95.目が覚めたら帰宅していました
フワフワと意識が戻ってくる
見慣れた部屋、使い慣れたベッド
起き上がると、そこにはラディアさんが居た
「私、いつの間にここに……?」
「お目覚めになられましたか?」
ラディアさんはこちらをじっと見つめている
「ユミ様をお呼びしましょう」
そう言って、部屋を出ていった
私は起き上がって、ドアを見つめる
すると、ユミさんを連れてラディアさんが戻ってきた
「みさき様。お体はいかがですか?」
そう言って私のもとに歩いてくるユミさんの方が体調悪そうな表情だった
「私は大丈夫なんですが……。ユミさんの方が大丈夫ですか?」
気になってユミさんに聞く
「私は特に何もございません」
何も無い割には表情が険しい……
もしかして、私が原因ですか?
私が寝てる間に、何かやらかしてたとか、そういうことですか??!!?
「あの!すみませんユミさん!!私が何かしでかしてしまって、ご迷惑を…とか、そういう感じですか?!」
「いえ。決してそのようなことは……」
気になる。何かありそうな気がする。
わたしはじーーーっとユミさんを見つめた
すると、いつもなら、こんな私の小さな抵抗などサラリとかわしてテキパキとお仕事を遂行するユミさんが、珍しく語り出した
「みさき様には、今までお話出来ずにいたことが数々ございました。」
「あおい様のこと、クリスタルのこと、記憶のこと……。本当は、お忘れになられているなら、そのままの方が良いと思っておりました。」
「ですが、戴冠式になれば、この国の国王となられるお2人にはマリアの存在もお伝えしなければなりませんし、過去に触れることもお伝えしなければならないことは数々ございました……」
「どどど……どうしたんですか?いきなり?!ユミさん??」
私はいきなり語り始めたユミさんについていけなかった。
すると、ラディアさんが声をかけた
「みさき様。ユミ様は、みさき様が過去の記憶でお辛い思いをされていることに、心を痛めていらっしゃいます」
確かに、過去の記憶は苦しいことばかりだった
でも、多分私の記憶はバラバラで、心と体のバランスが取れていない
なので、今となってはあんまり実感がない
「ユミさんがそんなに辛い顔をされるようなことはない思うのですが……」
「いえ。私が……私が止められていれば、そうすればあんなに惨いことも……クリスタルと同調することも……なかっ…たっ……」
ユミさんの目からは涙が溢れた
ちょっとびっくりした
そんなに思い詰めなくても……と思ったけど、私のことを思って、ユミさんは辛い過去の記憶を1人で抱えて居てくれたんだ
私はユミさんの元に歩み寄って、ぎゅっと抱き締めた
「ユミさん。ありがとうございます。私の代わりに辛い記憶を留めていてくれて。」
私はユミさんに感謝した。私の心が壊れずに過ごせたのは、きっとユミさんに守られていたからだ
ユミさんは、落ち着くと、私に少しずつ過去の後悔と懺悔を口にした
あの時止められていれば。とか、あの時手を離さなければ。とか、あの人に出会わなければ。とか、どれだけIfを並べても過去は変えられない
権力や武力の前では私達は無力だ
ユミさんは、私の記憶の封印が解かれた夜のことをも教えてくれた。話してくれた過去の話と、私が夢に見た記憶とを並べて、大分記憶が形あるものになった
私の過去を語るユミさんの顔はとても辛そうだった。本人に自覚はあまりないらしい
感情が顔に出るとはこのことだ
ユミさんは気丈に振る舞っているけれど、本当はずっと苦しかったのかもしれない
私は、これからは何でも話して欲しいと伝えた
それでユミさんの心が軽くなるのなら、辛いことは分け合った方がいい
というか、私のことで心を痛めるのは申し訳ない
私は周りの人に守られて、生きてこれたことを実感した
きっと、みんながいなければ、私は今頃生きる屍みたいになっていたのかもしれない
この国の人々の負の魔力を浄化して、心を清め、安定した国家を維持するためだけに生きている浄化マシーンとしての機能があれば問題ない
結果、魔力を使えない私には、お似合いの過去だった
でも、なんでカイリ殿下はこんなに気にかけてくれるんだろう……トキ殿下も甘やかしまくって、体も気遣ってくれる
これから国家を治める2人なんだから、浄化マシーンとして機能していればOKと言われてもいいものなのに
そんなことをモンモンと考えていたら1日が終わっていた