94.2人の葛藤
「カイリ。」
「何だ?」
「みさきの浄化って…」
「そろそろ満月を迎える。本来ならその日が望ましいだろうな」
そう言うと、カイリは椅子に座ったまま頭を抱えるようにうつむいて呟いた
「……自信が無い……」
「ん?まぁ、さっきみたいにみさきが拒絶すれば……」
「じゃないんだ……」
「???」
「キスでさえ、恥じらいつつもあんなトロトロになるみさきの姿に、自分を止められる自信が無い……」
「あ~~~~~なるほど………」
トキにも思い当たる節があった
魔力の感じ方は人それぞれだが、みさきにとっても、自分にとっても、お互いの魔力が触れ合うことで官能的な感覚を有するのは経験済みだった
「魔力の相性が良すぎるんだろう。魔力に少し触れただけでこちらの理性も持っていかれそうになる。」
「魔力耐性の無いみさきなら余計官能的に感じているだろうしね~……」
2人は頭を抱えた
「「はぁ……」」
悩ましげにため息をついて、2人は考えを巡らせた
そして、トキが閃いたとばかりに話し始めた
「でもさ!別に問題ないじゃん?先に陣さえ敷いておけば、勝手に魔法は発動してくれるし、後はきちんと魔力が循環する方がむしろ………」
言いかけて、カイリからチクチクとした視線を感じた
「………………」
カイリは無言で視線だけ送ってくる
「あ~~。嫌われたくない。って?」
わかってるなら、言うな!!と目で訴えてくる
「みさきが少しでも魔力をコントロールできるようになれば、もぅ少しやりようはあるんだが……」
うなだれているカイリの横に背を向けて座り、肩に背をもたれながらトキは言った
「ねぇ、カイリ。もぅ、諦めよ?イヤイヤ言ってるみさきに強引にカイリが迫って嫌われても、それでも最終的にみさきの魔力が浄化されれば結果オーライなんだから」
「他人事だと思って……。」
たとえ嫌われてないと言われても、最終的に微妙に取られる距離感が1番辛い……
「そうだ。ついでに、みさきの魔力を可視化できるものに置換できないかな?」
「結晶石を作れと?」
「そーそー。みさきは自分で魔力の出力が出来ないからって思ってたけど、浄化の工程も似たようなもんじゃないかい?どうせなら一緒にやってしまおう」
「他人事だと思って……。」
トキは自分が安全地帯に居ることを良いことに、言いたい放題だ
「そう言えば、発注してたものが今日届くってロイが言ってたし、それの準備もしよっか」
カイリの心配事は無視され、話は進む
「はぁ……。とりあえず、王都に帰るか。」
諦めたのか、カイリは帰宅を提案した
「この都市と教会のことはルゥ達に任せよう。少し情報操作もかけた方がいいかもしれない。」
「そうだね。近々この場所も移転した方が良さそうだし、陽の光が遮られない静かなところに再建させた方が良いだろうね」
2人は礼拝堂に向かい、話を済ませると、お揃いのローブを羽織って王都に向けて出発した