96.エリちゃん
「おはよう」
私は窓際の蕾に挨拶をする
ライラさんに言われてから、日課になりつつある、蕾に話しかけるという行為
太陽の光を反射して、たまにキラッと光るような気がするけど、花が咲く気配はあるような、無いような………
「ごめんね。私が魔力使えないから…君はいつまで経っても蕾のままかもしれない……」
もちろん蕾からの返事は無い
その代わりに、コンコンと、扉を叩く音がする
エリちゃんが、かしこまって何かを伝えに来たようだ
「みさき様宛に宮廷の使者の方がいらっしゃっています」
「『明晩、カイリ殿下、トキ殿下がみさき様の元へおいでになることをお望みです』との事です。いかが致しますか?」
いかが致しますか?…………?
私か?私がどうするかを決めるのか?
いつも、気づいたら後ろにいたり、いきなり訪問してきたりしていた気がするんだけど、なぜ突然お伺いが立てられたんだろうか…………。
「……ど……どうぞ」
私は控えめに答えたが、エリちゃんは私の言葉を待っていた
なんか、もっときちんとしたお出迎えの言葉が必要なのかな?
「お待ちしております……?」
これでいいのだろうか?
お偉いさんに使う言葉の勝手が分からない
エリちゃんは「お言葉を承りました」と言って、部屋を去った
何かあるのだろうか?
不思議に思いつつ、自分の体のダルさを引きずって1日を過ごした
第4都市のクリスタルに触れてから、体のダルさが増した、頭痛に気を取られていたけれど、最近なんだか体が重い
そういえば、あのクリスタルどうなったんだっけ?
あれ?砕けなかった?
朧気な記憶を手繰り寄せる
どうしよう……わたし、クリスタルを、壊してしまった気がする……
まずい……マリアどころか、破壊神かもしれない
クリスタル壊しちゃったら………ヤバイよね…
第4都市の人々の魔力が浄化できなくなってしまう……
濁ったクリスタルをどうにかできないかなって思ったけど、どうにかするどころか、壊してしまったら元も子もない
もしや……
そのことで2人がお話に来るのか?
国の大切なものだし、替えになるものがあるような代物では無い
新しくクリスタルを作ることも出来ない
私の力がないばかりに……
結局迷惑をかけることしかしていない気がする
どうしよう……
また何かに埋め込まれて、新たなクリスタルの代用品を作る。なんてこと……無いよね?!
不安が私を包む
手が冷たい
体が冷たい
あのクリスタルの中の嫌な記憶が脳裏をかすめる
ダメだ!!怖い!!
不安に押しつぶされそうな私はエリちゃんを呼んだ
不安すぎて誰か近くにいて欲しい
「いかが致しましたか?」
エリちゃんに、事の経緯を話して、不安なことを伝えた
すると、
「そのようなことは、万が一にも起こらないと存じますが」
と、サラッとかわされた
「しかし、もし、みさき様の身に再びそのようなことが起こるようでしたら、そのために私がおりますので」
と、エリちゃんは真剣に話した
「え?それってどういうこと?」
「私は、元々そのためにいるのです。みさき様が、もう二度とお辛い思いをされないために、みさき様の影武者となるべく、施設から引き取られ、こちらでみさき様のお世話をさせて頂いております」
何それ。初めて知ったんですけど?
エリちゃんは、私が記憶を無くして目覚めた時から、側仕えとして私のお世話をしてくれていた
確かに、背格好も似てるし、私が聖堂でご挨拶できない時は、えりちゃんが行っている
でも、エリちゃんにそんな魔力は無いし……
「何でそんなことに??!」
「みさき様をお守りするためです。今は国が安定していますが、国の魔力が不安定になれば、命を狙われたり、宮廷にさらわれたり、酷い目にあうかもしれません。その時のために私がおります。ですから、ご安心ください!」
エリちゃんは力強く言った
心強い。と思うと同時に、なぜエリちゃんがそこまでしてくれるのか、疑問が湧いた
「エリちゃんを身代わりにして助かりたいとか思わないよ」
「私のことを少しお話してもよろしいでしょうか?」
と言うと、エリちゃんは、自身の過去を話し始めた