくれると言うのなら!魔王討伐とかどうでもいい!」

「「「「え」」」」


ウィンバルド以外の勇者一行は叫ぶ。

「そんなのありかよ」、と…。


「あ、でも今陛下って、ウィンバルド様のお母様が離縁で国に帰られたから確かに独身ですね…?」


一同は沈黙した。

帝国国王であるフィナードは、第1・第2王子の母であり正妻だった王妃が亡くなった後、隣国から姫を捧げられた。王妃という存在は無くても良かったものの、フィナードは隣国の顔を立てる為に受け入れたのだ。

そしてウィンバルドが生まれ、しばらくした後に「祖国の為によくやった。今後貴女の祖国とは永久に良い関係を築き続けよう」と、祖国に帰りたがっていた彼女の為に離縁を申し出たのだった。

かくして確かに国王であるフィナードは独身なのだが。

ウィンバルドは困ったように言った。


「父に、『魔王の娘、主張が控えめな肉体の少女の外見してるよ』って言ったら『今から飛んで行く』って返ってきて…」

「ウィン、何でそんな連絡を…」

「年上の童顔の女性が好みなんだ、父は。けどほら、もう父より年上の人間の女性で童顔って言っても、ねぇ?」

「そうだけども!」

「人間の王よ……その心意気や、よし…!」

「いいんだ魔王…」

「娘さんを!私にください!」

「陛下!?お願いですからもう少し理性を取り戻してください!!」

「魔王、なかなか面白い方ですね……素敵…」

「俺、何の為にこの世界に……いや、死んだと思ったら生きてただけ幸せかもしれないけどさ…」


混沌。この状況を説明するにはこの言葉より他には無いだろう。

魔王に娘をくれと頼む子持ちの国王、国王を止めようとする帝国魔術師、何故か魔王に頬を赤らめ始めた聖女、困惑する勇者と三者三様。


「ウィンバルド様よ、俺はアンタが一番の魔王に見えてきたよ…」

「だって父には幸せで居て欲しいし、無駄な戦なんて無い方が良いでしょう?」


彼の微笑みは人の良さのある微笑みか、それとも裏に魔王の一面があるのか。

それは後世、様々な学者にも考察される事となるが、真意は彼と神のみぞ知る。




かくして、人間と魔族の争いは、魔王の娘と人間が番となる事によって終止符を打たれたのだった。


多分めでたしです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 終わりよければ全ていいんだよ!!っていう力業、嫌いじゃないぜ…!!むしろ好きかもしれん…!! あと聖女がおじさま好きなのは納得。押せ〜!! 国王のロリ婚疑惑が高まる…!!
[気になる点] 誰と誰がくっついたんか
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